テラーノベル
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川沿いの道を走るマイクロバスの中。
北野が運転席に、チバラキファイブの5人が後ろの席に座っている。
倫「いやあ、よく学生さんたちがOKしてくれたね」
北野「話をしたら、けっこう乗り気でしたよ。戦隊ヒーローのコスチューム作ってみたかったって言う学生も結構いまして」
沙羅「けど金の方は大丈夫なのかよ?」
北野「材料費は市役所の予算で払いますけど、それ以外はボランティアでやってもらえる事になりました。まあ、大学にとっても宣伝になればというのもあるんでしょう」
北野が紙の束を後ろの席に差し出す。
北野「それで、みなさんの色というかキャラの割り振りなんですが、その紙に書いておきましたから、回して下さい。時間が無かったんで、僕の方で決めさせてもらいました」
玲奈「え! あたしがレッドですか? でもレッドってリーダーなんじゃ?」
北野「まあ一番背が高いし運動神経もよさそうですから。レッドは戦隊の顔ですからね」
瑠美「それでいいんじゃない? ふうん、あたしはブルーか」
智花「あたしはイエローなんですね。なんか複雑」
沙羅「あたしはピンクね。まあ、いい線じゃん」
倫「ちょっと北野君。あたしがブラックなのは、なんか深い意味あんの?」
北野「あ、いえその……頭脳派とか参謀役のイメージって事でして。あ、みなさん、見えてきましたよ」
5人がそれぞれにバスの窓に顔を近づける。雑木林に囲まれ、そこだけ数メートル小高くなった場所に、二階建ての長い校舎が並んでいる。
5人と北野がマイクロバスを降りて、石段を登りキャンパスに入る。樹木があちこちに立ち、アスファルトの細い通路が伸びている。敷地のあちこちに石の像や様々な形の石のオブジェがある。
智花「へえ、いかにも芸大って雰囲気ですね」
校舎に近づくと50歳ぐらいの年配の女性が入り口に立っていて北野に声をかける。
女性「市役所の方ですか?」
北野「はい、まちづくり振興課の北野です。この人たちが、例のご当地戦隊のメンバーになる方たちです」
女性「ではご案内します。こちらへどうぞ。あ、申し遅れました。私は森田和江(かずえ)と申します」
北野と和江が横に並んで話しながら先に校舎の廊下を歩き、5人が後ろから続く。
玲奈モノローグ
「芸大の先生なのか、あの人。あたし大学の中に入ったの、生まれて初めてだ」
廊下の天井から下がっている案内板。「先端芸術表現科」と書いてある。
その一角の大きな部屋の一つに入ると、女子学生が6人。
学生1「お、カズちん。その人たちがそうなの?」
玲奈モノローグ
「カズちんって……最近の大学生は先生をそんな風に呼ぶのか」
北野「今回はご協力感謝します。こちらの5人が、お話した戦隊のメンバーでして」
学生2「こちらこそよろしくお願いします。フフフ、あたしたちにとっても腕の見せ所ですよ」
大きな絵具で汚れた大机に北野と5人が座り、後ろを取り巻くように学生たちが机によりかかる。
学生3「イメージ図はこんな感じですけど、どうでしょう?」
広げられた大きな紙に5体のヒーローの立ち姿。
瑠美「へえ、なかなかじゃん。ごつい感じでもないね」
学生4「全員女性の戦隊ですから、それらしいラインにしてみました。下はスカートとスパッツを重ねます。これなら動きやすいし、派手な動きも気になりません」
倫「ああ、そりゃ助かる。この年でパンチラは御免だからね」
玲奈「でもこれ、視界はどうなりますか? 顔が全部覆われるみたいですけど」
学生5がサングラスの様な見た目の板状の物を差し出す。
学生5「その部分はこれで作ります」
沙羅が手に取って表と裏を見る。
沙羅「ああなるほど。マジックミラーみたいになってんだね」
智花が沙羅から板を受け取る。
智花「本当だ。外から見ると黒いけど、内側からだと普通に周りが見えるわけね」
北野「みなさん、デザインはどうですか?」
玲奈「あたしはこれでいいと思います」
他の4人もうなずく。
北野「ところで、材料費はいくらぐらいになりそうですか? 市役所の予算で足りるかどうか」
そこへ40代ぐらいの女性が入って来る。
女性「それは私から。遅れてしまってすみません」
北野が急いで椅子から立ち上がって一礼する。女性は電卓を手にして机に歩いて来る。
女性「川村です。会議が長引いてしまって」
玲奈モノローグ
「あの先生の助手の人か」
川村が電卓に打ち込んだ数字を北野に見せる。
川村「費用は合計でこんなところですね」
北野「え! 思ってたよりずいぶん安いな。本当にこんな金額でいいんですか?」
川村「作品のクォリティは落としませんから心配いりませんよ。うちの大学は実習で普段から大量に特殊な材料を購入してますからね。業者さんも格安で売ってくれるんです」
学生6「それじゃ、メンバーのみなさんの採寸を始めていいですか?」
北野「はい、お願いします。ええと、僕はどこにいれば?」
和江「そこでお待ちになっててください。採寸は隣の部屋で行いますから。さあ、みなさん、こちらへどうぞ」
壁にあるもう一つのドアの向こうへ歩いていくチバラキファイブの5人、学生6人と和江。
川村が北野の正面に座り、机をはさんで話し始める。
隣の小部屋。学生たちがメジャーを手にして、5人の体のサイズを測る。
学生1「わあ、すごい締まった体つき! スポーツか何かやってるんですか?」
玲奈「あ、あはは。やっていた、過去形ですね」
学生2「あ、あの。そんなに胸反らせなくていいですよ」
瑠美「え? ああ悪い。別に胸大きく見せようとしてんじゃないからね」
学生3「えーと、お腹の力抜いてください。仕上がりが小さいと、着た時きついですよ」
智花「あ、すいません。いつもの癖で」
学生4「うわ! プロポーション完璧ですね。うらやましい」
沙羅「そ、そう? まあ、それほどではあるけどね」
学生5「きゃあ、いかにも大人の女性って感じですね。あたしも将来こうなりたい」
倫「おだてたって何も出ないよ」
採寸が終わり、一同が元の部屋へ戻って来る。
北野「終わりましたか。それで完成までどれぐらいかかりそうですか?」
学生1「思った以上にみなさん、メリハリのある体つきなので、完全立体裁断になりますね。予想より時間がかかりそうで」
北野「え?! 何週間とか?」
学生1「五日ください」
北野「え? 五日で出来るんですか?」
学生2「マスクは工芸課の男子も手伝ってくれますから。来週試着して、問題がなければすぐ納品できます」
川村「そうだ、せっかくいらっしゃったんですから、構内を見学なさいませんか? その子たちがご案内します」
倫「そうだねえ。あたしはお願いしようか。芸大の中なんて、そうちょいちょい見る機会ないからね」
学生1「じゃあ、こちらへ。ご案内します」
学生たちの後に続いて部屋を出るチバラキファイブの5人と北野。
建物を出ると、大勢の若者がぞろぞろと歩いている。
玲奈「ずいぶん人が多いんですね。いつもこうなんですか」
学生1「あれは新入生ですね。来週の入学式の下見に来てるんですよ」
玲奈「新入生……」
玲奈の顔が急に暗くなり、立ち止まる。前に進んだところで倫が気づき玲奈に声をかける。
倫「どうしたの? 一緒に来ないのかい?」
玲奈「あの、すいません。あたしちょっと疲れたんで、さっきの所で待ってます」
玲奈はそのまま一同から離れ、速足で建物の陰に消える。
木のベンチに一人腰かけて、両手で頬杖をつく玲奈。脳裏に今朝の自宅での両親との会話が再現される。
父「分かっているのか、おまえはもう28なんだぞ。同級生はとっくに就職してるか結婚してるんじゃないのか?」
母「そうねえ、お見合いでもしてみる?」
玲奈「お見合い? いや、いいよ。まだ気持ちの整理ついてないし」
母「そう言うけど、いつまでも若くはないのよ。もう28なんだし」
川村「あら、あなたは行かなかったんですか」
玲奈が目を上げると川村を和江が前に立っている。
玲奈はあわてて立ち上がり、和江に向かって頭を下げる。
玲奈「あ、先生、さきほどはどうも」
和江と川村がきょとんとした表情になり、川村が大笑いする。和江が苦笑しながら玲奈に言う。
和江「違います、違います。先生はこちらの方。川村教授ですよ。私はただの学生です」
玲奈「は?」
川村「あはは、それだけ私がまだ若く見えるって事にしときましょ」
玲奈「そ、それは大変失礼しました! 申し訳ありません!」
川村「だから、いいわよ、気にしないで。それより、こんな所に一人でどうなさったの? ひょっとして体調が悪いとか」
玲奈「いえ、あの。新入生の人たちを見てるのが、辛いというか」
川村「ふうん。立ち話もなんだし、とにかく座りましょ」
玲奈、川村、和江が横に並んでベンチに腰を下ろす。
川村「新入生を見たくないって言ったわね。よかったら訳を聞かせてくれます?」
玲奈「はあ。あの人たちの人生は、これからなんだなあって思うと、何と言うか、妬ましいというか」
和江「あなただってまだ若いじゃない」
玲奈「実はあたし、先月までバレーボールのプロリーグの選手だったんです。でも足の故障で現役をあきらめなきゃいけなくなって」
和江「まあ、そうでしたか」
玲奈「高校にもスポーツ特待生で入って、それからずっとバレー一筋だったんで、ある意味、選手としての人生終わっちゃったんです。なにもかもこれから始まる、そういう人たち見てると、辛い気持ちになって」
川村「失礼だけど、今おいくつ?」
玲奈「28です」
川村「まだ28じゃない。この和江さんなんて50歳でここの学生なのよ」
玲奈「どうしてそのお年で大学生なんですか?」
和江「私は夫と小さな絵画教室を経営してたんですよ。主に子どもたちに絵を描く楽しみを教える教室。夫は美術大学卒の売れない画家でしてね。でも、その夫が、三年前に突然病気で他界してしまいましてね」
玲奈「それは……お気の毒です」
和江「絵画教室は一度閉めたんですけど、再開してほしいという要望が多くてね。私の絵は自己流で、教える資格とかも持ってなかったし。それでこちらの大学に入ったんです。50の手習いとはこの事ね」
川村「ここの学部を卒業すると美術の教員免許が取れるんですよ」
和江「美術教師の免許があれば自信持って人様に教えられるでしょ? そうすれば夫の遺志も継げますからね」
玲奈「それは、ご立派です」
川村「あなたも先の事で悩んでいるなら、大学で学んでみたら?」
川村が脇に抱えている書類袋の中から一枚の紙を取り出して玲奈に渡す。
川村「帰ったらネットでそのリストの学部学科を検索してごらんなさい。最近はほとんどネットだけで受講できる通信制の大学もあるのよ」
玲奈「大学ですか? けど、あたしもう28で……あっ! そうか、和江さんも」
川村「あら、みなさん戻って来たみたいね」
北村、他の4人、学生たちが玲奈たちの方へ歩いて来る。
川村「世間では誤解してる人が多いかもしれないけど、ごく一部の例外はあるけど、大学に入学する事自体に年齢制限はないんですよ」
和江「そして、夢を持つ事にも、年齢制限はありませんよ」
学生たちが和江のところへ駆け寄る。
学生1「カズちん、今日の講義は終わりでしょ? みんなでお茶しに行こうよ」
学生2「ケーキがおいしい店見つけたんだ」
和江「おやおや、こんなおばさんが一緒でいいの?」
学生3「年は関係ないって。カズちんも大学の同期なんだから、れっきとした女子大生だろ?」
和江「ほほほ、うれしいわね。娘時代に戻ったようだわ」
川村と和江が立ち上がり、北野と5人に軽く会釈する。
川村「では今日はこれで。完成したら私からご連絡差し上げます」
北野「はい、よろしくお願いします」
川村は校舎の中へ、和江は女子学生たちに囲まれて郊外へ去って行く。
倫「玲奈ちゃんだっけ。気分でも悪かったのかい?」
玲奈「いえ、もう大丈夫です」
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