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日本のとある市。その市の過半数の地主であり、地域発展に大きく貢献した一族。【紫苑一族】。一族が売り出す質の高く美しい布は、天皇献上品とされることもある。そんな紫苑一族の裏の顔。それは、いわゆるヤクザと呼ばれる組の当主一族だ。
これは、その組の若旦那と、その片腕の話。
使用人「若様、朝でございます。」
紫「…分かっている。飯はそこに置いておけ。」
使用人「は、はい…!」
鋭い眼光を飛ばすこの青年は、紫苑組次期当主、紫苑或間。冷静沈着で、頭脳明晰。齢17にして、常日頃から表情を変えず凛々しくある姿は、次期当主に相応しいと言える。
だが、使用人の多くは彼を恐れている。
彼がの鋭い瞳に射抜かれれば、皆肩をすくませるのだ。学校でも所謂一匹狼の彼は、蒸れることを好まず、常に一人で行動する。本来ならば目付の者が必要なのだが、彼はそれを却下した。それは、彼の大切な者の為だった。 服を着替え、飯を食い、身支度を整えて学校に行く。いつも通りの変わらぬ日々。彼はずっとそれを願っていた。
紫「………」
生徒1「紫苑君、また今日も一人みたい…」
生徒2「おいお前、話しかけてみろよ!」
生徒3「無理だって💦」
生徒4「暇君がいた時は、こんなことはまだマシだったのにね…」
紫「…ギロ」
クラス「Σ\(゚Д゚;)ヒィィィィ」
紫(聞こえてんだよ。馬鹿どもめ。)
彼にはかつて、暇七二という護衛がいた。彼とその側近は、いつしか主従の関係を超えて、互いに恋慕し、遂には体を交えるまでとなった。
だがしかし、半年前の冬、彼の護衛は誰に伝えることも無く、忽然と姿を消した。
鮮明と覚えている、年の瀬も近くなった師走の頃。まだ誕生日も進級も迎えてなかった2人。或間は、珍しく自分から誘ってきた七二と身体を交えた。
或間は、七二と身体を交えるのが好きだった。お互いがお互いを求め合うあの時が。一切余裕のない顔で、
赤「わかッ///わかぁッ///♡!」
と自分を呼ぶ七二が、何よりも愛おしかった。そして、そのまま自分の布団で果てた彼の寝顔を見つめるのも、大好きだった。
その日も彼の寝顔を見つめ、彼を抱きしめながら眠りについた…筈だった。
目を覚ますと、隣には誰もいなかった。
使用人たちに聞いても、誰も知らないと言う。屋敷中を探しても、どこを探しても彼はいなかった。
それ以来、彼は一人で荒れに荒れた。
周囲の町の不良集団に喧嘩を売っては1人で怪我ひとつない状態で複数人をコテンパンにする。そうして、ストレスを発散していた。
せめて、彼の生きている情報が欲しい。
こんな社会にいるから、自分の組が恨みを買っているところはいくつか思い当たる。そこに連れ去られていたら…殺されでもしていてら…そう思うと、いても経ってもいられないのだ。
紫「はぁ…」
紫(会いてぇよ、七二。)
或間の右薬指にある赤い宝石の指輪が日光を反射して、キラリと光った。
これは昔、或間が七二の誕生日に送ったペアリング。七二は紫、或間は赤の指輪をつけた。誕生日の近い二人だが、若頭とその右腕とでは、扱いが違う。或間が盛大に祝われるのに対して、七二に対しては各々の口から、祝いの言葉が告げられるだけ。だから、せめて或間だけでもと、毎年七二に誕生日プレゼントを渡して、2人でちょっとした誕生会をするのが、毎年の恒例だった。
それも、今年はできなかったが。
彼がいなくなってから、周囲の人間は、更に或間を恐れるようになった。彼が、七二を飛ばしただの殺しただの散々と噂された。そして、彼の機嫌を損なえば、次は自分達も飛ばされたり、首を跳ねられるのではとも。使用人や組の者達は、それが、若旦那本人の耳に入っていることも知らずに、噂していた。
或間の怒りは、募る一方だった。
赤「若!」
今でも、鮮明に思い出せるあの声は、姿は、今、自分の隣にいない。
それが、今の或間にとっての、何よりの苦痛だった。彼等は、結ばれることはありえない。何故なら、2人とも男で、尚且つ、主従関係。そして、或間には贔屓にしている家の許嫁もいる。(最も、或間は余り好いていないが。)
あらゆる壁が、彼らを隔てる。せめて、せめて側近として、護衛としてならば、ずっと傍に居てくれる筈だったのに。
思い返せば、彼が失踪する前の数日間、少し違和感を感じていた。なのになぜ問いつめなかったのか。自己嫌悪へと陥るばかりだった。こうして、今日も鬱屈とした一日が始まっていくのだ。