この作品はいかがでしたか?
201
この作品はいかがでしたか?
201
ここは紫苑組のある市から少し離れた市。
その市のとある町には、ごく普通の一軒家があった。
桃「ひまくーん?」
赤「はい!」
ここの家主、音奏蘭に呼ばれて、声を上げた麻色の髪の青年。右手の薬指には、紫色の光が輝いている。彼こそが紫苑或間の右腕であり恋人の、暇七二だ。
赤「どうかしましたか?」
桃「いや、これからご飯作るから、食べられそうなら食べて欲しいけど、どうするかな〜って。」
赤「あ…そう…ですね…」
桃「あ、無理に食べないでも大丈夫だからね!」
赤「…すんません。」
桃「いいのいいのwひま君の辛さは、俺もわかるから。」
赤「…ありがとうございます。」
彼はこの家に居候している。それは半年前のある日、この家の家主である音奏夫妻に、拾われたからだ。
桃「…お腹、大きくなってきたね。」
赤「…はい。」
サスサス…
腕も体も細身の七二。その中で一際目立つのは、他の部位とは違って膨らんだ腹だった。
彼は男でありながら妊娠できる体質だった。
そして半年前の冬の日、彼は愛し合っていた自分の主との子を身篭ってしまった。
彼は焦った。相手は自分の主で、許嫁だっている。何より、組の次期当主となる人だったから。そんな彼との子供を。ましてや男の自分が身篭る事など、許されたことではない。彼は調べた。沢山調べて、その結果決めたのが、彼の迷惑にならないために、自決することだった。一人で子供を育てるという選択も、あったかもしれない。ただ、彼には身寄りが一人もいない。ましてや、記憶に残る限り、実の親からの愛情すら、受けたことがない。そんな状態の、まだ高校生の自分が、1人で赤ん坊を育て上げることなど、無理だった。そしてあの晩、彼は自分から誘い、愛してる人から、沢山の愛を受けた。そして、果ててるように見せて寝たふりをし、彼の腕から抜け、最後に彼の唇に口付けを落としてから、屋敷を後にした。携帯も服も何も持たずに家を出て、辛うじて残っていたバスに乗り、終点まで行った。予め終点までの金は計算していたから、持ち金も全て無くなった。そして、バス停近くの大きな川の上の橋に向かった。
赤「若…愛してます…ずっと、貴方のお傍に居たかったです…ポロポロ」
橋の柵の上に立った彼は、そう零し、まだ胎児の見る影もない腹部に触れて、
赤「ごめんな…ママも、一緒に死ぬからな…ポロポロ」
そう言って、川に身を投げ出した…筈だった。
桃「だめ!」
ガシッ
赤「ッ!?」
誰かに腕を掴まれた。
桃「ダメだよッ!死んじゃ、ダメッ…ポロ」
黒色に前だけ桃色の髪の男性は、その大きな桜の瞳から、涙を零した。
緑「らんらんッ!」
桃「翠智!早く!」
緑「うん!」
すぐ後から来た緑色に黒のメッシュ、そして自分と同じく赤の瞳を持った男性も、七二の腕を掴み、2人によって、彼は引っ張り挙げられた。
赤「ッ…なんで…!ポロポロ」
桃「…ごめんね、でも、君は死んじゃいけないから…ポロポロ」
赤「ッ…?ポロポロ」
訳が分からなかった。
目の前で涙を零す彼とは、初対面だと言うのに…
緑「…君、ひとまず今日は遅いし、家においで?いいよね、らんらん。」
赤「ッ…ポロポロ」
桃「うん…ッポロポロ」
緑「よし、じゃあ決まり。君、名前は?」
知らないうちに彼らの家にいくことが決まり、名前を聞かれた。
赤「…ひま。」
緑「ひま?」
赤「…うん。」
自分の苗字である暇の別の読みだ。
きっと、本名でないことはバレている。でも2人は何も言ってこなかった。
緑「わかった。俺は音奏翠智。宜しくね、ひまちゃん。」
桃「音奏蘭だよ、よろしくね、ひま君。」
そうして、なんやかんやで七二は2人の家に居候することになった。
翠智と蘭は、男同士の夫婦だった。
それなのに、一人の娘がいた。その理由は、蘭が、七二と同じ体質を持っていたから。
だから、橋の上から落ちようとしていた七二を、見過ごせなかったのだと言う。彼らは、七二に色々なことをしてくれた。悪阻のサポートや、衣食住の提供。そして、自分たちもお世話になったという産婦人科の紹介。
そのお陰で七二の子供は、少し小さめなものの、順調に育っていると言う。それに対して、七二自身は、愛する人を裏切ってしまった罪悪感と、今後の不安からストレスが溜まり、悪阻が長引いていた。
桃「不安だよね…」
赤「ッ…はい…」
桃「うんうん…君の気持ち、俺もよくわかるよ。」
ギュー…
赤「ッ…蘭さん…」
㌧㌧
桃「大丈夫…大丈夫だよ、ひま君…」
赤「…はい…ッ」
赤(ッ…若…)
紫「なつ!」
七二の頭 の中で響くのは、自分の名を呼ぶ彼の声。彼がくれた大切な指輪だけは、手放せなかった。
赤「ッ…会いたい…(((ボソ」
桃「……」
七二のか細い声は、静寂の中に消えていった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!