テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#好き好き好き
Para★noia 🩵🪼
830
朧.
42
角砂糖レモン
100
26
洞窟の入口付近に、金属を叩く音が響いていた。
カン、カン、カン。
カキが鉄鉱石を抱え、ふらつきながら坂道を上ってくる。その後ろでは、アオノが歯車や銅線、鉄板、青い鉱石の欠片を運んでいた。
「アオノ、これで全部?」
「まだ半分」
「半分!? 俺、もう腕が棒なんだけど!」
「棒なら運べる」
「そういう意味じゃないって!」
カキが肩を落とす。
洞窟入口の前には、四角い建物の骨組みができていた。石と鉄板を組み合わせた壁。屋根の上にある見張り台。入口に設置された二重の金属扉。建物の周囲には赤い光を放つ装置がいくつも並んでいる。
それは家というより、小さな要塞だった。
「名前は決めたのか?」
設計図を確認していたマサカゲが尋ねた。
「セキュリティハウス」
アオノが答える。
「そのままだな」
「機能が分かりやすい」
「マサっち、名前なんて分かりやすければいいんだよ。洞窟防衛基地とか、カキの城とか――」
「却下だ」
「まだ最後まで言ってないのに!?」
カキが叫ぶ。
マサカゲは無視して、二重扉の前へ移動した。
「アオノ。扉の動作確認は?」
「一枚目が閉じてから、二枚目が開く。外側と内側が同時に開かない」
「警報は?」
「入口前の感圧板、光線センサー、見張り台の操作盤に接続している」
「迎撃装置は?」
アオノは建物の左右へ視線を向けた。
鉄の筒が何本も設置されている。先端には青い鉱石が埋め込まれ、内部には矢、麻酔弾、電撃装置が組み込まれていた。
「一号機より精度は高い。認証装置と連動している」
「つまり、俺たちは攻撃されないんだな?」
カキが聞いた。
「登録されていれば」
「登録されていれば?」
「登録されていない者は侵入者と判断する」
アオノは入口の横にある黒い板を示した。表面には赤い結晶が四つ埋め込まれている。
「登録されているのは、俺、カキ、マサカゲ、ミステー」
「四人だけ?」
マサカゲが聞き返した。
「そう」
「Kさんとメバルは?」
「登録できない」
アオノの返答に、カキが目を見開いた。
「なんでだよ! 仲間だろ!」
「今の距離ではデータ転送ができない」
「ガラケーでつながらないのか?」
「位置情報も通信も、近距離でしか安定しない」
アオノはガラケーの仕組みを説明した。
六人は転送されたあと、それぞれ別の場所へ飛ばされた。位置情報は、近くにいる仲間のものだけが確認できる。遠く離れた仲間については、地図にも反応が出ず、端末を使って探すこともできない。
近くにいる仲間同士なら、端末情報や位置情報を交換できる。
しかし、別の場所にいるチームの位置は分からない。
それは、全員が何度も確認していた。
アオノのガラケーに表示されるのは、近くにいるカキの位置だけだった。
マサカゲの端末には、同じ洞窟内にいるミステーの位置だけが表示される。
鉄の村にいるK-Tとメバルが、どこにいるのかは分からない。
逆に、K-Tのガラケーからも、近くにいるメバルの位置しか確認できないはずだった。
「じゃあ、Kさんとメバルがここに来ても、登録されていないから入れないってこと?」
カキが聞いた。
「入れない」
「迎撃される?」
「される」
「仲間なのに!?」
「認証されていないから」
アオノは淡々と答えた。
カキは頭を抱えた。
「Kさんたちが帰ってきたら、外で迎撃装置を止める必要があるんだな」
「そう」
「夜に敵を連れてきたら?」
「装置を止めている間に敵も入る」
「どうすればいいんだよ!」
「見張りが必要」
マサカゲが答えた。
「Kさんたちが来た場合は、手動で装置を停止する。敵が接近した場合は、Kさんたちを先に中へ入れ、すぐに扉を閉める」
「それ、俺がやるの?」
「見張り台を担当するのはお前だ」
「えっ、俺?」
「仲間の顔を一番よく覚えている」
「俺、そんな理由で危険な係にされたの?」
「重要な役割だ」
「褒めてるようで、全然褒めてないよな!?」
アオノは外壁に小さな操作盤を取り付けた。
「手動解除レバーを外側にも設置する」
「それなら少し安心だな」
カキが言う。
「ただし、操作中は迎撃装置が一分間停止する」
「安心できる時間が短い!」
「一分あれば十分だ」
マサカゲが言った。
「Kさんなら、その間に入れる」
「敵が来たら?」
「俺たちが止める」
マサカゲの声は厳しかったが、迷いはなかった。
アオノは無言で作業を続けた。
そのとき、セキュリティハウスの中から妙な音が聞こえてきた。
ガチャ、ゴトン、カン。
「ミステーだな」
マサカゲが言った。
「なんで分かるの?」
「意味の分からない音を出すのは、あいつだけだ」
四人が中へ入ると、ミステーが床に座り込んでいた。
目の前には、黄色と黒のブロックを積み上げた小型のピラミッドがある。
「何をしている?」
マサカゲが尋ねた。
「警報装置を作っている」
「それはピラミッドだろ」
「警報装置でもある」
「どうやって警報を鳴らす?」
「倒す」
「誰が?」
「敵」
ミステーは真顔で答えた。
「敵が近づいたら、ピラミッドを倒す。すると警報が鳴る」
「敵がそこまで来たら遅い」
「でも、倒れたピラミッドはかっこいい」
「防衛設備にかっこよさを優先するな」
マサカゲが厳しく言う。
ミステーはしばらく考えた。
「では、安全な場所に置く」
「お前が安全な場所を判断するな」
「マサっち、ミステーに普通の装置を作らせる方が危ないよ」
カキが苦笑した。
「このピラミッドを屋根の飾りにしたら?」
「屋根の上なら、敵に倒されない」
ミステーがピラミッドを見上げる。
「上から落とすこともできる」
「落とすな」
マサカゲとアオノの声が重なった。
数時間後、セキュリティハウスはほぼ完成した。
内部には作業台、収納箱、薬品棚、食料庫、簡易ベッドがある。二重扉は問題なく動作し、壁の光源が洞窟入口を照らしていた。
見張り台からは、入口周辺の岩場と洞窟内部を見渡せる。
アオノは最後に、認証装置を起動した。
「試験する」
カキが入口の前に立つ。
赤い光が顔を照らす。
短い音が鳴った。
「認証」
二重扉が開いた。
「おお、入れた!」
カキが中へ走り込む。
続いてアオノ、マサカゲ、ミステーも認証された。
ミステーは何度も出入りを繰り返したが、扉は問題なく開いた。
「次は未登録状態を試す」
アオノが言った。
「誰がやる?」
「カキ」
「また俺!?」
アオノはカキの登録情報を一時的に解除した。
「入口へ」
「本当に攻撃するの?」
「作動する」
「先に言ってくれよ!」
カキが恐る恐る入口へ近づく。
赤い光が顔を照らした。
次の瞬間、建物の左右にある鉄筒が一斉に動いた。
「うわあああっ!」
麻酔弾が足元へ落ち、続けて矢がカキのヘルメットをかすめた。
「止めろ!」
マサカゲが叫ぶ。
アオノが操作盤を叩き、迎撃装置を停止させた。
カキはその場にへたり込んだ。
「俺、仲間だよな?」
「登録されていなかった」
「顔で分かれよ!」
「顔は分かっている。登録されていないことも分かっている」
「分からなくていい方を分かるな!」
アオノはカキの登録を戻した。
再び入口に近づくと、扉が開く。
カキは転がり込むように中へ入り、扉が閉じたことを確認してから、ヘルメットを両手で押さえた。
「Kさんとメバルが帰ってきたら、絶対に俺が先に止めるからな」
「頼む」
マサカゲが地図を広げた。
地図には、現在地周辺の洞窟しか表示されていない。鉄の村の位置も、K-Tとメバルの位置も表示されない。
「遠くの仲間の場所は分からない」
マサカゲが言った。
「だから、探しに行くには範囲を広げるしかない」
「Kさんたちも、俺たちの位置は分からないんだよな」
カキが聞く。
「分からない」
「だったら、近くまで行って端末を接続する必要がある」
「そう」
アオノが答えた。
「近距離に入れば、互いの位置情報を確認できる。だが、それまでは誰がどこにいるか判断できない」
マサカゲは地図を見つめた。
「不用意に動けば、すれ違う可能性がある」
「すれ違ったら、また見つけるのが大変だね」
カキが言った。
「だから、拠点を作った」
マサカゲはセキュリティハウスを見回した。
「まずここを維持する。Kさんたちが戻ってきたとき、必ず見つけられる場所にする」
ミステーは屋根の上に置いたピラミッドを見ていた。
「遠くから見える」
「目印としては使える」
マサカゲが言った。
「だが、警報装置にはするな」
「分かった」
ミステーはピラミッドを撫でた。
「目印として、かっこよくする」
その頃、鉄の村では、K-Tとメバルが村人たちに囲まれていた。
二人の前に、村長らしき老人が立っている。
「頼みがある」
「何?」
メバルが答えた。
「この村の警察になってくれ」
「え?」
メバルの声が広場に響いた。
K-Tも黙ったまま老人を見ている。
「警察?」
「村を守り、争いを止め、悪さをする者を捕らえる役目だ」
「私たち、ゲームから出られなくて困ってるんだけど」
「その問題も解決してほしい」
「仕事が増えてない?」
老人は村の外を見た。
鉄の用心棒たちが、村の周囲に立っている。
「用心棒は村を守るために作られた。しかし、命令を正しく理解できない。村へ侵入した者をすべて敵と判断する」
「私たちも捕まえられた」
メバルが言った。
「処刑装置まで動かされた」
「その通りだ。村を守るための仕組みが、村人を脅かしている」
老人は深く頭を下げた。
「我々は外から来た者を恐れ、用心棒に頼りすぎた。だが、Kさんは処刑装置を止め、村人を傷つけなかった」
「仲間を助けただけだ」
K-Tが言った。
「それでも、あなたは守る者だ」
老人はK-Tを見つめた。
「警察になってくれ」
K-Tはしばらく黙っていた。
メバルが隣から顔を覗き込む。
「Kさん、どうするの?」
「村と協力する」
「引き受けるの?」
「武器や情報が必要だ。仲間を探すためにも、協力した方がいい」
「じゃあ、私も?」
「補助を頼む」
「私、救護担当なんだけど」
「警察にも救護は必要だ」
メバルは少し考えた。
「じゃあ、警察救護担当ね」
老人が手を叩く。
村人たちが広場の端へ移動した。
そこには、二台の乗り物が並んでいた。
一台は黒と白に塗られた四輪車。屋根に赤と青の警告灯があり、前面には鉄製の突起がついている。
もう一台は、さらに大きかった。
分厚い装甲板に覆われた車体。小さな窓。側面の収納箱。屋根には回転式の装置が取り付けられている。
「パトカーと装甲車だ」
老人が言った。
メバルの目が輝いた。
「村にこんなのがあったの!?」
「作りかけだった。村の鉄と、用心棒の部品を使っている」
K-Tはパトカーへ近づいた。
運転席は簡素だった。速度計、燃料計、警告灯の操作盤。そして、ガラケーを接続できる端子がある。
K-Tがガラケーを近づけると、端末が振動した。
《車両接続を確認》
《村警察権限を仮登録》
《車両位置情報を取得》
K-Tは画面を確認した。
車両の位置は分かる。
しかし、仲間の位置情報は表示されない。
メバルが隣から覗き込んだ。
「みんなの場所は?」
「表示されない」
「近くにいないから?」
「そうだ」
K-Tはガラケーを閉じた。
今分かるのは、自分とメバルが同じ村にいることだけだった。
遠くにいる四人の位置は、いまだに分からない。
「まず、村の外周を確認する」
K-Tが運転席に座った。
エンジンをかけると、車体が低く振動した。
赤と青の警告灯が点滅する。
「本当にパトカーだ……」
メバルが助手席へ座った。
「サイレンは?」
「使う必要があるときに使う」
「鳴らしてみたい」
「必要がない」
「ちょっとだけ」
「駄目だ」
パトカーはゆっくりと村の門へ向かった。
門の前には、二体の鉄の用心棒が立っている。パトカーが近づくと、二体は赤い目を点滅させた。
しかし、鎖のムチを構えることはなかった。
車体の前方に青い光が表示される。
《村所属車両》
「車両は認識されるみたい」
メバルが言った。
K-Tが車を降りる。
今度は用心棒の一体が、K-Tへ近づいてきた。
赤い光がK-Tを照らす。
ガラケーが短く振動した。
《村警察:仮登録》
用心棒は鎖を戻した。
続いて、メバルへ光を向ける。
《村警察補助員:仮登録》
「私も登録された」
メバルが言った。
「補助員だけど」
「私は救護ができるから、それでいい」
メバルは満足そうにうなずいた。
二人は村の外へ出た。
パトカーは土の道を走り、村を囲む岩場を進んでいく。外周には壊れた柵が残り、倒された骸骨やゾンビの素材が転がっていた。
「ここ、危ないね」
メバルが言った。
「防衛範囲が狭い」
「用心棒がいるのに?」
「用心棒は命令された範囲しか守らない」
K-Tは車を止め、周囲を確認した。
岩陰で何かが動いた。
ガラケーに警告が表示される。
《不明反応》
「止まって」
メバルが麻酔銃を手に取った。
岩陰から、拳銃持ちの骸骨が三体現れた。
骸骨たちはパトカーではなく、K-Tとメバルへ銃口を向けた。
発砲音が響く。
K-Tは車体の前へ出た。
弾丸が飛来する。
K-Tはアンテナを警棒型に伸ばし、弾丸の軌道をずらした。しかし、一発が肩をかすめる。
「Kさん!」
メバルが麻酔銃を構えた。
銃を持った瞬間、彼女の表情が変わった。
「右の二体、私が止める」
迷いなく引き金を引く。
麻酔弾が一体の胸に命中し、骸骨が倒れた。二発目が別の骸骨へ当たり、そちらも地面へ崩れる。
「残り一体!」
K-Tは最後の骸骨へ向かって走った。
骸骨が拳を振り上げる。
K-Tは攻撃をかわし、トンファーで腕の関節を打ち抜いた。骸骨の拳銃が地面へ落ちる。
K-Tが銃身を蹴り飛ばすと、骸骨は動きを止めた。
戦闘は終わった。
メバルは周囲を確認し、銃を下ろした。
その瞬間、表情から冷静さが消える。
「終わった?」
「終わった」
「本当に?」
「敵は倒した」
「じゃあ、銃を持ってなくていいよね」
メバルは麻酔銃をK-Tへ押しつけた。
K-Tが受け取ると、メバルは急に岩陰へ隠れた。
「怖い! 骸骨が怖い! 銃声も怖い! なんで私、さっき普通に撃てたの!?」
「自分で撃った」
「それが怖いの!」
K-Tは倒れた骸骨を調べた。
拳銃の部品、弾薬、鉄片が残っている。ガラケーをかざすと、取得可能な素材として表示された。
K-Tは部品を回収した。
「装甲車の強化に使える」
「警察車両が物騒になっていくね」
「必要だ」
そのとき、村の方角から警報が鳴った。
パトカーの操作盤も赤く点滅する。
《村内侵入反応》
《危険度:高》
K-Tはすぐに運転席へ戻った。
「戻る」
「何が入ったの?」
「分からない」
K-Tはアクセルを踏み込んだ。
パトカーが土煙を上げて走り出す。
村の門が見えてきた。
門の前では、鉄の用心棒たちが何かと戦っている。鎖が空中を走り、金属音が連続して響いていた。
門の内側から、重い物体を引きずる音が聞こえる。
通常の用心棒よりも重い。
メバルが麻酔銃を握った。
「何がいるの?」
「分からない」
K-Tはパトカーを門の前で止めた。
門の向こうに、巨大な鉄の用心棒が立っていた。
人間より二回り大きく、装甲は通常型より厚い。両肩には赤い光を放つ砲筒。片腕には巨大な鉄槌が取り付けられている。
その赤い目がK-Tを捉えた。
ガラケーが激しく振動する。
《登録情報:不一致》
《危険個体》
《村警察権限による排除要請》
巨大な用心棒が、低い機械音声を発した。
「村ヲ、再構築スル」
K-Tは車から降り、アンテナ警棒を構えた。
「メバル。村人を避難させろ」
「分かった」
「俺が前に出る」
「無理しないで、Kさん」
「いつものことだ」
巨大な用心棒が鉄槌を振り上げた。
K-Tはパトカーの前方へ移動する。
鉄槌が地面を叩き、石畳が砕けた。
パトカーの装甲板が自動的にせり上がり、盾のように展開する。
K-Tはその陰へ入り、攻撃をかわした。
メバルが麻酔銃を撃つ。
弾は肩の装甲に当たったが、効果がなかった。
「効かない!」
「関節を狙え」
K-Tは用心棒の側面へ回り込む。
巨大な鉄槌が横薙ぎに振られ、K-Tは地面を転がって回避した。
用心棒の肩から赤い砲筒が開く。
ガラケーに警告が表示された。
《高出力攻撃を検知》
K-Tは盾の背後へ飛び込んだ。
赤い光線が発射され、盾の表面に亀裂が走る。
「Kさん!」
「村人を避難させろ!」
「でも!」
「早く!」
メバルは歯を食いしばり、村の中へ走った。
K-Tは一人で盾を支えた。
光線の熱が盾を通して腕へ伝わる。
ガラケーが激しく振動した。
画面に、意味の分からない長い数字が一瞬だけ表示される。
その後、文字が乱れた。
《転送系統:接続試行》
《接続先:不明》
《帰還条件:未確定》
K-Tは画面を見た。
「転送装置と関係があるのか……?」
赤い光線が盾を貫いた。
K-Tの身体が吹き飛ばされる。
地面に倒れたK-Tの手から、ガラケーが離れた。
メバルの声が村の奥から聞こえる。
「Kさん! 避難、終わった!」
K-Tは立ち上がった。
巨大な用心棒が近づいてくる。
K-Tは敵の装甲を観察した。
関節部。
背面の動力接続部。
赤い目の下にある青い鉱石の光。
弱点は、通常型と同じだった。
「メバル」
「なに?」
「背面の接続部を狙う」
「分かった!」
K-Tは用心棒の正面へ走った。
鉄槌が振り下ろされる。
K-Tは横へ飛び、攻撃をかわす。用心棒が腕を戻すより早く、K-Tは車体の盾を踏み台にして跳び上がった。
空中で身体をひねり、警棒を背面の接続部へ突き刺す。
青い火花が散った。
用心棒の動きが止まる。
メバルが麻酔銃を構えた。
「今!」
麻酔弾が接続部へ命中する。
赤い目が消えた。
巨大な鉄の身体が、ゆっくりと地面へ倒れる。
警報が止まった。
K-Tは片膝をついた。
メバルが駆け寄る。
「Kさん、大丈夫?」
「問題ない」
「肩から血が出てる!」
「かすり傷だ」
「かすり傷じゃないよ!」
メバルは包帯を取り出し、K-Tの肩へ巻いた。
麻酔銃を持っていないため、普段の心配性な表情に戻っている。
「警察になった初日から、巨大な用心棒と戦うなんて聞いてないよ」
「俺も聞いていない」
「しかも、仲間の位置情報は分からないまま」
メバルは不安そうにガラケーを見る。
画面には、二人が同じ村にいることだけが表示されていた。
遠くにいる四人の位置は、どこにも表示されない。
「Kさん。みんな、無事かな」
「分からない」
「探しに行く?」
「村を空けるわけにはいかない」
K-Tは倒れた巨大用心棒を見た。
「まず、村の防衛体制を整える」
「それから?」
「パトロールを続ける」
「仲間探しは?」
「村の外を巡回しながら探す」
「でも、近くに来るまで位置情報は分からないよ」
「だから、見つけた範囲を広げる」
K-Tはパトカーへ戻った。
メバルも助手席へ座る。
村人たちが遠巻きに二人を見ている。恐れている様子はない。むしろ、期待しているようだった。
老人が駆け寄ってきた。
「警察官よ。村を守ってくれてありがとう」
「まだ終わっていない」
K-Tは言った。
「用心棒の仕組みと、処刑装置を調べる。村の地下に何があるのかも確認する」
老人の表情が硬くなった。
「地下には、古い施設がある」
「転送装置と関係があるか?」
老人は答えなかった。
その沈黙を、K-Tは見逃さなかった。
「知っていることを話してくれ」
「今は、まだ……」
老人が言いかけたとき、パトカーのエンジン音が洞窟内に響いた。
K-Tは村の外へ車を走らせる。
村の門を出ても、ガラケーに仲間の反応はない。
遠くにいるマサカゲ、ミステー、アオノ、カキの位置は、表示されない。
鉄の村を離れ、道を進んでも、状況は変わらなかった。
メバルは助手席から窓の外を見ていた。
「この先に誰かいるかもしれないのに、分からないんだね」
「近くまで行くしかない」
「Kさんがいなかったら、私たち、誰も見つけられないままだったかも」
「俺一人でも同じだ」
「どうして?」
「メバルが近くにいたから、位置情報が確認できた」
メバルは少しだけ黙った。
「そっか。私たちは、近くにいる人しか探せないんだ」
「そうだ」
「じゃあ、まずは近くにいる仲間を守る」
「それが役割だ」
パトカーの赤と青の光が、洞窟の壁を交互に照らす。
村の外周を巡回し、危険な場所を確認する。
敵が現れれば排除し、壊れた柵があれば修理する。
食料や薬品を運び、村人たちの避難経路を確保する。
そして、仲間の姿を探す。
ただし、遠くにいる仲間の位置は分からない。
声も届かない。
端末にも反応しない。
どこかで同じように、仲間を探しているかもしれない。
それでも、K-Tは車を止めなかった。
「Kさん」
メバルが呼んだ。
「何だ」
「パトロールって、どこまで行くの?」
「村の周辺」
「仲間を探すなら、もっと遠くまで行った方がいいんじゃない?」
「遠くへ行きすぎれば、村へ戻れなくなる」
「じゃあ、少しずつ?」
「少しずつだ」
メバルはうなずいた。
「分かった。まずは近くから」
その頃、セキュリティハウスでは、カキが見張り台から洞窟の奥を見ていた。
彼のガラケーに表示されるのは、アオノの位置だけだった。
マサカゲの端末には、ミステーの位置だけ。
K-Tとメバルの位置は分からない。
村がどこにあるのかも、まだ分からない。
「Kさんたち、ちゃんと生きてるかな」
カキが呟く。
「分からない」
アオノが答えた。
「でも、近くに来れば分かる」
「その前に敵が来たら?」
「迎撃する」
アオノは新しい装置の調整を続けた。
マサカゲは入口の外を確認し、ミステーは屋根の上のピラミッドを眺めている。
互いに近くにいる四人で、拠点を守るしかない。
離れた二人のことは、想像するしかなかった。
一方、鉄の村では、K-Tとメバルのパトカーが夜の洞窟を走っていた。
警告灯の光が、闇の中を切り裂いていく。
その光を、遠くの何者かが見ていた。
しかし、K-Tたちは気づかない。
ガラケーにも、仲間の位置情報は表示されない。
ただ、近くにいるメバルの反応だけが、助手席の端末に小さく表示されている。
K-Tはハンドルを握り、前を見据えた。
セキュリティハウスにいる四人も、洞窟のどこかにいる。
だが、遠くの仲間を探す方法はまだない。
だからこそ、村の警察官として巡回し、少しずつ範囲を広げる。
近くに仲間がいると分かる、その瞬間まで。
そして六人が再び集まり、帰還条件を満たすまで。
パトカーは、赤と青の光を灯したまま、暗い洞窟の奥へ進んでいった。
コメント
1件
第十四章めっちゃ熱かったわ!セキュリティハウスの迎撃装置、カキが実験台にされるシーンで笑った(笑)。ミステーのピラミッド警報も意味不明すぎて好き。一方でK-Tさんたちが警察になってパトカー&装甲車ゲット!って展開はテンション上がったな。で、最後にまさかの巨大用心棒出現からの、村の地下に古い施設…?転送装置と関係ありそうな伏線もガチで気になる。仲間の位置情報が分からないもどかしさが、世界の広さ感じさせて丁寧だと思った。続きめっちゃ待ってます🔥(182字)