テラーノベル
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携帯の通知音が響いたことで目が覚める。部屋の温度が高くて咄嗟にエアコンのリモコンに手を伸ばし冷房を点ける。少しずつ冷んやりした風が入ってきて段々と心地良くなる。このままだとまた寝落ちしてしまいそうだ。と目を瞑っていると再度通知音が鳴っていて現実に引き戻される。
LINEを開くとグループLINE欄のところに複数の通知があって開くと今日のバーベキューについてのことでLINE内で盛り上がっていた。
夏休みに入って一週間ちょっと過ぎていた。休み期間は殆ど外出はしていなくて宿題に手をつけたり飽きるとゲームをしてそのまま夕方になっていたり。完全にインドアな生活ではあるが僕にとっては有意義な時間を過ごすことが出来ている。
その間学校がないからばぁうくんにも会えていない。休みに入る前もいつも通りお互い軽く挨拶をして別れた為、内心寂しい気持ちがあった。
でも今日はまひちゃん発信のバーベキュー当日。あの日のメンバーから参加人数が随分増えたようだ。LINEグループに参加メンバーが追加される度に隣の席のばぁうくんは面倒くさいと溜息を吐いていた。
僕自身も面識のない人たちが殆どで上手く集団に馴染めるのはあまり期待していない。それでも今日が楽しみな理由としてはまひちゃんとも久しぶりに会えるし……ばぁうくんとも会える。一週間顔を見ていないだけなのに早く会いたくて仕方がない。
僕は完全に目が覚めて布団から起き上がり身支度を始めた。
空は青空が広がり太陽が照らされて朝だというのに真夏の暑さを肌でひしひしと感じていた。風に乗って微かに潮の香りが漂ってきて歩き進めた先にはどこまでも広がっている青い海が視界に飛び込んできた。海水浴客が賑わっている中集団の中に見覚えのある人の存在に気付いた。
「まひちゃん、おはよー」
「あ!てるちゃん!」
「はい、これ食材」
「ありがとおー!」
「おお!てると!」
「あ、そうま先輩!おはようございます」
「てるとも一緒に海入ろうぜ!めっちゃ気持ちいいぞ」
「テンション高いですね 笑」
休み中家でまったり一人で過ごす時間も良いけれど仲の良い人たちに会えて素直に嬉しい。
「おっすー初めまして」
「…あ。初めまして…えっと、」
「こいつ俺のクラスメイトのしゆん!見た目ガラ悪いけどまあ良い奴だから」
「おいそうまー何だよその紹介の仕方」
「いや、事実」
「クソがっ…えーっと、てると?だっけ。ばぁうと同じクラスの?あいつのお気に入りでしょ、君」
「え??」
「だって最近はあのサボり魔ばぁうが真面目に授業受けちゃってるんでしょ?」
「そういや、ばぁう来てないよな?」
「その内来るっしょ、お気に入りてるとくんが居るんだし…つか、俺とも仲良くしようぜ」
「あ、はい!しゆん先輩」
「あー…先輩って呼ばれるのめっちゃ良いわー」
ばぁうくんの友だちはみんな個性的だな、でも何だかんだみんな良い人ばかりだ。そして後ろでクラスメイトの女の子複数が先輩たちを見て目をキラキラさせキャーキャーと盛り上がっている。ばぁうくんもだけど先輩たちのルックスが良い。普段からモテているに違いない。この参加人数の女子たちの殆どの目的が理解出来てきた気がする。
「まひとくん、私なんか手伝うよ!」
「えっ本当に?ありがとおー」
「きゅん♡」
バーベキューの支度をしているまひちゃんの周りにも女の子が何人か居るし笑
普段から明るくて誰にでもフレンドリーに会話が出来て可愛いまひちゃん。彼の人気も普段から知っていている。
僕も先ずはまひちゃんを手伝おう。人数居るし手が多い方が良いよね。
「あの…てるとくん!」
「え?」
急にクラスメイトの女の子から話しかけられて見ると一緒に友だちであろう子たちも居ていつの間にか囲まれていた。
「今から海に行って遊ばない?あの。教室でいつも見てて…てるとくんともっと仲良くなりたいって思ってたの!」
「え、そうなの?…ありがとう。今丁度まひちゃんの手伝いに行こうと思ってて…」
「じゃあ私もお手伝いします!」
「私も!」
ぐいぐい来る女の子達が迫ってきていきなりの事で動揺してしまい普段慣れない砂場に足を取られて体のバランスが崩れた。あ、やばい転んじゃうと思ったけれど肩を支えられて背中になかった温もりを感じる。
「気をつけろよ」
「あ…ばぁうくん」
背後からばぁうくんの登場に目の前にいた女の子達も騒ぎ出していた。新学期の頃はばぁうくんから話しかけるなオーラが出ていた。それから少しずつ授業に顔を出すことが増えて性格も以前より丸くなったことで女子からの人気も更に加速していた。
ばぁうくんに対してドキドキしてしまうのは僕も例外ではない。学校で別れて以来久しぶりに顔が見れて声が聴けて嬉しさが込み上げる。
「ばぁうくん、久しぶり」
「…ほんの一週間だけだろ」
「うん…あ、バイトは忙しい?」
「んー…まあ、それなりに。慣れてきたけど毎日暑すぎて腹立つ。」
「たしかに。久しぶりに外出て暑すぎてびっくりしたもん」
「どうせゲームばっかしてて引きこもってんだろ」
「ちゃんと宿題もしてますーーばぁうくんはどうせ一個もやってないでしょ」
「……てるとに見せてもらう予定」
「何それ!聞いてないんだけど!」
他愛いもない会話なのにこんなに心が踊るのは、何故だろう、本当は理由は分かっているけれど。
「ばぁう、来るの遅っせーよ」
「なに、しゆん来てたの?」
「肉食いに来た」
「お前もまひとと一緒かよ 笑」
僕の知らない内に新しい出会いがあってばぁうくんのまた違う一面が見られて嬉しい気持ちもあり、僕ももっとばぁうくんと時間を共有して過ごしたいという欲もある。
クラスの女の子が積極的にばぁうくんに話しかけていた。ばぁうくんが何か話すと女の子は過剰に反応してその笑っている姿は完全にばぁうくんに好意がある様だ。今、ちょうどお昼くらいで僕は手伝いでバーベキューの食材を切ったやつを網に並べて焼いているところだ。煙から香ばしい匂いが漂い周りの人達の食欲をそそる。ばぁうくんが座っている両隣に女子がキープしていて僕はそれを見て見ぬふりをしていた。嫉妬…。していないといったら嘘になる。心の何処かでずっとモヤモヤしたものがあって気にしない様に無心でお肉をひっくり返しているとしゆん先輩とそうま先輩がこちらに近づいてきた。
「てると、肉食べた?」
「あ、はい。合間で食べてますよ」
「ほんとかー?俺が代わってやるから休憩して食べな?」
「大丈夫ですよ!先輩たちこそお肉いっぱいあるんですから食べてください」
「…そういえばてると、ありがとな」
「えっ何がですか?」
「ばぁうの事。」
ばぁうくんの名前が出てきて思わず焼いてる手を止めてそうまの顔を見た。
「あいつ、去年は結構荒れてたからさー…他人とか、近づくなオーラ全開だったし。まあ、俺としゆんはまだ大丈夫だったけど。でも俺らなりにあいつの心配はしてたけど実際傍観しか出来なかったからさ…」
「ばぁうもあんまり悩みとか直接言わなかったしな」
「ばぁうが留年してそのまま学校辞めちまうかもなーて思ってたけど、てるとと会ってから変わったよあいつ」
「いや…そんなことは」
「いやこれはガチで関係ある」
「そう。だって気づいたらばぁうの隣見たらめっちゃニコニコした可愛い子が居てさ!んで、ばぁうに直接聞いたら幼馴染って言うから、もう、ビックリよ……ばぁうにとってお前は特別な存在なんだよ」
しゆんとそうまは揃ってうんうんと頷いている。
「…ぼくも、ばぁうくんともう一度会えて本当に嬉しかったです、えへへ」
「…そういうてるとは、ばぁうってどんな存在?」
しゆん先輩の問いに一瞬言葉が詰まる。
「えっ…それは、その、僕の大事な友だちです」
「ふーん…友だち、ね。」
「…まあ、これからもあいつと仲良くしてやってよ」
「何の話?」
3人で話しているとさっきまで女子に囲まれていた筈のばぁうくんが目の前に来てそうま先輩に尋ねた。
「別に?ただ話してただけよ?」
「…お前らいつからてるとと親しくなったんだよ」
「俺は今日初対面でもう仲良しよーん」
「ほんとかよそれ…」
バーベキューにて空腹を満たされた人たちはそれぞれ海に入るや砂場でビーチバレー大会が始まったりと賑やかな雰囲気だ。僕もバーベキューの片付けがある程度終えたところで、海の方へ向かう。
恐る恐る片足をだけ海水に触れると意外と冷たすぎなくてもう片足も浸ける。波は穏やかに揺れる度に水の音が靡いてとても聞いてて心地が良い。
「気持ち良いー…」
もう少し奥に行ってみようと足を進んでみると段々体が海へ沈む感覚。体中に生暖かい水を感じていると後ろから突如に手首を掴まれた。
「あ、ばぁうくん」
「…あんま1人で奥行くなって」
「大丈夫だよ?波も緩やかだし…」
「…てるとは危なっかしいからな、ほら。」
ばぁうくんが浮き輪を持ってきてくれたみたいでそれに体を預けるとまるで宙に浮いている様な感覚で体が水中で浮いてて、意外と楽しい。
「え、めっちゃ楽しい」
「それは良かった」
「ばぁうくんも一緒にやろ?」
学校では会話をしててもこんな風にばぁうくんと遊ぶのは本当に子どもの頃以来だ。
「俺はいいよ」
「……えいっ」
「うわっ冷たっ」
「なに遠慮ぶってんのか知んないけど、そんなばぁうくんには水浸しの刑だよ!くらえっ」
「……てると、やったな?」
「ばぁうくんが悪いんだもーん。悔しかったら反撃してみれば?ほれ!」
僕が容赦なく水をかけてやると、遂にばぁうくんも反撃。お互い水浸しになりながらも攻防は続いた。まるで昔の2人の時間に戻った様で、僕とばぁうくんは無邪気に笑っていた。
そこからばぁうくんと海で遊んで後からそうま先輩に呼ばれてビーチバレーに参加して体を動かした。それから休憩に海の家で購入したかき氷をまひちゃんと一緒に食べて時間を過ごした。
一日中海水浴場で遊んでいて気づけば日も落ちてきてそろそろ撤収の流れになり各々片付け作業をしていた。流石に一日中動いて疲れたけど、今日は本当に来てよかったなあと思う。
「てると」
「何?」
「一緒に帰ろ」
「…うん」
みんなと別れてばぁうくんと最寄駅に向かって並んで帰る。空は完全に夕焼け色で昼間の暑さは和らいでいて風が吹いて気温も丁度良い。
「楽しかったね、海」
「そうだな…俺もはしゃぎ過ぎたわ」
「なんか、夏休みらしいこと出来て嬉しい」
「てるとは遠征とかすんの?」
「ううん、特に予定ないよー。ばぁうくんは殆どバイトなの?」
「まあ、バイトはあるけど所々休みある。」
「そっか。」
「……」
「……」
「そういえばさ、今週末に花火大会があるの知ってる?」
「ああ、まひとが言ってたわそれ。てると誘われてるだろ?」
「うん…ばぁうくんはその日は空いてる?」
「シフト入ってるけど、夕方には終わる」
「ほんと?ばぁうくんも一緒にお祭り行かない?」
「…じゃあ、バイト終わったら行くわ」
「うん!(このまま登校日まで会えないと思ってたけど…誘って良かった…嬉しいっ)」
次にまた会えるのが待ち遠しいなあとてるとの期待は膨らんでいった。
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