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※作者は物書き初心者
※オリキャラ(人型)多め
※厨二まっさかり
こうかいしませんね?
星が瞬く宙。手を伸ばせばすぐに届いてしまいそうな距離に見えるのに、どうしても届かない。
「おーい、カエデ」
独特な浮遊感に苦戦しながら、ゆっくりと振り向く。この感じは未だ慣れない。
「どうしたの、イズ…もしかして、もう出発するの? 」
うなずいた彼女を見て、綺麗な星だったのに、と零す。せめてもの見納めに再度振り向くと、黄色の惑星が眩しく輝いていた。
秋の草原を、湿った風が吹き抜ける。それにつられて上を向くと、僕たちの目には満天の星空が飛び込んできた。
「うわあぁぁ…!」
隣にいる妖精が、ため息にも近い感嘆を漏らす。瞳はきらきらと輝いていて、いつもはあまり見せない、子供らしい表情にあふれていた。どうやら気に入ってくれたみたいだ。ここポップスターでも随一の観光名所、夢の泉。かつてとある事件が起こった原因でもあるが、普段の顔は美しい泉そのもので、僕たちに良い夢をもたらしてくれる。そこで一緒に星を見よう、と僕が彼女に提案したのが発端となって、今日この瞬間が訪れたわけだ。
「前のときは、ゆっくり星を見る余裕なんてなかったからね。ポップスターで見る星、僕も好きなんだ!」
足下の草に腰を下ろしながら微笑みかける。彼女――リボンちゃんも、羽を動かすのを止めて、地面に降り立った。言葉は交わないまま、空を眺める。気まずさはない、慣れた空気感。長い夜が、今日も始まる。
「あ、流れ星!」
はしゃいだ調子のままのリボンちゃんが、喜々として指をさす。そちらの方へ目線を向けると、確かに光の筋が見えた、気がした。すぐに消えてしまったから正確には分からなかったけど、次々と別の光が目に飛び込んでくる。流れ星の群。あの日と同じ、流星群。その神秘的な自然の光は、僕にまた何か起こるような予感をさせて。
「懐かしいですね…カービィさんと出会ったときも、あなたはこうやって、星を眺めていたんでしたよね」
「うん、ちゃんと覚えてるよ。…なんだか、また何かが起こるような気がするんだ。リボンちゃんのときと、同じような…」
まさかね、なんて笑いながら、その予感が中々消えないことがどうしても気になる。こういう予感は当たってくれない方が嬉しいけども、不安なものはやっぱり不安で。後でデデデ辺りには警戒しておくのが一番だよね、なんてところまで考えていた。
――夢の泉が怪しい光に包まれているのになんて、気づけないくらい。
「…ービィさん、カービィさん!」
リボンの声も耳に入らないくらい集中していたのか、そうでないのか。それは定かではないが、はっとして顔を向けると、その表情は焦りに満ちていた。まるで何か、僕たちの元に、脅威が迫ってきているかのように。
「何かあの星…こっちに近づいてません?」
「…へ?」
自分でも驚くほど、間抜けな声が出た。深刻そうで不安げで突発的な告白に、僕の頭じゃまだついていけない。ただ思い出されたのは、リボンちゃんと出会った夜のこと。クリスタルの流星と共に降ってきた、あの日の思い出。黒い雲に襲われた星から逃げてきた、孤独な妖精。頭に落ちてくるなんて衝撃的な出会いをしたから余計に印象に残っている。この状況、この後起こりうる事態として最もあり得そうなのは…
「逃げてリボンちゃん!!!」
「ひゃっ…!」
手を摑み、こちらへ引き寄せる。少し乱雑に転がしてしまったけれど、大きな怪我はなく済んだ。彼女が見た星はみるみるうちにこちら側へ――正確には、目の前の夢の泉の方へ。
――どんっ、
そう鈍い音がした。
…ぶくぶく。
…ごぼごぼ。
…さらさら。
煌びやかな川の流れが耳元で往復する。時おり遠くで、たまには近くで。水の中はとても冷たく、目の前は闇で覆われている。力の入らない腕を水面に伸ばしても、やがて沈むだけでどうともならない。
(早く…ここから出ないと…)
脳裏に浮かんだのは、さっきまでの自分が見ていた惨状。それを思い出して足搔いたが、そこに不思議と焦りはない。どこか安心するようで、さっきまでの冷たさが嘘のように消え去った。早く出たい、と思っているはずなのに、どうしてかここから出たくない…
(…誰かの、声…?)
底の方から、呼ばれた気がした。もっと聞きたい、そう願えば、更に奥へ沈んでいくみたいだ。まるで誰かに、背を引かれているかのように。沈めば沈むほど、それは大きく、強くなる。聞き取れたのは、嘆きにも恨みにも聞こえる、不安定で重たい声。
――ここから出せ。
――もう一度、夢を見たい。
解放してはいけない。本能ではそう分かっている。でもどうしてか、どこか悲しげな声には逆らえなかった。
底を向き、手を伸ばす。にわかには表現し難い暗さだった。それでも躊躇はしない。それで救われる存在があると、分かっていたから。
「おいで…一緒に、行こう…」
上昇する気泡の流れに乗るようにして、底に溜まっていた闇が浮かび上がった。それはそのまま、わたしのもとへ。
意識は一旦そこで途切れた。未来予知ができるわけがないからこれは当然なのだが、次に目を覚ましたとき、後に“トモダチ”になれる二人と出会えることも、わたしが呼び覚ましたものがとんでもないものだということも、今は誰も、体の中で落ち着いた様子の闇以外は、知ることはなかった。
夢の泉に落ちてきた誰かの姿を見たとき、僕はとてつもなく嫌な予感がした。それこそ昔の事件のとき感じたものと同じような悪夢の予感。当時ほどおぞましいものではなかったけれど、それでもまたやっかいなことになったのは間違いない。ついこの前のように故意に墜ちてきたのなら許すことはできないのだが、本当に墜落してきた例もあるから油断ならない。どちらにせよ、また事件が起こるのは間違いないだろう。
(デデデにはやっぱり注意しておかないとなぁ…今回は操られないといいけど)
警戒は解かずに、リボンちゃんを背後に隠して近づいていく。今の僕はすっぴん。クリスタルがあるからリボンちゃんは多少戦えるにしろ、危険なのは間違いない。星型弾だけでは守りながら戦うのは危険だ。最悪、またスターロッドの力を借りれば…
――しかしながら、僕のその杞憂は不必要なものとして終わったのである。
水面から顔を出したのは、見覚えのない少女だった。