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ピンポーン
鳴り響いたチャイムの後にガチャリと扉の開く音。
おじゃましまーす、とインターホンを押したくせに
お構いなしに鍵を開けて入ってくる侵入者を睨みつけた。
「やっほー、ヨル」
俺の顔を見てパッと笑顔になるこいつは笑うと一気に幼さが増すなといつもと同じことを考える。
黙っていれば大人っぽく見えるのに。
ズカズカと家に上がり込んだ友人はベッドのサイドテーブルに買い物袋を置くと、冷蔵庫を物色して入っていたゼリーを手にソファに座った。
あのゼリーはだいぶ前に友人が持ってきたもので、半額のものを買ってきたせいで賞味期限が切れていたはずだ。
友人は俺が少しでも食べやすいようにとゼリーやプリンばかり買ってくる。
そして、食べられずに残ってしまった賞味期限切れのゼリーを自分で食べている。
…いい加減、やめればいいのに。
サイドテーブルの買い物袋をちら、と見ると、またもや半額ゼリーやペットボトルの飲料水が入っていた。
ピ、と軽やかな音がした直後に、テレビから騒がしい音が聞こえた。
テレビでは漫才がやっていて、多分ボケ担当がよくわからないことを言って、ツッコミであろう人物が叫んでいる。
たまに拍手や笑い声が混じるが、何が面白いのか全くわからなかった。
この番組の司会はどんな思いで感想を述べているんだろう。
正直、不愉快だと思ってしまった。
自分が子供の頃の方の似たような番組の方が質が良くて面白かったような覚えがある。
それほど自分は大人になってしまったのだろうか。
テレビをつけた本人もつまらなかったのかテレビを消して、ゼリーを食べることだけに意識を注ぎ始めた。
ゆっくりと目を閉じる。
ステージを降りてからずっと同じ生活を続けているのは自覚していた。
もう、このままでは生きている意味なんてないかもしれない。
ゆっくりと意識が遠のいて行くのがわかる。
そのまま眠る……眠ろうとした瞬間、シャッとしばらくきいていなかった音と眩しい光。
目を開けると、窓際に人影が立っている。
今、この家にいる人物は自分ともう1人だけ。
何日ぶりかのカーテンを開けた彼はにっこり笑って
「少し散歩しない?」
と俺に声をかけた。
昼特有の熱い光が眩しかった。