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*.꒰ঌ𝕐𝕦𝕚𝕜𝕒໒꒱.*
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入った喫茶店の窓際の席に、壮太と藍は向かい合って座った。こんなふうに向かい合って座るのも、ワンピースを着た藍の姿も初めてだった。 テーブルに運ばれて来たアイスコーヒーを飲むとき、指先で右の耳に軽くウェーブした髪をかける。高校のときにもやっていた癖だ。そんな些細な仕草も懐かしく愛おしかった。
「髪、伸びたね」
「え?」
「なんでもないよ。話したいことって高校のときのことですか?」
「私…」
「お父さんから聞きました。事故のこと」
ごめんな、藍。
心の中で壮太は謝った。
生死を彷徨い、目を覚ましたあともきっと藍は自分の身に起きたことと必死に戦って、生きてきたのだろう。それなのに壮太ときたら藍のことを心配しているつもりでも、フラれたんだって、一人で勝手に不貞腐れていた。
「私と同じ高校だったんですよね?」
壮太はうなずいた。
「どんな学校でした?」
「湊川(みなとがわ)高校といって、ごく普通の男女共学の高校でしたよ」
「私、どんな高校生でした?」
そこで壮太はちょっと笑った。
「君はいつもみんなの輪の中心にいた。誰にでも優しかったから人気者だった。僕は遠くから君を見つめているだけだったけど」
壮太が話すと、藍は眉間に皺を寄せて弱く首を振った。
「どうかしました?」
「なんか違う気がするんです」
「どうして?」
「どうしてだろう?」
呟いたきり、藍はしばらく窓の外を見ていた。青い空が広がった真夏の陽射しが降り注ぐ午後。通りを行き交う人は早足で、それを眺める藍の横顔を壮太は見ていた。再び藍がこちらを向いて、口を開くまで見つめていた。
何を思っているのだろう。
常に何かを思い出そうと努めているのか、それとも大人になったからなのか、再会してからの藍の話し方は慎重で落ち着いていた。
あの頃のポップコーンが弾けるみたいに、次々と言葉が出てくるところも好きだった。
「人気者なんて全然ピンとこない」
ゆっくり視線を壮太に向けると藍は言った。それは思い出せないだけかもしれないし、心の奥底では覚えているのかもしれない。
みんなと賑やかに笑っている藍も、その輪からそっと離れて一人で空を見上げている藍も壮太はやっぱり好きだった。
「大学ではあまり友達はいなくて、いつもクラスの端にいました」
「僕も同じです」
そこで二人は顔を見合わせて笑った。
「でもどうしてだろう。七瀬さんといるとほっとするんです。高校の頃の私たちって」
「それは、ほらあれだよ」
別にやましいことなどないのに、話をそらそうとする自身が壮太は可笑しかった。
「僕たちガチャガチャ仲間だったからさ」
「ガチャガチャ仲間?」
藍が瞳を大きくして、くすっと笑った。
壮太はいつも背負っているリックから、青いゾウのキーホルダーを出してテーブルの上に置いた。藍と再会するまでどこにやったか忘れていたが、再会した晩に部屋の中を必死に探して引き出しの奥から見つけた。
「触ってもいい?」
藍が聞き、「もちろん」と壮太が答えた。
「なんか懐かしい…」
顔をあげて、壮太を見る藍の瞳に涙が浮かんで潤んでいた。壮太はただうなずいた。
「このゾウには仲間の動物たちがいて、木梨さんは黄色いライオンをゲットして気に入っていたんですよ」
「黄色いライオン」
また藍の瞳が大きくなる。
「家にあるかな」
そう願いたかった。
「私、七瀬さんのことをなんて呼んでいました?」
「最初は七瀬くん、木梨さんって呼んでいて、そのうち自然と壮太、藍って呼び合うようになっていった」
話す壮太の顔を見て藍がまた笑った。
「何か思い出しましたか?」
「いえ、そうじゃないんです。ただ七瀬さんの話を聞いていると、楽しかったんだろうなって思えて、そうしたら自然と笑顔になれました」
四十五分の休憩にコーヒー一杯と水一杯で終わってしまった。だが、それだけで十分だった。
藍と喫茶店で向かい合って座って話ができて、藍の声が聞けて、笑顔が見れる日が来るなんて思わなかった。
コメント
1件
うわあ、第6話もじんわり沁みた……。壮太が藍の「髪伸びたね」って言うところ、ああいう小さな仕草とか癖を覚えてる感じがもうすでに好きすぎる。ガチャガチャ仲間だったって設定も可愛いし、青いゾウのキーホルダーが出てきたときは「あっ!」って声出たわ。藍が「楽しかったんだろうなって思えて笑顔になれた」って言うの、記憶がなくても心が覚えてる感じがして泣ける。二人の距離感がゆっくり縮まってくのがたまらん。次も絶対読む🔥