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「では、こちらへ」
その服を渡された俪杏は、奥にあった部屋に誘導された。
こんなところがあったんだ……。
そこは、俪杏に渡されたのと同じような服がいっぱいあった。
恐らくこれらは失敗してしまった服だろう。
「じゃ、外で待ってるから」
男性は、そう言うと、ゆっくりと扉を閉める。
え、あ、でも……着替え方わからないんですけど……。
何とか着替え終わった俪杏。
机の上に置いてあった漢鏡で、服装を最終確認する。
これで、いいんだよね……?
ドレスは一度だけ西洋の人が着ていたのを見ただけで、これには全く自信もない。
けど……。
俪杏は、ゆっくりと扉を開ける。
「ど、どう……ですか……?」
初めて着るドレスは、まだ着慣れておらず少し不思議な感じがする。
普段着とは違う俪杏を見た瞬間、男性の顔は、ぱあっと明るくなる。
「すごく可愛いよ!!」
可愛い、その一言が相応しいだろう。
まあ、顔はもともと可愛いけど。
「本当ですかっ!?」
俪杏は顔を上げ、必死に男性に聞く。
「あ、ああ」
「杏仁豆腐より可愛いですかっ!?」
「ん……?」
杏仁豆腐……?比較対象がおかしくなってないか……?
「あ、ああ」
いや、杏仁豆腐の可愛さが分からないんだが……。
「やったー!!」
そう言って無邪気に飛んでいる俪杏を見ると、男性も何だか嬉しくなった。
「じゃ、行こうか」
しばらくして男性は合図をかける。
「でも……」
「大丈夫。……さあ!」
男性はそう言って、俪杏の手を掴み外へ連れていく。
外に出た瞬間、一瞬だけ眩しい光が2人を襲う。
そして、いつの間にか…………街の中心部に来ていた。
街の中心部は特に人が賑わっている。
周囲の人々は、突然出てきた2人に困惑している。
初めて見る服装に、怪しげな目で見てくる人々。
だよな……普通そうなるよな……。
「さて、皆さん、こちら中国製のドレスです!!」
いやいやいや、めっちゃ注目されてるっ!!
こんなのお母さんに見られたら絶対おこられちゃうよっ!!
俪杏は涙目で衣服屋の男性に訴えかけるが、男性は全く気付いてくれなかった。
「あのさあ、一つ質問していい?」
一人の若い男性が俪杏の隣に居た男性に聞く。
「はいっ、どうぞっ!」
「ドレスってなに?」
自信満々な衣服屋の男性に、若者は平然として聞く。
「お、お、おいっ! ドレスを知らないんですかっ!?」
「だってあれって、西洋の服だろ?中国人にドレスはイメージわかないよ」
その時、何者かが奥からやってきた。
先ほどまではザワザワとしていた人々も、急に静まり返る。
「奴らだ……」
「ですな……」
奴ら。それはこの町で一番威張っている悪者。
この町では、いつしかそう呼ばれてきた。
奴らは、いつも通り茶色く大きな馬に乗ってやってきた。
一番前に居た大柄なリーダーを先頭に、周囲からも赤色の戦闘服を着た兵士がゾロゾロと集まる。
リーダーは2人の前で馬を止めさせると、上から目線にニヤリと笑った。
「おいおいおい、なんだその服装は? いいか、本国で許されているのは満州服だけだ! 今すぐ着替えろ!」
金も武器も貧しい街の人が、奴らに勝てるはずはない。
そう分かっていた2人は、奴らに従うしかなかった。
2人は衣服屋に戻る。
「あの、これ、ありがとうございました! 短い時間だったけど、ドレスが着れて嬉しかったです!」
「こちらこそ、ありがとう。ドレスは、まだまだ時代についていけなそうだけど、これでもっと自信がついたよ。これからは、更に凄いドレスを作ろう」
「えっ!? ほんとーっ!?」
俪杏は嬉しそうに答える。
「ああ。……あ、そうそう、銀幣60枚だったね」
そう言って、男性はポケットの中から袋を取り出し、そこから銀幣を60枚数え、こちらに渡す。
俪杏は、銀幣60枚を受け取る。
「わー!! これで杏仁豆腐いくつ買えるかなー!」
「ん? なんか言った?」
「いえ、ひ、貧困な袋から、き、貴重なお金を下さり、あ、ありがとうございます!!」
「なんか若干失礼だけど、まあいいか。……徳州扒鶏、頑張って手に入れるんだよ!!」
「はーい!!」
さ、杏仁豆腐、じゃなかった徳州扒鶏を買いに行くぞー!!
男性の大声を胸に、俪杏は再び徳州扒鶏を買いに出かけた。