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ピピピピ——。
部屋にアラームが鳴り響く。毎朝のように繰り返されるこの騒音が、もしかしたら私を生かしているのかもしれない。
いつものようにベッドから体を起こし、顔を洗い、朝ごはんを作る。時計の針は午前五時を指していた。毎朝、決まってこの時間だ。
自分は食べもしないのに朝ごはんを作る。作らなければ——殴られるから。
生まれて十六年。五歳の頃から、こき使われ、殴られ、罵倒され、虐げられる毎日だった。
今となっては、もう何も感じなくなってしまった。
両親は仕事のため、六時半に起きてくる。それまでに朝ごはんと弁当を用意しておかなければ、また殴られる。
いっそ死んでしまえたら楽なのに——それすらできない自分が、いちばん嫌いだ。
両親が起きてくる。
「おい、有希。朝飯はどうした?」
私は無言で皿を差し出す。どうやら両親は、仕事ができない私が嫌いらしい。かといって、きちんとこなす私も気に入らないようだ。
こんな理不尽があっていいのだろうか。……いや、今さら考えることでもない。
「今日は私、パチンコに行ってくるから。家事は全部終わらせておくのよ」
私には学校に行けと言うくせに、帰ってきて数時間で家事を全部終わらせろだなんて。
本当に、とんだ理不尽だ。
「じゃあ行ってくるから、家事は全部終わらせておけよ」
そんなこと、言われなくてもわかっている。
何日、何か月、何年こなしてきたと思っているんだろう。
……いや、“普通”を理解していない大人に言ったところで、意味なんてないか。
両親が出ていけば、ひとまずは安心だ。
それでも、すぐに学校へ行かなければならない。
学校は――まだましなのかもしれない。
水をかけられ、笑われ、罵倒され、罪を押しつけられるだけなのだから。
先生も、周りの大人も頼りにならない。
結局、人間なんてみんな自分のために生きていて、自分が最優先なのだから。
準備をして玄関を開ける。
そこに広がるのは、太陽だけがやたらとうるさく照らす、ただ眩しいだけの世界。
かつて私が希望にすがるように信じていた“救いの光”なんて、もうどこにもない。
通学路を歩けば、周囲からヒソヒソと声が漏れる。
助けるわけでも、同情するわけでもない。ただ噂して、自分の身を守りたいだけなのだろう。
私が日の光を浴びている間、他の誰かが安全でいられるのなら——
私は孤独なヒーローにでも見えるのだろうか。
そんなはずがない。きっと“使い勝手のいい生贄”くらいにしか思われていない。
そんな私にも、一筋だけ光が差し込む瞬間がある。
それが——悠太だ。
「おはよう、有希!」
無邪気に声をかけてくる悠太は、私とは違って太陽の下をまっすぐ歩ける人間。
スポーツが得意で、ノリも良くて、勉強が苦手なのもどこか憎めない。
私とは、何か一線を画しているような存在だ。
「おはよう、悠太!」悠太の前に立つときだけ、私は明るく振る舞おうとする。
どうせ学校は違うのだから、この仮面がバレることはない。
もし知られたら——悠太にも嫌われるのだろうか。
嫌なはずなのに、きっとそれもいつか訪れる未来なのだと思ってしまう。
それでも。
たった一筋の光だけは、まだ手放したくなかった。
分岐点に差しかかると、悠太とは別れる。
そこから先は、もう暗いだけの日常だ。
下駄箱を覗けば、案の定、画鋲で溢れ返っている。
わざわざお金を使ってまで嫌がらせをするなんて、人間はなんて愚かなんだろう。
それとも——私にそこまでの“価値”を見出しているのだろうか。
そんなことを考える自分が、ひねくれ者に思えてくる。
教室のドアの前に立つと、筋肉が硬直するのがわかる。
慣れすぎたのだ。
何度も水をかけられれば、どうよろけるかも理解してしまう。
だから、体に力を入れて受けた方がまだマシだ。
ドアを開ける。
——バッシャーン。
冷たい水が頭から降り注ぎ、髪を伝って肩、腕、体、脚、つま先へと流れ落ちていくのがわかる。
主犯は見なくてもわかる。愛莉だ。
私の何が気に入らないのだろう。
それとも、噂されている私が“いちばん扱いやすい”だけなのだろうか。