テラーノベル
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「ひ……ひゃあぁぁっ!」
素っ頓狂な声を上げ、寿司子が思わず後ずさる。
目の前に現れたのは――『本物』の春の☆湯煎式だった。
反射的にリコを見る。
リーダーのアカネに肩を組まれ、真顔で硬直している。そんなリコの姿は初めて見た。
ステージ中央。
春の☆湯煎式のセンターが声を上げる。
「おっけー!いっくぞーっ!! 」
リソを中心に、全員が寸分の狂いもない動きで踊り出す。
口パクではない、生の歌声。息の揃い方、身体のキレ、空気の支配力――。
(あ……全然、違う……)
自分たちがやってきた“モノマネ”との圧倒的な差に、寿司子は足がすくむ。気づけば、ステージの端へと下がっていた。
その時だった。
曲の終盤、リソがまっすぐ寿司子の元へ歩み寄り、迷いなくその手を取った。
軽やかに引かれ、ステージ中央へ。
至近距離で合うリソの瞳が、無言で語りかけてくる。
── 一緒に踊るよ
手をつないだまま、同じ振り付けをなぞる。
何十回と練習したはずの動きなのに、指先さえ思い通りに動かない。
だが、リソは握った手ひとつで、寿司子を右へ、左へと魔法のように導いていく。
合わせているのではない。完全に「操られている」のだ。
その瞬間、寿司子は悟った。
(『本当』の大トリは……『本物』だった……)
2曲目、フィニッシュでポーズ。
春の☆湯煎式とイナリズシは、揃って――いや、揃えさせられて立っていた。
スタジオがひっくり返りそうな拍手。
「ま、まさか! 本物の春の☆湯煎式だぁ!」
司会が飛び出し、興奮気味に叫ぶ。
リソたちは「お邪魔してまーす♡」と軽やかに応じ、楽しげに場を回し始めた。
寿司子の耳には、もう何も入ってこない。
出番が終わったのなら、ただ早く逃げ出したかった。
「いやぁ、でもこの子たち、失礼なコントやっちゃってゴメンね!」
司会が、突然こちらに振る。
「ほら、イナリズシも謝って!」
次の瞬間――
「すみませんでしたぁ!!」
寿司子が勢いよく床に額をつける。
「あ……すんませんでしたぁ!」
リコも反射的に続き、床に這いつくばる。
観覧席から、どっと笑いが起きた。
「寿司子、ナイスアドリブやで……」
そう言いながら、リコがちらりと顔を覗き込む。
そして、息を呑んだ。
「あかん……これ……ガチや……」
寿司子の顔は真っ赤で、小刻みに震えていた。
「んも〜っ!」
リソが二人の前に立ち、可愛らしく頬を膨らませる。
「後ろで聞いてて、『イメージ壊れる!』って怒りたかったんですけど!」
一拍置いて、
「でも……面白すぎて、笑っちゃいました!だーっはっはっはぁっ!!」
アイドルらしからぬ豪快な笑い声がスタジオに響く。
(あ……人気なの、わかるわ……)
リコは妙に納得してしまった。
「イナリズシさん♡
これからも、おもしろ〜いお笑い、頑張ってくださいね♡」
二人を立たせ、がっちりと握手する。
(子供の頃、アニメや特撮で見たな……
主人公の偽物が、本物に成敗されるやつ……)
寿司子は引きつった笑顔のまま、握手に応えた。
ADがカンペを掲げる。
『このままエンディング行きます』
出演者全員がステージに集まり、カメラに手を振る。
中心には春の☆湯煎式。
イナリズシは、一歩下がった位置に立たされていた。
「これがあの人のやり方だ……」
隣にいたベテラン芸人が、ぼそりと囁いた。
スタジオの最後部で。
藤原Pは、満足げな微笑を浮かべていた。
──続く
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