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そのことに何となく罪悪感を覚えながらも、リリアンナはまるでナディエルからのその言葉を封じたいみたいに矢継ぎ早に続けずにはいられない。
「もちろん! 私だってよくないことだって分かってるわ! でも……カイルは私たちのせいであんな目に遭ってしまったのよ? 放っておけるわけないじゃない!? なのに!」
興奮した様子のリリアンナに、ナディエルが「お嬢様……」と握ったままの手をそっともう一方の手で包み込んでくれる。
リリアンナはそんなナディエルの穏やかな声音に声のトーンを落とした。
「無理をし過ぎだってランディから叱られて……。今ね、私、カイルが目を覚ますまでの間、彼の様子を見に行ってはいけないって禁止されてしまってるの」
リリアンナの声からは、彼女がその措置を不満に思っていることがありありとうかがえた。ナディエルとしては主人の想いが嫌というほど分かる。正直な話、ナディエルだってリリアンナには無理をして欲しくない。
でも、今のリリアンナは、ナディエルに自分の気持ちに寄り添って欲しいと希っているというのも痛いほど伝わっていた。
ナディエルは困ったように眉を下げると、言葉を探すようにリリアンナの顔を見つめた。
「……お嬢様は、本当にお優しい方ですね。それにお強くていらっしゃる」
自分はオオカミに襲われた恐怖で、熱を出して倒れてしまったというのに、自分より幼いリリアンナは同じような思いをしながらも、気丈にもカイルの傍へ居続けたというのだ。それは、ナディエルにとって驚愕の告白だった。
自分と同じように昏倒してくれていたならば、侯爵閣下も、リリアンナに恨まれる真似をしなくて良かっただろう。
そう思うと、城主様のことも気の毒に思えて……。
結果、ナディエルはそれ以上リリアンナに寄り添う言葉を紡ぐことが出来なくて、ただただ手の内にあるリリアンナの小さな手を握り続けることしか出来なかった。
ナディエルがほんの少し目を離したすきに出来てしまった、リリアンナの手指の荒れのことも一大事のように感じてしまう。
(早く元気になってリリアンナ様のお傍に戻らないと……)
自分がいなきゃダメだなんて自惚れるつもりはないけれど、心配をひとつでも減らすためにナディエル自身がリリアンナの傍へ一刻も早く戻りたいと思った。
ナディエルに苦言を呈されなかったリリアンナは、胸の奥に溜めていた重いものをほんの少しだけ下ろせた気がして、ほうっとひとつ、吐息を落とす。
「ナディ、私の思いを否定しないでいてくれて、有難う。早く元気になって戻ってきてね? 私、ナディがいないと寂しい……」
リリアンナの荒れた手を気遣うようにさすってくれるナディエルに、リリアンナは淡く微笑んでみせる。
そんなリリアンナに、ナディエルは「お嬢様……っ」と目にうっすらと涙を浮かべた。