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あの日、結局二人は来なかった。
「勇ちゃんごめん、今日行けなくなった」
「ごめん、やっぱり行かないでおくわ」
ほぼ同時に届いた俺宛のメッセージ。
いつまで経っても来ない二人に、そろそろ連絡を入れてみようかと思っていた矢先だった。
勘繰るなと言う方が無理だ。
明らかに、二人の間に何かあったのは明白で、考え得る可能性をいくつも頭の中で挙げたが、そのどれもが最後に見た二人の雰囲気からはしっくり来るものではなかった。
今日、あの日以来のメンバー揃っての撮影が行われる。
あの時、返信することが出来なかった。文字で確認するのが怖かったのかもしれない。この落ち着きのない気持ちを鎮めるべく、今日この場で二人に直接会って何があったのか問いただそうと考えていた。
だけど。
控え室に入ってきた仁人の様子を見て、俺は拍子抜けした。
「おー勇人、おつかれさま」
そう、
あまりにも「いつも通り」の仁人だったからだ。
「お、おう、おつかれ」
「あれ、みんなはまだ?」
てっきり。
深刻な顔で入ってくると思っていた。
それが、まるでいつもと変わらない仁人の姿に、俺の方が狼狽えた声をあげてしまう。
「じ、仁人?」
「ん、何?」
「え…い、いや…」
あの日感じた違和感は、気のせいだったのだろうか。最年長としてある程度はメンバーのことはわかってきたつもりではいた。だがしかし、今目の前の仁人からは、俺が心配していたような感情は読み取れない。探るように顔を見ると、首を傾げて大きな瞳に不思議そうに見つめ返された。
言い淀んでいる間に、もう一人メンバーが入ってきた。
舜太だった。
その瞬間。
舜太の顔を見た瞬間。
俺の違和感は気のせいではなかったと確信できた。
「舜太、おはよー」
「仁ちゃん…」
仁人と違って、いつもからは想像もつかない程の神妙な面持ちの舜太。
部屋には俺もいるのに、舜太にはまるで仁人しか見えていないようだった。
部屋に入ってきた流れのままに、舜太は仁人のもとへ向かった。
「仁ちゃん…あのさ、今日撮影終わったら時間ある?」
「ん?あるよ」
「え…ほんま?なら、ちょっと話せる?」
「おー?なんだろ、とりあえずオッケー」
二人の会話だけでは何があったかまではわからない、それでも確実に二人の関係性は変わったように見えた。少なくとも舜太は、だ。
ただ、仁人の反応が引っ掛かった。
おそらく、舜太は驚いている。
二人の間で起こった「あの日のこと」を話そうとしている様子は、俺から見ても明白なのに。
当の仁人は、本当に思い当たりがないとでも言うように、俺に同意を求めるような素振りで微笑みながら答えたからだ。
ふと、舜太が腕を伸ばしかけて、仁人に触れようとした。スローモーションのようなその動きの先を辿ると、瞬時に怯えたように目を見開いた仁人の顔と、肩が一瞬だけ、びくりと震えた。
「!」
その瞬間、俺は何か胸騒ぎを覚えて、本能的に舜太の手を掴むと押し戻していた。
それで初めて俺がいることに気がついたかのように、舜太は目を見張った。
「あ…勇ちゃん」
舜太の声が聞こえたのと、吉田さーん、とスタッフから声がかかったのは同時だった。
「?ちょっと行ってくるね」
仁人は自分の肩をさすりながら、自らの反応と俺の行動の双方に理解が及んでいない様子で、少し戸惑いながらも部屋を出ていった。
その場に取り残された俺と舜太は、お互いにどちらから話を切り出すかで一瞬黙った。舜太の腕を離すタイミングを見失った俺はなぜか心臓が早く打つのを止められない。
「勇ちゃんごめん、」
最初に口火を切ったのは舜太だった。
次の言葉を、俺なりにいろいろ予想をしてみる。
ダンスのことで仁人に怒られた?それとも喧嘩?はたまた脱退とか…?
あの夜、頭に浮かんだものをもう一度繰り返した。
そんな俺の想像とは裏腹に、舜太から発せられた言葉は耳を疑うものだった。
「俺、仁ちゃんのこと抱いた」
ざわりと心が波打った。
舜太の言葉を頭で理解するよりも早く、感情が湧き上がるのを感じた。
まっすぐ、こちらを見つめる瞳。そこには挑戦的な、という表現が相応しい、仄暗い熱が渦巻いている。
その熱に当てられて、俺の頭に血が昇っていくのを感じる。
自分でもわかるほどに体が熱を持ち始める。
「仁人を…抱いた…?」
よく声が出たと思う。
絞り出すような感覚で発した言葉は、しかしはっきりと部屋に響いた。
「あの日、勇ちゃんの家でご飯会やろうってなった日、あのとき俺と仁ちゃん、ヤってたんよ」
今度こそ、言葉を失った。
仁人が?舜太と?
なぜそうなった?あの日そんな雰囲気は一ミリも感じなかった。
本当に?いや、それは嘘だ。
舜太の仁人を見る目。そこに宿る感情に本当は気づいていたのではないか?
いつか、その熱が溢れ出してしまうのではないかと、心のどこかで感じていたのではないか。
見て見ぬふりをしていたのは俺じゃないのか。知っていたじゃないか。
考えたくもないのに、舜太の腕の中で喘ぐ仁人が脳裏をよぎる。白い喉を仰け反らせて、瞳を快楽に歪めて、体に受ける衝撃に合わせて、緩んだ口からは涎と共に艶やかな嬌声をあげて…霰もない…
「最っ低だ…っ」
それは舜太に対してか、はたまた自分自身に対してか。
俺は頭から仁人の姿を消したくて、思わず近くにあったパイプ椅子を蹴り飛ばした。
「ふざんけんなよっ…!おまえ…」
情けないことに、俺は泣いていた。
舜太はその場から動かない。
「なんでそんなこと…」
「俺、仁ちゃんが好きだから」
「…っ」
「仁ちゃんに、俺のこと見てて欲しい」
「だから、無理矢理にでも、仁ちゃんと繋がりたかった」
無理矢理…?
俺の感情は、一瞬動きを止めた。
次の瞬間、さらに大きな波に飲まれるまでそう時間は掛からなかった。
「てめぇ…っ舜太!無理矢理ってなんだよ、どういうことだよっ!」
アイドルだから顔はダメだ。
頭によぎった考えにつくづく情けなく感じながらも、俺は舜太のシャツを掴み上げていた。
「無理矢理襲ったのか…っ!?仁人のこと…!」
「せや!俺だけの仁ちゃんにしたかってん!!」
「おまえ…っ、!」
行き場のない怒りが身体中を渦巻いている。このまま舜太にぶつけられたらどんなに楽か。
震える拳を抑えることもできず、かといって力任せに爆発させることもできず、頭がパンクしそうになる。
「無理矢理だから怒っとるん?それとも相手が仁ちゃんだから?」
俺は自分の怒りに夢中で気が付かなかった。
舜太も泣いていたことに。
「舜…」
「俺はあれが正しかったとは思ってへん、でも、後悔もしてない、、なのに、、」
「さっきの仁ちゃん、俺のこと全然見えてなかった」
俺は一瞬息を止めた。
怒りが収まったわけではない。
だけども。
舜太の言わんとしていることが理解できたのも否めなかった。
無理矢理関係を持たされたにしては仁人はいつも通りすぎた。
さっき感じた違和感はこれだったのか。
舜太の胸ぐらを離すと、俺は反射的に部屋を飛び出した。
最後に見た舜太の顔は辛そうに歪んでいた。
コメント
1件
あんこさん、第2話読みました…!😭💦 もう冒頭から仁人の“いつも通り”に違和感しかなくて、舜太の「抱いた」発言にはマジで息止まった…。無理矢理って言葉に勇人がキレて椅子蹴るところ、感情が爆発しててこっちまで苦しくなったよ。でも最後の「俺のこと全然見えてなかった」って舜太の泣き顔が刺さる…。3人の関係、どうなっていくのか気になりすぎる!続きが待ちきれないよ〜🌸✨