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「痛いほどの夕焼けの下で」ちょいBL
町を包むような大きな河川敷。秋が深まり、赤く色づいた夕陽に照らされる河原は、どこか懐かしさと切なさに満ちていた。
碧(あおい)は、そこで自転車にまたがりながら、遠く対岸にぼんやりと目をやっていた。息が白くなるほど冷たい風が吹いている。でもその冷たさが、むしろ心地よく感じていた。
「碧、遅い!」
後ろから声がかかる。振り返ると、湊(みなと)が走ってくる。頬を上気させ、息をきらしながら、碧のすぐそばまで駆け寄ってくる。
「ごめん、考えごとしてて……」 「またか。碧はすぐひとりで難しくなる。」
湊は当たり前のように、碧の隣で空を見上げる。その素直さと温かさは、いつだって碧を和ませてくれた。
「きれいだな。今日の夕焼け。」
「うん……でも、ちょっと痛いくらい赤い。」
湊がふっと笑う。それを見て、碧も小さく笑顔を浮かべた。
***
彼らがこの町で出会ったのは、高校一年の春だった。転校してきたばかりの湊は落ち着かず、クラスの輪に馴染めずにいた。そんな時、無口だけれど不思議に優しい碧が、誰よりも早く自分に声をかけてくれたことを、湊は今でも鮮明に覚えている。
それから二人は同じ自転車通学グループになり、気が付けば放課後も休日も一緒にいるのが当たり前になっていた。湊は碧にとって、心を許せる唯一無二の存在になった。
だが、心の底に秘めた気持ちは、やがて痛みをともなうようになる。
湊への想いが「友達以上」に変わったことを、碧は湊に絶対に気付かれたくなかった。
本当は、もっと隣にいたい。だけどこのまま気持ちを伝えてしまえば、今のふたりの関係すら壊してしまいそうで――。
***
それでも時は残酷に進む。高校三年の秋、ふたりはそれぞれ自分の進路で悩んでいた。
「東京の大学、受けようと思う。」
夕焼けの下、湊が告げたその言葉に、碧の胸が裂けそうになった。
「そうか、湊ならきっと大丈夫だよ。」
無理やり笑って、心の動揺を隠す。なぜ笑えるのか自分でも分からない。だけど、本当はもう何もかもが痛いほど辛かった。
湊が河原の土手に座り込み、空を見上げる。
「なあ、碧。オレさ……この町も、碧と過ごした時間も、全部大事に思ってるんだ。だけど、そろそろ自分の道をちゃんと考えなきゃって思った。」
言葉を重ねる湊の声は、少しだけ震えていた。それが碧にはよく分かった。
「……湊、もし、オレが……」 碧はもう一歩、気持ちを吐露しそうになって、ぎゅっと拳を握りしめた。
「……ううん、なんでもない。」
「碧?」
湊が不思議そうにのぞきこむ。でもその瞬間、夕陽は一層赤く、強く、ふたりを照らしていた。
「湊、東京に行っても……元気でな。」
本当は、「行かないで」って言いたかった。だけど言えなかった。いや、言いたくなかったのかもしれない。「友達」のままなら、これまで通り一緒にいられると思っていたから。
そんな自分が情けなく、そしてどうしようもなく痛かった。
***
卒業式の朝――。
河川敷で待ち合わせたふたり。春風が桜のつぼみを揺らしている。
湊はどこか決意したような顔で、碧をじっと見つめる。
「今日、ちゃんと伝えておくよ。碧、オレ……お前が好きだ。」
一瞬、時間が止まったようだった。
「ずっと前から、本当はずっと……この気持ちだけが、痛いくらい心の中で燃えてた。もし、オレのこと……」
碧の目に涙があふれる。
「……オレも、ずっと湊が好きだった。」
「え?」
照れくささと嬉しさと、いろんな感情が混ざったまま、ふたりは抱き合った。頭上には赤く染まる朝焼けと、やがて始まる新しい季節の匂い。
「東京でも恋人同士でいよう!」
「うん、きっと大丈夫だよ。」
痛いほどの夕焼けの下で、ふたりの想いと心は、ありのままつながった。あの日の痛みは、きっと、かけがえのない宝物に変わる。
そして、河川敷の赤い空の下、これからの未来を見つめて、ふたりは肩を並べて歩き出した。