コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
昼休み終了のベルと同時に、ミンが「じゃあ」と手をあげ去っていった。マチコは、この時間空きなんですと言ったきり横顔になり、スモッグ空を見ている。健太は何度もコーヒーをすするうち、ついにマグカップの底を見た。天気くもりだねと彼が一声かけると、マチコはゆっくりと向き直った。そして、この国へ来てから二ヶ月になるというからいきさつを聞くと、彼女は少しずつ口にし始めた。彼女の話はこんな感じだった。最初の二週間は他の語学学校にいた。後で分かったことだが、そこは知る人ぞ知るビザキープのための学校で、名簿上在籍している生徒の多くは、授業料だけ払って学校には顔を見せない。それで何をしているのかといえば、日本人街のおみやげ屋、居酒屋、ナイトクラブ、旅行会社などで働いている。生徒が集まらない授業は容赦なく休講になる。そこで転校を考え、ダウンタウンの文化センターに相談すると、ここを紹介された。そんなわけで、クラスに知り合いがいなくて困ってたところに、たまたまミンが隣の席に座ったのだという。
彼女の話している意味はわかる。確かに質問したのは健太の方だが、彼の意識はどこか遠い別なところにある。
「なんだか私ばっか話しちゃった。今度はケンタさんの話、聞かせて」
彼はうーんと言いながら、高天井を仰ぎ見た。万国旗が窓から天井の中央へ、中央から出入り口へ連なっている。今度は逆に、出入り口から中央へ、中央から窓へ旗を眺めて、窓まで行くとまた折り返した。
「どうして黙ってんの?」
話は変わるけど、ミンはどうしてそんなに授業出てるのかなというと、彼女は知らないといって、再びスモッグ空の方を向いた。