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俺の部屋には所謂、幽霊というものが住んでいる。
この部屋、事故物件ではなかったはずなのに。
しかもこの幽霊、視えてるのは俺だけ。
分からないけど人に危害を為すような悪いものじゃないとは思う。
俺が退院して部屋に帰ってきた瞬間に目が合った時は泥棒かと思ったくらいはっきりしていた。
人間本気で驚いた時って声が出ないのはホントだった。
『おかえりなさい』
怖い、とかはなかった。
そもそも幽霊自体信じてなかったのもあるけど、その幽霊を見て恐怖感とか不快だとかそういう気持ちが全くなかったから。
落ち着いた、ほんの少しだけ舌足らずな声。
「た、だいま…?」
生きてる人間なんじゃ、と思って足元を見ればあるはずのものは透けていた。
幽霊ってホントに足ないんだな、と驚きを通り越して感心していた。
入院前はいなかったその幽霊の名前をとりあえず聞くことにした。
仲良くなろうとか、友好関係になろうとかは一旦置いといて。
『……そっか。…ハジメマシテ、になっちゃいますね』
そう呟いたあと彼は”トラゾー”と名乗った。
名乗る時に少しだけ寂しそう見えたのは少し痛む頭のせいにして。
『49日間だけ、ここに住まわせてもらえませんか?そうすれば勝手にいなくなるんで。…と、いうか俺がここから離れられないと言いますか…』
正確に言えば45日くらいですが、と付け足した。
「地縛霊的な?呪われたりしない?」
『そういう悪質なもんじゃないですよ、あんたやっぱ失礼だな』
「…ん?やっぱ?」
『、いえ。優しそうでいい人そうに見えて実は口が悪そうだなって思っただけです』
若干、引っ掛かりはしたけどまあ実際のところそう言われたこともあるから否定はできない。
え?
あれ?
誰に、言われたんだっけ?
何か、とても大切なことを忘れてる気が。
『…大丈夫ですか?…えっと、』
「クロノア」
『、、、クロノア、さん』
俺の名前を呼んだ幽霊…トラゾーは少し表情を和らげた。
呼べたことが嬉しいというように。
「大丈夫だよ。心配かけちゃったね」
『少し休んだ方がいいんじゃないですか?』
ふわふわ浮いてるトラゾーが寝室の方を指差す。
「寝るとこ何で知ってるの?」
『……暇で探索してました。純粋な好奇心なんで深い意味はないですよ』
「…まぁ、お言葉に甘えるよ。実はまだしんどいからさ」
そう言うとトラゾーは苦い顔をした。
揺れる緑の意味は分からない。
『ごゆっくり。俺はその辺浮いてるんで』
すぐに表情を戻して細められる目を見てこんな顔をさせてしまった、と何故か後悔の念が湧いた。
「……じゃあ寝てくる」
『…はい、おやすみなさい。クロノアさん』
柔らかく笑う顔とその心地の良い声に頭痛が少しだけ引いた。
閉まる寸前のドアの向こう、泣きそうな幽霊が浮いていた。