私は人に優しくしたことがなかった。物心着く頃には呪いがかかり、気を使うことはできても優しく接することはできなかった。優しさと気遣いは違う。気遣いも優しさの一つかもしれないが優しさが気遣いなわけではない。
ショッピングモールで迷子になっている子。公園で足を怪我して泣いている子。そんな子に「どうしたの?」と声をかけることができたらどれだけ生きがいを見つけることができただろうか。無論、人の看病なんてしたこともなかった。
理央さんをベッドに運び布団をかける。とりあえず体温を測り、熱がないか確認する。息が荒く、「ハァ、ハァ、、」と薄い空気を吸うように浅い息をしていた。
熱は38.4度、微熱なんかではない。インフルエンザは時期ではないし私はこの病気が何なのか見当もつかなかった。濡れたタオルをおでこに乗せスマートフォンで何の病気なのかを調べる。
30分ほど検索ワードを変えてみたり、色々なサイトを見てみたりしたが、結局なんの病気か糸口を掴むことはできず今の私に出来ることはせいぜい頭のタオルを冷やし直したり手を握ったりしてやることだけだった。
昨日理央さんに無理させすぎたからだろうか?私の無神経が呪いの勢いに拍車をかけたのだろうか?目も開かない理央さんを見ながら心臓の音を早まらせた。
「お願い、、お願い、、、理央さんだけわ、」 私は理央さんの左手を両手でギュッと握り、何度も何度もお願いした。時間が経つほど苦しそうな息の音が大きくなって行く気がした。
学校に連絡もせず、朝食も昼食も食べず2時になった。私が出来たことは汚物を処理することと頭を冷やしてあげることだけだ。でも私は慣れない看病とずっと緊張の糸を張っていた疲れで理央さんのベットを枕に寝てしまった。
「おはようございます。」
聞き慣れた声に目を覚ます。
「あっ、、大丈夫ですか、、」
「はい、熱は下がりました。まだ少し頭痛はしますが大丈夫です。本当にありがとうございます。」
「良かったぁ。」
私は安堵と疲れが深く混ざり合ったため息をつく。
「少し昨日の理央さんの気持ちがわかった気がするわ。」
「そうですか、、これに懲りたら辞めてくださいね。」
「はい、、」
無意識に涙が流れていた。私の左頬には初めて人を思った優しさの涙が流れていた。「泣かないでください、私はここにいますから。」 そう言って右手で私の頬を伝う涙を止める。 そして目を細くして私を見て笑った。その顔のほっぺたには綺麗な雫がゆっくりと流れていた。
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