「アイツが、そう言ってたの?」
夕食を済ませたディオンは、オリヴァーから世間話を交えながら、仕事の報告を受けていた。
「エマが話すには、リディア様はその様に申されて、お寂しそうに微笑まれていたと」
「……そう」
暫くオリヴァーと会話を交わし終えたディオンは、一人になった部屋で、窓辺に佇んでいた。壁に背を預け、窓の外を眺める。明日は、雨かも知れない。今夜は月どころか星一つ見えなかった。空は雲に覆われ、本当の暗闇が広がる。
「家族は、一緒にいるべき……か」
妹は、どんな思いで言ったのだろうか。母親が亡くなってから、妹は殆ど一人だった。ディオンは屋敷を出て、黒騎士団の宿舎に入った。父は元々忙しい人故、屋敷には滅多に帰らない。きっと幼い妹は……孤独だっただろう。
屋敷には使用人であるシモンやハンナ、他の者達だっている。だが、やはり家族とは違う。
「分かってた……」
見ないフリをした。妹に背を向け続けた。幼い妹……だが、自分もまだまだ子供だった。何が、正しいのかなんて分からなかった。あの時は、ああする事が自分の中の正しさだと信じた。
(守ると、約束したんだ)
でも、当時自分は何も出来ない無力な子供でしかない。それが現実だった。妹を守るには、強くなるしかない。
あの男は、強かった。権力も地位も、全てを持っていた。侯爵であり、白騎士団長でもあった。ディオンも強くなりたいと、そう願った。だが、あの男のようには絶対にならないと誓った。
実母は、あの男の所為で……何時も嘆き苦しみ、そして死んで逝った。
あの男の再婚相手であったリディアの母も、微笑みの裏で苦しんでいるのを、知っていた。……全て、あの男の所為なんだと思った。何時か必ず償わせてやると、そう思っていたのに。
「勝手に、死ぬなよ……」
あの男の死から六年が経つ。
葬儀の日、久々に再会した妹は少しだけ幼さが抜け、成長していたのを思い出した。
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