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「待っ、…待て!」
混乱した時に自室に逃げ込む癖を恨むしかない。
ぺいんとに速攻で見つかった。
よくよく考えれば俺の次に足の速く、尚且つ考え方も似てるぺいんとに追いつかれて見つかるのなんて時間の問題だったんだ。
そして俺の叫び声で気付いたクロノアさんも来てしまった。
逃げ場はない。
ドアはぺいんとたちの後ろ。
窓はあるがとてもじゃないが飛び降りて無事で済む高さではない。
後ろに後ずさっていたら、何かに足を滑らせベッドに倒れた。
なんてタイミングで。
「お、落ち着いて!ぺいんともクロノアさんも今はこっち来ないで!」
「だって口で言って分かんないなら身体に教えるしかなくね?」
ぎしりとベッドが軋む。
「バカバカバカ!んなワケあるか!」
「トラゾー、ダメ?」
「ひぇ⁈」
「俺、トラゾーに触りたい」
「ちょっ…、ゃ…」
首筋を撫でられて、くすぐったさで肩がすくむ。
「俺もトラゾーに触りたいよ」
背後に回るクロノアさんと前にいるぺいんとに挟まれて動けない。
「ぅゔ…っ」
するりと服の中に手が入る。
「ふぁ…⁈」
その冷たさに声が裏返った。
「トラゾー、傷跡見してほしい」
耳元でクロノアさんが囁く。
「ひっ…」
「トラゾーが頑張って耐えてきた印を見せてほしい」
「見たじゃんか…!」
あの時。
「ちゃんと見たい」
「うぅ…み、るほどのもんじゃ…っ、ぅ」
「「隠さなくていいから」」
両耳で囁かれてびくりと肩が跳ねる。
「ずるぃぃ…」
あれよあれよと上衣を脱がされてしまった。
「見れたもんじゃ、ないだろ…」
傷だらけの体なんて誰が見て喜ぶのか。
憐れまれるのも悲しまれるのも嫌だ。
この傷を見て喜んでいたのは一定数の変態だけだ。
「これ、」
だいぶ薄れた横腹の傷跡。
引き攣れは起こしていなくて綺麗に戻ってきている。
「っ、ぺいんと…!」
「これも、これも…」
傷跡をなぞる手はあいつらとは違って労わるような触れ方だったが、如何せん変な感覚がして肌がぞわぞわする。
「も、あいつらみたいなことすんな…!」
「「………あいつら?」」
途端に低い声でハモる2人に再びしまったと口を塞ぐ。
「あいつらってどう言うことだよ」
「あ、い、いや…それはっ…」
「トラゾー、まだ隠してたことあったの」
「ひっ…」
一際目立つ古傷をクロノアさんの爪でなぞられる。
「殺されかけたとは聞いたけど…。それに関しても、拷問や尋問受けたなんてことも、報告書には書いてなかったし聞いてないんだけど?」
俺はバカか。
滑らせた言葉は取り消せない。
「ぅ、あ…ッ」
「変なことされてたんじゃねーよな」
「それはないっ…される前に逃げ………ぁ」
学習能力がないのか俺は。
まだうまく頭が回せてない。
やってしまった。
これも一生隠し通すつもりだったのに。
「「…………へぇ?」」
悪い顔してる。
非常に悪い顔をしている。
ぺいんとは兎も角、ここまで悪い顔をしたこんなクロノアさん見たことない。
ピッと小型の通信機を押したぺいんとはとてつもない凶悪な顔で喋り出した。
「…あ、しにがみくん?ごめんな、忙しい時に。ちょっと、調べてほしいことが……うん、そうそうそれは大丈夫。…え?まだ泣かせてねぇよ。……で、調べてほしいことがあって、トラゾーが今まで潜った先にいた変態野郎どもを調べてほしい……あ?どうするもこうするもぶっ殺すに決まってんだろ。……あぁ、それは分かってるって。あー簡単に殺すなってこと?まぁ、俺もそのつもりはねぇよ」
「ぺいんと、ちょっと代わるよ」
クロノアさんもすごい笑顔で自分の通信機を押した。
「はい、どうぞ」
「あー、しにがみくん?俺からもお願いね?草の根をわけてでも見つけて。……え?命令かって?…そうだね、総統命令。生け捕りにして生きてる方が地獄って思わせるから……ん?トラゾーに聞きたいこと?分かった」
「?」
ピピッと自分の通信機が鳴る。
「…しにがみさん?」
『大変なことになってますね』
「はは…」
カタカタとすごい速さのタイピングが聴こえる。
もう調べ始めているようだ。
『まぁ、あなたはそれだけ愛されてるってことですよ。僕もトラゾーさんのこととっても大好きですし、大切ですからね』
「うん、ありがとうございます。俺もしにがみさんのこと大切だし、大好きです」
『ゔ……嬉しさとあとからの報復で胸が…』
報復?と思いつつ、交互に2人を見た。
俺を挟む2人は笑っている。
その笑顔の意図が読めそうな、読まない方がよさそうな気がして急いで下を向いた。
「……あの、俺に何か話があるんじゃ?」
『…おっと、…そうそう、トラゾーさん、種類に問わず何か薬を盛られたりしましたか?』
「…いや、極力潜入した先のものは口にしないようにしてたんですけど、………」
『…その沈黙は肯定と捉えますよ?』
バレて逃げる途中、その手練に捕まり縛られたときのことを思い出す。
いずれにせよ、嫌な記憶である。
「……ホントに数回かだけ、弛緩剤と自白剤と、よく分からないめちゃくちゃ甘味の強い変な薬を同時に打たれたり、飲まされたことある…」
『トラゾーさんがだなんて…相当の手練れに不意を突かれたんですね。……で、それがぺいんとさんの言う変態野郎共ですか?』
「はい…多分、…というか、そうです…」
前後の殺気がすごくて顔を上げられない。
『ふむふむ、』
自分の手をじっと見る。
まるで断罪を待つ罪人の気持ちだ。
『ちなみにトラゾーさんの言うめちゃくちゃ甘い薬ってのは多分、媚薬でしょうね』
聞き覚えのあるようなワードが出てきて思わず顔を上げた。
「び、やく…?びやく…ビヤク……媚薬⁈」
頭の中で漢字にようやく変換されて大きな声が出てしまった。
「そんなもの俺に使って…」
『そりゃあ、弛緩剤と自白剤と一緒に打ったり飲ませたりしてますからね。……あなたによからぬことをして色々聞き出そうと……まぁ、兎に角分かりました。トラゾーさんの潜入先の変態野郎共を調べるのは僕に任せてくださいって2人に伝えといてください。…あと、頑張って下さいね!』
ピッと通信が切れた。
「え…待って⁈何を頑張んの⁈ねぇ、ちょっとしにがみさん!」
通信機を何度も押すが反応しない。
完全に切られていた。