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#異世界転移
花月夜れん
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設楽理沙
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耀聖(ようせい)
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耀聖(ようせい)
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「申し訳ございません。何か御用でしょうか」
「いや、そうではないが、あの後妃殿下に捕まって帰れないのかと思って……麗霞? 」
見上げた先にある煜峰の顔は、驚いたように目を見開いている。
「はい」
「泣いていたのか?」
泣いてる?
言われてはじめて自分が泣いていたのだと気が付き、慌てて指で涙を拭うと、なぜだか余計に涙が出てくる。
多分煜峰が、暁明皇太子と半分血が繋がっていて、顔が似ているせいだ。皇太子夫妻を思い出して余計に泣けてくる。
「もっ……申し訳ございません」
「なぜ泣いている」
「それは……」
ただの官女が妃殿下の境遇を思って泣いているなど、おこがましいというもの。適当な理由が思い浮かばず黙ってしまうと、煜峰は「まさか」と眉をひそめた。
「妃殿下に何か言われたのか?」
「いえ! それは絶対に違います!!」
とんでもない思い違いをされたら困る!
ブンブンと手を振り否定したが、余計に怪しまれてしまった。疑わしげな目で見てくる。
「あの後妃殿下に呼び止められていたことは知っている。官女をしばらく借りると本人が言っていたからな。春画のことで何か言われたのであろう?」
「そうではありません! ……ただ」
「ただ?」
「妃殿下があまりにもお辛そうで、それで……。私の絵を見ている間は、心の穴が埋められるようだと仰っていたんです。これからも夢の世界へ連れて行って欲しいと。それは私が描いた絵と現実とが、大きく乖離しているからではないでしょうか」
「お前は以前、春画にもロマンスが必要と言っていたな。ならば、絵と現実がかけ離れていたとしても当然であろう。妃殿下にとって最も重要なことは世継ぎを作ること。閨事もそのための手段に過ぎん」
閨事がただの手段?
さらりと言った煜峰の顔は、さも当然だとでも言いたげだった。
確かに皇太子の妻となったからには、世継ぎを生むことが最重要課題だろう。だけどそれは、皇太子妃としての仕事上の話。
暁明と桜綾という夫婦がただの男と女として、閨事に励んでほしいのだ。
「手段……ですって?」
さっきまで悲しくて仕方がなかったのに、急に腹が立ってきた。おかげで自分がなんでこんなに気分が沈み、モヤモヤとするのか分かった気がする。
キッと煜峰を睨み据えた麗霞は、懲罰覚悟で訴え出た。
「その考え方が妃殿下を苦しめていると言っているのです。大体なんですか、あの絵は。寝所にあんな恐ろしい虎の絵を飾ったら、ムードもへったくれもありませんよ。他の絵もそうです。龍だの天神だのって! 確かに縁起のいい絵柄ではありますが、女性に贈るのなら普通、花鳥画や山水画を選べばいいものを。一体どんなセンスをしているのです?!」
送り主は高官なのだろうが、あんまりにもセンスが無さすぎる。
天女の絵ならまだいいかと最初は思ったが、あの部屋にいる間、ずっと絵の中の天女に見つめられているような気分になった。
こちらを向いて僅かに微笑んでいるあの目線。正面に立っても、右側へ行っても左側に行っても目線が追いかけてくるような、そんな絵だった。
あんな絵を寝所に飾っていたら房事に集中出来ないじゃない!
「雲嵐様は花鳥画も山水画も描けるお方なのにチョイスがおかしいですよ! 天女様やら虎やらに見つめられながら房事したい変態、そう多くはありません。それに、妃殿下の所へ出入りしているという風水師もです。妃殿下はもっと愛らしいのが好みなのに、あんな無骨な部屋……! 男性の宮にいるのかと錯覚しそうになったほどです。あれではいい運気どころか、心が殺伐としてしまいます。いいですか、煜峰殿下。かっこいいのが好みの方もいますが、多くの女性の心を掴むのはカワイイです。風水よりもカワイイです! カワイイは世界を救うんですっ!!!」
熱弁を振るい言い切る麗霞に、煜峰は引き気味だ。無礼極まりない態度を咎めることも忘れ、「あ、あぁ……」と相づちをうっている。
「そうだわ……」
「?」
「やだもうっ! もっとシンプルに考えればいいんじゃない」
こんな所で妃殿下のことを思ってウジウジしてても仕方ない。麗霞に出来ることをすればいいのだ。
「ご存知ですか? 女性が深い快感を得ると、男児が生まれやすいらしいです」
「は?」
「煜峰殿下はもちろん、お金持ちですよね?」
「はあ?」
「私にいい案があるんです。協力して下さい」
お節介なのは重々承知している。
でも、現実世界でもロマンスを感じて欲しい。何もかもを忘れて快楽に溺れて欲しい。
一度でいいから、夢の世界を。
◇◆◇
絵柄や部屋の雰囲気まで……。
流石にそんなところまで気が付かなかったと、煜峰は麗霞の指摘に舌を巻いた。
雲嵐が呪符を仕込んでいることには全く気付いていないくせに、突拍子もないところに目を付けるものだ。
誰から贈られたかを確認しても、どんな絵だったのかまでは気にしていなかった。
改めて書庫から持ってきた帳簿を書斎で見ると、皇太子の妃嬪達に贈られている絵はどれも皆、猛々しい絵ばかり。麗霞の言う『カワイイ』の要素はない。
「……まさか、風水師も買収されていたのか?」
風水で死に追いやることまでは無理でも、気の流れを乱したり、男児が生まれにくくすることくらいなら可能かもしれない。むしろ暗殺するよりも陰謀が明るみになりにくく、安全なやり方と言える。とんだ盲点だった。
もしこれが事実なら暁明皇太子に報告し、部屋を改善してもらった方がいい。
もう一度暁明に会いに行こうと腰を上げた煜峰だったが、直ぐに座り直した。
「女性が深い快感を得られると男児が生まれやすい、か……。あいつの頭はどうなっているんだ」
麗霞の話を思い出して、煜峰はふっと口元をゆるめた。
確かにそんな男女の産み分け話を聞いた事ならあるにはある。が、そんな眉唾物の話を信じてどうこうしようなどと考える者が実際にいるとは。
『私としては妃殿下にただ閨事を楽しんでいただければそれで良いのですが、男児が生まれる確率が高まるのなら煜峰殿下も協力して下さいますよね?』
にっこりと笑った麗霞が続けた言葉はこうだ。
『私が厳選した絵を何枚か買って、妃殿下にお贈り下さい』
贈る絵はもちろん、その辺で売られているような半端物ではない。彼女が言うには、特に姜弘の絵がお勧めだそう。
『贈るのはいいが、それとこれとどう関係があるんだ?』
『姜弘様の花鳥画は、見ているだけでトクトクと心臓が高鳴ってきてトキメクんです。そう、重要なのはトキメキです!』
カワイイだとかトキメキだとか、もう何を言っているのかサッパリ理解が追いつかないが、何故か煜峰は了承してしまった。
自分でも馬鹿げていると思うのだが、麗霞の案を試してみてもいいのではないかと思えたのだ。
赤の他人のために泣いていたかと思ったら、今度は怒り出したり……。
何か恩がある訳でもなく損得勘定抜きに、そこまで誰かのことを思うことが出来るだろうか?
皇后も暁明も仁徳者と言えるが、麗霞にそんな尊大な言い方は似合わない。まるで自分事のように捉えて熱くなる彼女は他人という垣根を越えて、もっとずっと近しい存在に感じられる。
取り敢えず皇太子夫婦に害がなければそれでいい。
「しばらく様子をみてみるか」
コメント
1件
わー、もう麗霞ちゃんが最高すぎるわ……! 妃殿下のために泣いて、怒って、「カワイイは世界を救う」って熱弁ふるうところ、めちゃくちゃ刺さった。「閨事は手段」って言葉にブチギレするまっすぐさが気持ち良すぎる。そして煜峰が呆れつつも「様子を見てみるか」って折れるのも、彼の人となりが見えて好きだわ。次の展開、めっちゃ気になる!