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教室を出ると、廊下はやけに静かだった。
時計を見る。
午前9時12分。
「……マジで、夢じゃねぇよな」
俺が呟くと、たっつんが苦い顔で頷いた。
「窓もドアも開かない。あのモニターも……作り物じゃなかった」
俺たちは、事前に割り当てられていた教室に集められていた。
12人全員、同じ教室。
でも、さっきまでとは違う。
――全員が、何かを隠している。
「とりあえずさ」
もふくんが静かに口を開いた。
「役職の話は……今はしない方がいいよね」
「見せたら即死、ですからね」
なお兄が、小さく息を吸った。
「…怖い。誰かが、夜に……」
のあさんは、言葉を最後まで言えずに俯いた。
「死ぬとか言わないでよ……」
どぬが、弱々しく止める。
「俺、ほんと冗談でも無理だって……」
うりは、やけに落ち着いた声で言った。
「……でも、逃げられないのは事実じゃん。ならここは、ルール守って、生き残るしかないよな、」
俺は、みんなの顔を一人ずつ見た。
疑いたくない。
でも__人狼は、この中にいる。
そして、俺自身だって___
(……俺は、どうすればいいんだ)
昼前、教室のスピーカーから音が鳴った。
『現在、昼の時間です。自由に行動して構いません』
『ただし、暴力行為は禁止。処刑は、議論時間後に行われます』
人狼ゲームのくせに、「暴力行為は禁止」か…。
るなが腕を組んで、ちょっと考える仕草を見せた。
「……自由って言われてもね、外出られないし、天才のるなでも状況は詰んでるんだけど」
「その余裕、どっから来るんだよ」
俺はるなに突っ込みを入れた。
「強がってるだけだよ」
えとさんが言うと、空気がまた重くなった気がした。
昼。
教室に配られたのは、白い袋に入ったパン。
そして、放送が流れる。
『パン屋が美味しいパンを焼いてくれました』
……全員が、息を止めた。
「……パン屋、生きてるってことだよな」
もふくんの言葉に、誰も否定しなかった。
「よかった……」
のあさんが、少しだけ笑った。
(……この放送が、いつまで聞けるんだろうな)
パンを食べながら、自然と小さな会話が生まれる。
「じゃぱぱ、コーラないの?」
ゆあんくん。
「あるわけねーだろ」
俺は苦笑した。
「蟹もないし、最悪じゃんねw」
るなが肩をすくめる。
――普通の会話。
でも、その裏で全員が考えてる。
誰が、人狼なのか。
午後。
「なぁ……」
たっつんが、俺の隣で小声で言った。
「正直、俺全員怪しく見えてきてるんよね」
「……同感」
「でも、じゃぱぱだけは……」
たっつんは一瞬言葉を切って、
「信じたい」
胸が、ちくっとした。
「やめろ、そういうの。後で後悔するよ」
「それでもだ」
たっつんは、目を逸らした。
(……やめてくれ)
俺は、味方でも村人でもない。狂人なんだよ…。
でも、友達を裏切る覚悟なんて、できるわけがなかった。
午後5時。
スピーカーが鳴る。
『これより、最初の議論時間を開始します』
『終了は、5時30分』
教室の空気が、一気に張り詰めた。
「……誰から話す?」
ヒロくんが言う。
「じゃ、俺から」
もふくんが手を上げた。
「今日は……情報がなさすぎる。今、無理に決めると、取り返しがつかなくなる」
「でもさ」
えとさんが言う。
「何もしなかったら、夜に誰かが殺される」
その言葉で、全員が黙った。
「……怪しいとかじゃないけど」
なお兄が慎重に言う。
「行動が見えにくい人は、どうしても疑われますよね…」
視線が、教室を巡る。誰もが、誰かの顔を避けていた。
俺は、拳を握りしめた。
(……この30分で、誰かが選ばれる)
そしてそれは、死に直結する。
時計の秒針が、やけにうるさく聞こえた。
議論時間、残り二十分。
「……俺は、発言が少ない人が気になるかな」
シヴァさんが、静かに言った。
「誰のこと?」
たっつんが聞く。
「名指しはしたくないよ…、でも沈黙は、怖い」
「それ、全員じゃん」
るなが即座に返す。
「るな的には、情報ないのに切っちゃうの、悪手だと思う」
「でも……」
のあさんが、小さな声で言った。
「誰かを選ばないと……夜に……」
やっぱり、その先を言えず、のあさんは唇を噛んだ。
教室の空気が、どろっと淀む。
「……提案があるんだけど」
ヒロくんが前に出た。
「今日は、直感じゃなくて、消去法で考えてみるっていうのはどう、?」
「消去法?」
もふくんが首を傾げる。
「感情的になってる人、極端に煽る人、逆に、完全に引いてる人」
__俺の心臓が跳ねた。
「……正直に言うと」
ヒロくんは、少し間を置いてから言った。
「今日は、たっつんが気になるかな」
「……は?」
教室が、ざわついた。
「なんで?理由は?」
たっつんが聞く。
「たっつんは…冷静すぎる。恐怖を感じられない。状況を受け入れるのが早かったように思う、」
「それだけ?」
たっつんが笑う。
なお兄が、申し訳なさそうに言う。
「たっつんさん、最初から状況整理が早かったですよ」
「待って」
ゆあんくんが声を挙げた。
「そんなの、たっつんが得意なだけかもしれないだろ。こいつ頭よく回るし」
「……俺は」
俺は、喉が張り付いたみたいに、声が出なかった。
(言えない…やめろって…言いたいはずなのに)
時計を見る。5時27分。
『議論終了まで、残り3分』
「……決めよう」
えとさんが、硬い声で言った。
「今日は……たっつんさんで……」
「待ってくれ!」
たっつんが、叫んだ。
「俺は……俺は、人狼じゃない!信じてくれ!!」
その声が、やけに胸に刺さった。
『5時30分。投票を開始します』
iPadが、一斉に光る。
指が、震える。
(……ごめん)
俺は、たっつんの名前を押した。
――処刑は、一瞬だった。
音だけが、やけに軽かった。
次の瞬間、たっつんの姿は消えていた。
血も、跡も、何もない。
ただ、いなかったことだけが残った。
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【死亡者】 たっつん
【生存者】 じゃぱぱ、のあ、ゆあん、シヴァ、どぬく、うり、えと、ヒロ、なおきり、もふ、るな
【残り】 11人