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舐めてた。
色んな意味で舐めていた。
セイの部屋なんてすぐに見つかるだろうと高をくくっていた数分前の自分を叱りつけてやりたい。
どこを探してもセイはいない。
というかそれっぽい部屋をノックすると決まって勝手に開くのだ。
これが空想科学世界にあるという自動ドアというやつか。
そして決まっておかしな内装なのだ。
ある時は妙にリアルな人形達が不気味に笑っていた。
おそらくロウ製だろうな。
そしてまたある部屋はなぜかジャングルの中。
本物そっくり…というか多分本物の巨大鳥が闊歩していた。
まるで奇想天外な物語の登場人物になった気分だ。
まあ、そもそも物語を飛び出してワームドなる謎の脅威と戦う羽目になっているモブという立ち位置自体が摩訶不思議ではあるんだが…。
そもそも、なぜ俺はこんなにもセイの部屋探しに躍起になってるんだ?
廊下には誰の姿もなかった。
突然、背筋がスッーと冷えていく。
それと同時にやる気もそがれていった。
「部屋に戻ろう」
そう考えを改めた時、真横を何かがかすめる。
うっすらとした…何か…?
バックがイメージしたのは幽霊だ。
「ヒッ!」
ホラー系は苦手だ。まだ平和だった頃、同じ世界のモブ貴族たちと一緒に怪談話をしたことがあったが、しばらくは眠れなかった。
足がガタガタと震える。
鏡があったらおそらく顔面蒼白なモブ貴族の顔が浮かぶ事だろう。
バックは恐る恐る視線を真横に動かした。
だが、そこには何もいなかった。
気のせいだったのか?
「おや、まだ起きていたのかい?」
突然後ろから声かけられて驚いて飛び上がってしまう。
「うわあ!」
「ごめん」
申し訳なさそうに目を伏せるセイがいた。
「あっ!いや、大丈夫だ」
上昇する心拍数を落ち着かせる。
まさか、幽霊におびえていたなんて知られるのはなんだか癪に障った。
だから、気づかれないようにしなくちゃな。
「部屋は気に入ってくれた?」
「まあ…」
なんとなく、部屋を変えてほしいとは言えずあいまいな返事を返すバック。
「それはよかったよ」
「なあ。あの部屋のデザインのチョイスは誰が?」
「この船のメインサーバーはあらゆる世界の知識を取り入れている。その情報を元に再現していると認識してるけど?」
だからその”めいんさあば”って一体何なんだよ。人の名前か何かなのか?
まあ、いいや。どうせ寝るだけの空間だしな。
「お前の部屋は?ワームドが現れた時とか何かあったときのために定位置は教えといてくれよ」
「僕はメインルームにいるよ」
「えっ!そうなのか?」
「ああ…」
ニコニコと笑うセイになぜだか妙な不気味さを感じた。
まるで拒絶されているような気分だ。
その境界線を越える勇気はバックには持ち合わせていない。
「そうか。ならいいや。その“めいんさあば”さんにお礼を言っといてくれよ」
バックはなんとなく居心地の悪さを感じて早々に退散することにした。
去っていくバックの後ろ姿を見送るセイ。
「メインサーバーは人じゃないよ」
とつぶやくセイの言葉は長く続く廊下にとけていった。