テラーノベル
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深夜の都内、某スタジオの楽屋。
ダンスリハーサルを終えたメンバーは、明日も早いからと足早に帰路についた。
最後に残ったのは、着替えの遅い…まぁ俺と、忘れ物がないかチェックしていた仁人の二人だけ。
「ふぅー、疲れたぁ……。仁人、まだ終わんねぇーのー?」
パイプ椅子に深く腰掛け、大きく伸びをする。
着替えてもなお、激しい運動の名残で薄っすらと汗ばんでいた体にTシャツの腹が引っ付く。
『あー?さっきからずっと待ってるでしょ。勇斗がスマホばっかり見て動かないから。ほら、さっさとカバン持って。帰るよ』
仁人はいつものように、少し呆れたような、でもどこか保護者のような口調で急かす。
鏡の前で髪を整えるその背中は、俺から見れば少し細すぎるようにも見えた。
「ねえ、仁人。今日さ、なんか冷たくない?」
『はあ? いつも通りです。大体、お前がさっきのリハ中、わざと耳元で歌ったりするから…集中力切れるんだよ』
「あはは! だって仁人、耳弱いじゃん。真っ赤になってたよね」
『……うるさい。黙れ』
かぁんわい、笑
仁人は顔を背けたが、鏡越しでも耳の先まで赤くなっているのが丸わかりだった。
そんな相方の反応が面白くて、つい意地悪をしたくなる。
立ち上がって、音もなく仁人の背後に忍び寄った。
そして、細い腰に腕を回して、後ろからぎゅっと抱きしめる。
『っ!? ちょっと、何してんの! 離せ!』
「むりー。仁人が可愛いこと言うまで離しませーん。」
『意味わかんないから! 汗臭いし、重い!離してってば!』
仁人は必死に俺の腕を解こうとするが、鍛え上げられた俺の力には到底及ばない。
こういう時のために鍛えてるとか言っちゃう、?笑
バタバタと暴れる仁人を、さらに強く抱きしめ、首筋に鼻を埋めた。
「んー…仁人、いい匂いする。柔軟剤? それともシャンプー変えた?」
『……どっちでもいいだろ。そんなの嗅ぐな変態』
「ひどー、俺はただ仁人が好きなだけなのに」
声が少しだけ低くなる。
耳元で囁かれる熱い吐息に、仁人の身体がビクンと跳ねた。
『だから、耳元で喋んな!…いい加減離して』
「本気で嫌なら、もっと強く蹴っ飛ばせばいいっしょ。仁人、全然力入ってないよ?」
ほら、図星。
仁人は、俺のこういう強引なところが苦手だ。
でも、それ以上に嫌いになれない自分をもどかしく思っていた。
俺は知ってるよ、俺の腕の中は温かくて、安心しちゃうこと。
寝てる時なんていつも潜ってくっついてくんじゃん?
仁人の肩に顎を乗せ、鏡の中に映る二人の瞳をじっと見つめる。
「顔あっか笑…ねえ、こっち向いてよ」
『嫌。絶対に嫌』
「じゃあ、俺が無理やり向かせる」
仁人の体をくるりと反転させ、そのまま楽屋の壁に押し付けた。
いわゆる壁ドンの形になり、仁人の逃げ道は完全になくなる。
『ねぇ近い、笑』
「仁人が逃げるからでしょ。なあ、俺のこと見て?」
仁人はその視線に耐えきれず、視線を泳がせた。
『……見てるよ。見てるから、そんな顔すんな』
「どんな顔?」
『……かっこいい、顔』
「え! 今なんて? もう一回言って!」
『言わない! 一回きり! ほら、満足したなら帰るよ!』
仁人が俺の胸を突き放そうとした瞬間、俺の手が仁人の顎をクイッと持ち上げた。
「……言わないなら、お仕置き」
重なる唇。
それは、驚くほど優しくて、でもどこか飢えたような深いキスだった。
仁人は一瞬目を見開いたが、すぐに諦めたように目を閉じ、俺のシャツの裾をぎゅっと掴んだ。
ほら、可愛いやつ…笑
楽屋の中に、衣擦れの音と、少しだけ荒くなった呼吸音が響く。
「ん……んん……」
ようやく唇が離れたとき、仁人の瞳は潤み、呼吸を整えるのが精一杯の状態だった。
そんな色っぽい姿を見て、俺の理性は限界を迎えようとしていた。
「……仁人、今の顔、めちゃくちゃ……」
『……っ、言うな!』
「えっっっろぉ…」
その言葉を聞いた瞬間、仁人の顔が沸騰したように赤くなった。
『……っ! ば、バカ! 勇斗のバカ! 何言ってんの、この変態! 最低!』
「あはは! 照れ隠し激しすぎ! でも、本当にそう思ったんだもん。仁人の自覚ないところが一番タチ悪いわ」
『うるさいうるさいうるさい! 帰る! もう帰るから!』
仁人はカバンをひったくるように持つと、逃げるように楽屋を飛び出した。
その後ろ姿を、俺は満足げな笑みを浮かべて追いかける。
「ねぇ待って。 明日も早いんだから、一緒にタクシーで帰ろーよー笑」
『お前とは絶対乗らない! 一人で帰れ!』
「えー、冷たいなあ。さっきあんなに感じてたくせにー」
『黙れって言ってんだろ!!』
夜の廊下に、二人の賑やかな声が響き渡る。
怒っているようでいて、実は繋いだ手を離さない。
そんな、不器用で熱い二人の夜は、まだ始まったばかりだった。
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