一室しか電気がついていない。
とても不気味。怖い。逃げた方が良いんじゃ。
「ここの二階、202号室に加賀宮さんがいます」
アパートの前から歩かない私を見て、亜蘭さんが教えてくれた。
「あの……。何が目的なんですか?ここは、彼の家なんですか?」
この木造アパートが彼の家だとは思えなかった。
お金がなかったら秘書なんて雇えないし、こんな高級車乗れないし……。
「すみません。俺の口からは何も話せないので。本人から聞いてください」
やっぱり何も教えてはくれないよね。
「ただ……。殺そうとかお金を巻き上げようとか、そういう目的ではありません。安心してください」
ストレートな言葉。
でも……。安心なんてできるわけない。
彼の契約に従わないと、家族が……。
みんなが苦しい思いをすることになる。
「わかりました」
返事をし、二階の202号室へ向かう。
私の後ろには亜蘭さんがいるから、どちらにしろ逃げられない。
インターホンを押す。
しばらくしても返答がない。
「あの……」
亜蘭さんに声をかけると、彼は<トントントン>と慣れた手つきで直接ドアをノックした。
「開けてください」
彼がそう伝えると、ドアが開いた。
「どうぞ」
加賀宮さんだ。
「じゃあ。俺はこれで」
亜蘭さんは一言挨拶をし、スタスタと階段を下りて行く。
帰るんだ。
「早く入って?」
加賀宮さんにそう言われ、室内に入る。
「なにこれ……」
思わず呟いてしまった。
六畳一間に大きなベッドが一つ。
あとは物が散乱している。
片付けられない男の人って感じの部屋。
ベッドに座った加賀宮さんと目が合った。
昨日みたいなメガネはしていなくて、髪の毛は少しハネている。
部屋着だろうか、黒いスウェット姿だ。
スーツやワイシャツを着ている彼ではないけど、どこか品があるような気がする。部屋は相当散らかっているけど……。
「何の用ですか?」
加賀宮さんに問う。
彼はフッと笑い
「そう急ぐなよ。昨日はお疲れ様。身体、大丈夫?あんなに乱れてたけど……」
昨日の自分を思い出し、一気に顔が赤くなった。
そして思わず<パンッ>と彼を引っ叩いてしまった。
「あれは……。あなたが変なカクテルを飲ませるから!最低!」
彼は驚いていた。
そして私が叩いてしまったところに触れている。
あっ。ヤバい。
私の方が脅されている立場なのに、これで逆ギレでもされたら……。
どうしよう。
しかし彼はハハっと笑った。
笑って……る?
「おい。立場を考えろよ。ま、お前らしくて良いけどな。それに……。一言余計だった。ごめん」
お前らしいって、私の何を知っているの?
でも謝ってくれた。
「私の方こそ、いきなり引っ叩いちゃってごめんなさい」
私だって手を出すっていけないよね。
孝介にはもっと酷いこと言われているけど、我慢してるし。
「ねぇ。ここ、あなたの家?」
話題を変えてみる。
「そうだよ。俺の家」
その返答にまた彼の謎が深まる。
お金持ちなのか、そうじゃないのか、どっちなの?
細かく詮索してもきっと彼ははぐらかす。
「あなた、何者?私のこと、どうして知っているの?私を呼び出して何がしたいの?こうやって指示に従って今日はここへ来たの。一つは教えてくれたっていいじゃない?」
一気に伝えてしまったけど、彼はどんな反応をするんだろう。
「そうだな……。じゃあ、一つだけ教るよ」
私は真っすぐに彼を見据える。
「お前をここへ呼んだのは……」
次の瞬間、手を引かれ、ベッドに引き寄せられた。
「キャッ」
彼の力により、ベッドに飛び込む形になってしまった。
「えっ……」
あっという間に反転させられ、目の前に彼の顔があった。
両手は彼によって塞がれ、馬乗りになられているため、身動きが取れない。
「ちょっと……!何をする気?」
「お前をここに呼んだ理由は、昨日の続きをしたいから。ただそれだけ」
昨日の続き……って。
まさかっ。
「いや!」
拒否しても強引にキスをされた。
「んっ……。……んん」
昨夜の記憶が甦る。
「はっ……。もうあのカクテルの効果は切れてるんでしょ?昨日みたいにはいかないから!」
「どうだろうな……。おい、これは命令だから。抵抗するなよ」
彼は言葉や態度とは違って、優しく私の身体に触れていく。
「っ……!」
「服、脱いで?」
命令……だから。従わなきゃ。
私は自分の洋服を脱いだ。
彼も上衣を脱ぐ。
「キスマーク、付けないでよ?」
私がそう伝えると彼は笑った。
「あぁ。気をつける」
「気をつけるって……。あっ……」
彼の唇が首筋、鎖骨に触れるたびにビクっと身体が反応する。
そして、昨夜のように下着を外され、感度が増す部分を責められて……。
「……!」
手のひらをギュッと握り、耐える。
命令、逃げられない状況なのに。
どうして怖くないんだろう。
イヤだと思わないの?
「痛くない?」
「えっ……?」」
痛くない?って聞いてくれた。
夫にはこんな言葉かけてもらったことなかった。
「うん……」
私の返事を聞いて、彼が「良かった」小さな声で呟いた。
加賀宮さんがどういう人なのか、全然理解できない。
昨日、BARで話を聞いてくれた時は優しい人だなって思った。
でもその後、あんなことになって……。
私を騙すために、良い人ぶっているだけだったって思っていたけど。
「おい。今、余計なこと考えてるだろ?今だけは、何も考えるな。俺に集中しろよ」
そう言うと彼はキスをしてきた。
舌が絡んで、離れてはまた求められて……。
酸素不足、思考が働かなくなる。
「んっ……」
吐息とリップ音が部屋に響く。
あぁ。こうしていると、家庭のこと、嫌なこと、これからのこと……。
本当に何も考えられない。
考えなくて良いって楽かも。
「はっ……。だめ……!」
「……。何がダメなんだよ?ここ、すげー濡れてるけど?」
彼がショーツの中に手を入れ、指先を動かす。
「もっ……。イっ……」
私が身体を捩らせると
「ここ?」
気持ち良いと感じてしまう部分をさらに責められる。
「またっ!イっちゃ……」
感じてしまう自分が恥ずかしくて、悔しくて。涙が零れた。
「そんな顔されると、さらに煽られる」
彼は止めるどころか手を速めた。
「あっ……。待っ……!」
快楽に襲われ、悶えてしまう。
思わず彼の背中に手を回し、ギュッと掴んでしまった。
「イって?」
彼に耳元で囁かれ、私は絶頂してしまった。
「はぁ……。はぁ……」
私は特に何も動いてない。
なのに息が上がっている。
彼も少し肩で呼吸をしているように見えた。
「待ってて。今、飲み物持ってくる」
彼は立ち上がり、冷蔵庫へと向かった。
天井をぼんやり見ていると
「ほらっ?」
彼がペットボトルの水を持って来てくれた。
上半身を起こされ、ボトルのキャップまで開けてくれる。
本当に何なの?
この人、優しいのか優しくないのかわからない。
とりあえず水を数口飲む。
喉が乾いていたからか、とても美味しく感じた。
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