ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。エレノアさん達を見送って三日後、私は日課であるルミの墓参りをしているのですが…。
「デッカイよなぁ。またデカくなったんじゃねぇか?」
「はい、間違いなく大きくなっています。本当に不思議ですよ」
ルイと二人で見上げるのは、我が農園の象徴である『大樹』です。植えて六年経ちますが、日々成長しています。ライデン社が広めた単位で表すならば、高さは百メートル。太さは十メートルです。大きいものです。
で、大きくなるにつれてその影響する範囲も広がります。それに合わせて農園も拡張しているのですが、荒れ地だった教会周辺は今では緑豊かな大自然が広がっています。大地には豊富な栄養が流れ込み草木の成長を促し、動物が溢れています。
…なにこれ?
「これ、何の木だよ?周りを見てみろよ。農園以外は森だぜ。木すら無かった荒れ地なのによ」
「さて、これ程までの力があると気にはなりますが怖くもありますね」
そう、こんな木なんて聞いたこともありません。マーサさんも分からないみたいだし、知識が豊富なサリアさんに見せたら何か分かるかな?
「あんまり大っぴらにしない方がいいぜ。狙われる理由が増えちまうからな」
「確かに」
ルイの言う通りですね。何の木か非常に気になりますが、今のところ不利益は無いので放置することにします。これ、問題の先送りになるんですけど……その時はその時の私に任せることにしましょう。
「何とまあ、また成長したわね」
翌日、遊びに来たマーサさんに『大樹』を見せてみます。ちなみに今のマーサさんは、いつものビジネススーツではなくエルフの民族衣裳です。肌の露出の多い服から溢れんばかりのお胸や、輝くような白い肌、サンダルを履いた素足が眩しい。パーフェクト。
「特別なことはしていないんですけどね」
「生命力がより一層強くなってるわね。しかも、周りに生命力を放出してるから土地が豊かになる。農園みたいな意味不明な成長を見せる植物も、こいつが原因よ。なにかしら、これ?」
「私としてもさっぱりですが、実害がないのでこのままにしておくつもりです。『暁』の象徴になりそうですし」
「それは良いけど、多分まだまだ大きくなるわよ。そう遠くないうちに、隠せなくなるわ。いや、今もあんまり隠せてないけど」
「『大樹』を狙う=『暁』を狙う。つまり私の敵です。実に分かりやすくて助かります」
「単純で良いわねぇ」
「はい、私にとって世界とは味方か敵しか存在しませんから」
「なら、貴女の敵にならないように気を付けないとね」
「マーサさんなら大丈夫ですよ。いつでも大歓迎です」
まだまだ、マーサさんを手に入れるには力が足りない。やっぱり、力を付けるにはライデン社が必要になりますね。
…おや?
「ちょっとシャーリィ」
「はい」
『大樹』が光った!?一瞬ですが。なにこれ?
「今、一瞬だけど強い魔力を感じたわよ」
「魔力を?」
私には分かりません。
「益々これが何なのか気になる…いや、何だかとても危なくてヤバいものをシャーリィに売っちゃったのかも」
「別に構いませんよ。『大樹』のお陰で私は目的に向かって進めています。なにより……私には、悪意は感じません」
「本当に?背筋が寒くなるような魔力だったわよ。人間には分からないかもしれないけど」
「そうなんですか?魔力は分かりませんが、先ほどの光からは暖かみを感じました」
もしかしたら、ルミが宿っている…いや、非現実的ですね。でも、不思議と嫌ではありません。
「そう…シャーリィがそれで良いなら私はなにも言わないわ。買ったのは貴女だからね。ただ、何かあったらちゃんと知らせるのよ?」
「はい、ありがとうございます、マーサさん」
~シェルドハーフェン港湾エリア『海狼の牙』本部 執務室~
「ん」
「如何なさいましたか、ボス」
こんにちは、サリアよ。今とても大きな魔力を感じたところ。直ぐに逆探知して、発生源を調べてみたわ。まあ、予想外の場所にあったのだけれど。
「ふふっ、本当に人間の好奇心には驚かされるわね」
私が可笑しそうに笑うと、控えていた腹心のメッツが不思議そうな顔をしているわ。
「ボス、何かあったのですか?」
「ええ、面白いことが分かったわ。『暁』の、シャーリィの秘密をひとつ見付けたと言って良いわ」
「それはまた…利用して『暁』を潰しますか?」
「そんなことをしても面白くないし、今の段階なら人間には分からないでしょう」
そう、今の段階ならね。
「では?」
「引き続き、彼女とは協調していきましょう。見ていて飽きないわ」
「ではそのように皆に伝えます」
「お願い。それにしても…」
本当に興味深い。
「あの娘、自分がいったい何を育てているのかちゃんと理解しているのかしら?」
人間にありがちな危ない火遊びをして滅ぶのか、それすら利用して見せるのか。シャーリィ=アーキハクト、行く末が楽しみな娘ね。是非とも楽しませて欲しいわ。退屈は長命にとって猛毒なのだから。
「でも、入手経路だけは気になるわね。シャーリィの購入履歴を出来るだけ調べなさい。分かるならそれで良いから、順位は低めで構わないわ」
「その様に」
誰があんなものを手に入れて、どんな経緯でシャーリィのもとに届いたのか。或いは、それすらも運命とでも言えるのか。実に興味深いわ。楽しむためには、少しだけ干渉してみるのも悪くないわね。
人知れず魔女は笑う。その意味をシャーリィが知るのは、まだ先の話である。
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