ますますキョトンを深めてしまったナッキに代わって答えたのは、岸近くに集まっていたヘロン配下の鳥達のサブリーダー的なダイサギであったが、今までの片言は何だったのかと思う程、流暢な語り口であった。
「ナガチカさん、私達は昨晩、凄まじい魔力を感じて仲間たち全員で身を寄せ、耐え続けていたのですがね、朝方まで全員で心一つに集まり続けた結果、気が付けばこの様な変化をしていた、そう言う訳なのですよ…… 私自身も疑問に頭を捻っていた所なのです、ナガチカさん、貴方に何か思い当たる事は無いのでしょうか?」
ヘロンと同じ位の大きさ、ナッキ以上に巨大な鳥が、殊の外丁寧に話し掛けて来た事に驚きながらも、ナガチカは顎に拳を付けて一所懸命に答える。
「う、うーん、思い当たる事ですか? 私自身の経験ではこんな急激な変化は知らないのですが…… しかし、義母や義父の話で聞いた事がありますねっ! 確かお二人がニブルヘイムのコキュートス近くまで行かれた時に、弟君サタナキア様が急激に位階を上げた事があったとか何とかぁ…… そうだっ! 覚醒したとか言っていましたけどね、その事でしょうか?」
ナッキはいつも通りである。
「ああ、んじゃあそうなんじゃないの? 皆、覚醒したんだよ、きっと!」
「え……」
ナガチカが絶句したのも無理は無いだろう。
サタナキア自体が魔王種から魔神に覚醒した事だって通常では有り得ない事だった筈なのだから……
んまあ、その後、あ、の、イーチの馬鹿ですら魔神化してしまった事を考えると、あの時代と言うのは甚(はなは)だイレギュラーに溢れていたのかもしれない。
コユキと善悪の有り余るガッツ故か、はたまた自らが守護してきた地上の小さき命達に、全悪魔が惻隠していたかは定かではないが、凡(およ)そそのどちらかが奇跡の理由なんじゃあないだろうか?
奇跡(×数万)越えを軽く達成したナッキは、表情を変えずにナガチカに言う。
「んだからね、皆大きくなって話も自由に出来るようになったからさぁ、多分、石化とかもしなくなったんじゃないかな、って思うんだけどどうかな? んまあ、夕べの化け物じみた魔力がもう一度来てさ、皆元通り、とかも有るのかもしれないけどねぇ」
なるほど、只のフナにとってはコレ位の認識なのかもしれないな…… 覚醒? とか言われても意味ワカメなのかもしれない、と言うかそれが普通だろう。
そうかもね、位で軽く流せば良いのに、存外に真面目なナガチカは腕組みまでしながら真剣に返す。
「うーん、覚醒した悪魔が元の位階に戻ったって話は聞いた事が無いですねぇ…… あ、だけど一度手に入れた能力、スキルや技を手放す事は珍しい事じゃあなかったですよ! 悪魔達は能力の譲渡とかって言っていましたけどね、因みにどうやるのかは、私全然知らないんですけどね」
この一所懸命な言葉を聞いた『美しヶ池』の国民、今や立派な悪魔としてデビューを果たした面々は首を傾げながらも、口々に思い思いに勝手な事を言い出すのである。
自由闊達(かったつ)な雰囲気と言えば聞こえは良いが、実の所はそれぞれが種族毎の特性に従っているだけの寄り合い所帯、無秩序さこそがこんなムードの原因だと思われる。
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