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昼下がりの喫茶店にて。
「あぁ~!やっと終わったわー!」
彼女はぐったりとした様子で背伸びをする。
その向かい側には、いつも通りの姿の男が座っていた。
彼はコーヒーカップを手に取りながら言う。
「お疲れ様」
「うん、ホントにね」
彼女はアイスティーを一口飲んで、テーブルの上に置いた。
「これでようやく一段落ついたって感じ?」
「そうだな。とりあえず一息つけたよ」
男は穏やかな表情で言う。
「そっか。じゃあ、これから忙しくなっちゃうね」
彼女は、笑って言った。
何もかも見透かされていたようだったが、それでも彼は気にしなかった。むしろ、清々しい気分ですらあった。
これでようやく自分は彼女のもとへ行けるのだという確信があったからだ。
そう思っていたのだが―――。
「あのさぁ……」
彼女は呆れたような表情を浮かべながら言う。
「君ってば、私のことが好きなんでしょ?」
突然の言葉に面食らいながらも、彼は肯定する。
すると彼女は小さく息を吐いてから再び口を開く。
「私も君のことは嫌いじゃないよ。だけど、君は私のことが好きっていうより、私がいなくなった後の方が心配なんだよね。だって、今の君はすごく危なっかしいもん。放っといたらすぐにどっかに行っちゃいそうだし」
そう言って彼女は笑う。
どうして彼女が笑っているのか理解できずにいると、さらに続けてこう言われた。
「まあ、確かに私は死んじゃったけど、だからといって簡単に死んだりしないから安心して。それに、君のおかげでまだまだやりたいこともあるしさ。だから、今度は私が君の面倒を見てあげる番だよ。とりあえずしばらくは、今までみたいに自由に生きてもいいから。それから先は、また考えればいいんじゃないかな」
その言葉を聞いて、彼は思わず涙を流す。
何故なのか自分でもよくわからなかったが、ただ嬉しかったのだ。
そんな彼を見て、彼女は満足げに微笑む。
「よしっ! じゃあ決まりだね!」
こうして彼は、ようやく探し続けていたものを見つけることが出来た。
だが同時に、彼女もまた彼の中に見つけてしまう。
彼は、彼女を幸せにすることが出来なかった。
彼女が望んでいることは知っていたが、どうしても出来なかったのだ。
だから、今度こそは間違えないようにしようと思った。
だが、やはり駄目だった。
何回繰り返しても、結果は同じなのだ。
どうしてなのかは分からない。
ただ一つ言えるのは、自分は彼女と一緒になることだけは絶対に無理だということだけだ。
たとえ一緒に暮らしていても、いつもどこか違和感があった。
その理由を探ろうとすればするほど、ますます分からなくなるだけだった。
そもそも、最初から間違っていたのだ。
彼女と出会った瞬間に感じたあの胸騒ぎの正体が何であれ、自分はきっと、彼女に関わってはならなかったのだ。
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