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荒くなった息を整えながら路地裏に入る。
準備運動もなしに走ったからか横腹が痛い。
どこか遠いところに逃げたかった。
でも、この小さな身体ではそれは厳しくて、近場でゴミの多い路地裏が隠れるには最適だと思った。
灯台下暗し、という言葉に賭けてみる。
神様なんて信じてはいないが、今回ばかりは息を殺して神頼みをするしかなかった。
何故こんな状況になっているのか。もっと言うと、これはどのような状況なのか。
遡るは20分程前。
私はテストで満点を取れたことに浮かれながら、褒めてもらえるかなと考えつつも小走りで帰宅していた。
家はほぼ母子家庭。ほぼというのは、正式に父親と離婚していないから。
父はクソみたいな人間だった。ギャンブルやら、借金やら、女遊びやら、DVやら。この世のクズ男の特徴を全て煮詰めたような、そんな男。
母はそんな父に対する膨大なストレスでヒステリックになるわ、子を束縛するわ。某轟家もびっくりなほどの闇家庭である。
ただ、母は母の役割をそれなりにま っとうしてくれているため、きちんと叱ってくれるし褒めてくれるし、ヒステリーさえ攻略すれば怖いものなしと言っても過言ではなかった。
超ポジティブに考えると束縛は自分を気にかけてくれてるだろうから許せる。が、今はそんなことを考えている状況ではない。
端的に言うと、ウッキウキで家に帰ると母は死んでいた。殺されたのだ。父親に。
昭和のタライ落としはこんな感覚なのかと思った。これは比喩だが、ガツンと重いものが頭に落ちた気がした。
このままそこにいたら私まで父に殺されてしまうと思った。
まだ未来のあるガキを狙うなんて、なんて酷いんだ。多分人間ではない。始めてのことに戸惑いながらも、恐怖で震えながらも私は走った。