般若は冷ややかな微笑みを浮かべ、その目には無限の計算が秘められているようだった。彼女の手のひらが再び暗黒のエネルギーを吸い込み、空気の温度が一気に下がる。辺り一面が霧のように濃くなり、周囲の視界が遮られた。
「さあ、見せてあげる。」
その言葉が発せられた瞬間、彼女の後ろから黒い影が蠢き始めた。目に見えるわけではないが、感じる。何かが、そこにいる。それはただの影ではなく、意識を持った存在だ。
「鬼だけじゃない、私にはもっと強力な力がある。」
般若が一歩踏み出すと、そこからまるで地面が裂けるように、闇の中から現れたのは巨大な魔獣だった。それは人型に近いが、目はまるで血のように赤く、鋭い爪を持つ、完全な使役魔獣。恐怖を煽るその姿は、まさに死神そのもの。
「これは、『冥獣』。」
般若の言葉は重く響く。冥獣。伝説の中で語られる最強の魔獣。その力は計り知れず、ただの人間や能力者では到底太刀打ちできない存在だと言われていた。
冥獣は般若の命令を待っている。静かに、しかしその力はすでに周囲の空気を引き裂いている。魔獣の目が一瞬、僕を捉えた。今までにない圧倒的な力が、僕の体に直接響いてくる。
「冥獣、行け。」
般若の命令が下されると、冥獣は大きな足音を立てて動き始めた。その動きは凄まじく、足が地面を踏みしめる度に、大地が震え、僕の体が押しつぶされそうになる。
港がすぐに反応したが、その動きは冥獣の速度には追いつけない。冥獣は一気に港に向かって飛び掛かり、彼の刃を一閃で弾き飛ばした。その一撃で港は数メートル吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
「くっ…!」
港が辛うじて立ち上がろうとするが、冥獣は容赦なく再度その大きな爪を振り下ろす。その鋭さは、まさに死神の裁きのようで、港が何とかかわそうとしても、その速度についていけない。
「港!」
僕は思わず叫び、反射的に駆け出す。しかし、その瞬間、冥獣の視線が僕に向けられた。目を合わせた途端、体の中から何かが引き寄せられるような感覚が走った。まるで冥獣の力が僕に直接干渉しているかのようだった。
「やはり、あなたたちは無駄だったわ。」
般若の声が、どこか冷徹で無情だ。彼女の目には、勝利を確信した冷笑が浮かんでいる。冥獣がさらに近づく中、彼女はさらに力を加える。
その時、僕の中で一つの覚悟が決まった。今までの自分を超えるために。ここで諦めるわけにはいかない。だが、冥獣の力を正面から受けることはできない。僕は必死でその力を振り絞ろうとしたが、体がそれを拒む。
「冥獣、終わらせて。」
般若の声が響いたと同時に、冥獣が僕に向かって猛然と突進してくる。その圧倒的な力に、僕の体は思うように動かない。しかし、僕はそこで気づく。冥獣はあくまで般若の命令に従っているだけで、彼女に対する忠誠心はあるものの、完全に無限の力を持っているわけではない。
「冥獣を超えるには…」
その瞬間、僕は冥獣の目の前で動きを止め、すべての力を自分の中に集中させた。冥獣の攻撃が迫る中、僕の体が震え、力を振り絞る。その力が溢れ出し、周囲の空気が急激に変わった。
「冥獣…!」
その瞬間、僕は冥獣の攻撃をかわし、一歩踏み出した。そして、冥獣が出した次の一撃を、逆に僕の力で弾き返すことに成功した。冥獣はその衝撃で一歩後退し、僕と港がその隙を見逃さず攻撃を仕掛ける。
「これで終わらせる!」
僕の力が冥獣に衝撃を与えたその瞬間、般若はさらに冷笑を浮かべ、次の手を打つ準備を整えていた。
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