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「………」
声も出ないし、記憶もない
あの怯えた表情、あんなのを見たら信じる他なかった
「…クソ……」
目の前に好きな女がいるのに、そいつは好きな女やなかった
『カラスバさ〜ん!』
『今日も可愛らしいですねっ!』
『好きですよ、カラスバさんの事』
「あ〜…クソ…」
あの鈴がなる様な愛しい声も聞けない
あの小さな口から、以前のような愛は囁いてくれない
あの小さな身体を抱きしめることは出来ない
その事実が辛くて仕方なかった
「…クソッ、置いていくなや…」
苦しい、お前が生きているのにオレの知っているお前はいない
けどだからといって、シオンの事を想う気持ちは変わらない
簡単に諦めることなんてできない
記憶が戻らなくてももう一度手に入れたらいい
「ははっ…オレをここまで拗らせといて、今更逃がす訳ないやろ」
拳をぐっと握りしめ、最期に撮った写真を見つめ笑う
堪忍にな。簡単にお前の事諦めれる程、オレは簡単な男やない。
──翌朝
「(一睡も出来なかった……)」
「大丈夫?シオン」
あの後、一睡も出来ずロビーのソファに座り落ち込んでいるとデウロ達が心配そうに声をかける
『大丈夫。』
しかし施設の人間はカラスバが潰したと言っていた、現にアザミにも装置はなくなっている
それが事実ならカラスバは私たちの命の恩人のようなものだ
しかしやはりカラスバへの恐怖は拭えない
そう思っているとポーンという、音と共にカラスバとアザミが降りてくる
「あっ!」
「!」
「ええ部屋やったわ、ありがとさん」
昨日とは違って穏やかな様子のカラスバとそんなカラスバを気にかけているアザミ
それからカラスバはガイを呼び、いいサービスだったと話してガイへチップを渡していた
それはガイの借金分の10万円だったのかその後すぐにカラスバを迎えに来た大柄の男性にお金を渡していた
「確かに」
「ほな、オレは帰らせてもらう……けど」
そう言うとカツカツと音を立ててシオンの方へ向かい手を優しくとる
「すまんかった、手アザできてしもうたな」
「えっ!?あれ!?あれはシオンさん!?」
「ここにずっと居たみたい」
後ろで大柄な男の人が驚いている横でアザミが心配そうに眉を下げシオン達の方を見ている
『大丈夫です』
「こんな赤なっとって大丈夫な訳ないやろ…アザミ、今日は姉妹でも積もる話でもあるやろうから仕事は休んでええ」
「えっ?でもそれならアンタも…」
「オレは後でええ。それにあんな事しといてすぐは怖いやろ。 」
そう言ってどこか切なそうに笑みを浮かべる
そんなカラスバを見て、何故か胸がズキッと痛む
『またお話しましょうカラスバさん、4年前の私とどんな関係だったとか聞きたいです』
シオンの言葉に目を見開き驚いたあと、すぐに目を細め頬を少し赤らめ笑うカラスバ
「ははっ、あんな事されてそんな事言うんはお前くらいやで。
ま、いつでもサビ組事務所に来、待っとる」
「っ!?」
そう言ってシオンの手を取り、手の甲にキスを落とす
そんなカラスバの行動に驚き顔を赤くするシオンと横で一部始終を見ていたデウロ達
そんな一行の反応を見て、面白そうに笑ったあとカラスバはジプソを引き連れてその場を後にした
「えっ、本当にどんな関係だったの!?シオン!!」
「どう見ても友達とかの関係じゃないでしょ…」
『分からない、本当になんも覚えてないから』
カラスバが居なくなった途端、デウロとピューロがシオンに問い詰める
「まぁ、友達とかいう関係では無いけど…とりあえず姉さんは病院行くよ!!」
そんなデウロ達に歯切れの悪い返事をしたのはシオンでもなくアザミだった
そんなアザミは2人をかき分け、シオンの手を取りそのままホテルZを後にした
病院での結果は前行った病院と同じだった
しばらく声を出してなかったから出にくくなっているだけとの事
そんな医者の言葉に安心したように胸を撫で下ろしたアザミはそのままシオンを連れて近くのカフェへ入る
「姉さん、ちなみに最後の記憶は?」
『あの人達にミアレに行けって言われたのが最後かな』
「じゃあもう本当に記憶が抜けてるのか…」
『ごめんね、何も思い出せなくて』
「あ!いや姉さんは悪くないよ…!!それに、記憶だって無理に思い出さなくていい 」
そう言われるが、やはり気になる事が多い
施設の事に自分が眠っていた原因、そしてカラスバの事──
『知りたい。施設の事も全部』
その言葉にアザミは少し困ったように頭を抱え「どこまで言えばいいんだろ…」と呟く
「…とりあえず姉さんの無理のない範囲で少しずつ思い出していこう 」
そう言ってシオンの手を握り笑うアザミに対し、嬉しそうに笑った
「……はぁ……」
「(カラスバ様、あれからずっとため息ばかり…まぁそれもそうか…)」
シオンの現状にかなり落ち込んでいる様子のカラスバ
そんなカラスバを心配そうに見つめ頭を擦り寄せるペンドラー
「…すまんな、ペンドラー。ちょっと…まだ気持ちの整理がつかんわ」
自分との記憶が一切ない、なんてやはり受け入れるには時間が掛かる
しかし、それでもシオンが生きてさえいたんだ。それだけでもいいだろう。と自分に必死に言い聞かせる
───ポーン……
落ち込んでいると、エレベーターの音が聞こえ2人して驚き慌てて背を伸ばす
「…おい、今日誰か客人でも来はるん?」
「いや、その予定はないはず…」
二人で小声で話していると、エレベーターのドアが開く
するとそこには、紙袋を大量に持ったアザミと少しキョロキョロと辺りを見回しながら入ってくるシオン
突然の来客に思わず椅子から転び落ちそうになる所をグッと耐え気丈に振る舞う
「どないしたん、そんなオレに会いたかったん?」
『私のポケモンに会えると聞いて…』
「なんでやね〜ん…」
シオンの言葉に突っ込むがあからさまに落ち込むカラスバ
そしてそんなカラスバを見て、笑いを堪えるアザミとそんなアザミに対し『やめろ』というように首を振るジプソ
「ジプソ、もってきたって」
「かしこまりました」
ジプソがエレベーターに乗り、下の階へ向かう
ジプソが来るまでの間、シオンはキョロキョロと事務所内を見ては目を輝かしていた
「(ポケモン好きなんは相変わらずなんやな。シオン)」