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レイヤード商会にレアメタルを売った代金はケルベロスの維持費や補給、弾薬の補充を当分の間は賄える程のものだった。
これで暫くはミサイル等の消耗品をケチらなくて済む。
商人としての課題は山積みだが、当面の活動の目処もついたことだし、気を取り直して帰還することにする。
帰還に際してダムラ星団公国の商船組合で何か運送業務を見繕って引き受けてみてもよかったが、欲をかいても仕方ないので帰りは空荷だ。
「レイヤード商会にはいいようにあしらわれたような気がするが、まあ初めてにしては結果は上々だろう」
操縦席で合成フルーツ茶を飲みながらしみじみと話すシンノスケ。
「マスター、その合成フルーツ茶、気に入ったのですか?」
「いや、別に・・・」
「・・・」
最早マークスからの突っ込みもない。
とりあえず1回目の空間跳躍ポイントまでは比較的安全な航路なのでオートパイロットで航行し、周囲の警戒や艦の総合管制、をマークスに任せてシンノスケはリラックスしている。
「ところで、あのレイヤード商会、前評判の割にはそれ程でもなかったな」
「レイヤード氏に実際に会ってみて推測したのですが、あの評判自体がレイヤード氏による情報操作によるものの可能性があります」
「自社の評判をわざと落としているのか?」
「レイヤード商会は中規模のエネルギー資源の商社を謳ってますが、エネルギー資源に限らずあらゆる物を取扱っており、その収益の規模は相当なものです。おそらくですが、レイヤード商会は自ら顧客を選ぶという体質なのかもしれません。効率よく顧客を選別し、効率よく取引をする。極限まで無駄を省いて利益を上げるという経営方針なのでしょう。故にマスターとの交渉でも即座に方向転換をして契約にこぎつけたのではありませんか?」
マークスの分析にシンノスケも納得する。
「なるほど、そうかもしれないな」
「まあ、そのような姿勢が自然と自由商人からの評判を落としているのかもしれませんが、レイヤード商会にはその方が都合がよいのでしょう」
「そうなると、俺は多少なりともレイヤードに評価されたのかな?」
「まあ、質の良い顧客、程度には評価されたのでしょう。しかし、対等なビジネスパートナーとしてはまだまだほど遠いかと」
「それについては俺もそう思う。次の取引があるとは限らないが、次はもっと気を引き締めて掛からないとな」
そんな反省会をしながら航行を続け、1回目の跳躍ポイントに到着した。
「空間跳躍ポイントに到着。座標計算完了、座標固定」
「了解。跳躍速度まで加速」
「カウントダウン開始、5、4、3、2、・・・」
「ワ・・」
「跳躍突入!」
1回目の空間跳躍も無事に終了。
空間跳躍を終えると、この先3日間は周辺に惑星もコロニーもない孤独で危険な宙域だ。
「よし、周辺宙域の警戒を厳にして進もう」
ケルベロスは巡航速度での航行を開始した。
異変が起きたのは2日目だ。
副操縦士席のマークスにケルベロスの操縦を任せて仮眠を取っていたシンノスケはブリッジ内に響く警報で目を覚ました。
「何が起きた?」
目を覚ましたシンノスケが操縦席のモニターを確認すると、救難信号受信の表示が出ている。
「旅客船ギャラクシー・キャメルからの救難信号を受信。宇宙海賊の襲撃を受けているとのこと!」
「付近に沿岸警備隊や宇宙軍の部隊は?」
「ありません。この宙域を巡回している部隊が無いとなると、信号を受信して緊急で駆け付けても最低2日は掛かります」
「信号の発信地点は分かるか?」
「特定済みです。モニターに表示します。本艦の位置から最大速度で40分の距離」
表示された信号発信地点は通常航路から大きく外れた位置。
「通常航路から外れている。海賊船に追い込まれたな」
事故に遭遇した宇宙船からの救難信号を受信した付近を航行する船には救難義務が生じる規則だ。
この義務には2種類あり、航行不能や漂流等の一般的な遭難事故の場合には全ての船に救難義務が生じるが、宇宙海賊の襲撃による救難信号の場合には海賊に対抗しうる武装した船、つまり護衛艦のみにその義務が課せられる。
シンノスケのケルベロスは護衛艦だから当然にその義務を負うことになるが、それ以前に船乗りとして見捨てるわけにはいかない。
「直ちにギャラクシー・キャメルの救助に向かう。操艦はこちらで行う、アイ・ハブ・コントロール」
「ユー・ハブ・コントロール」
ケルベロスの操縦を代わったシンノスケは操舵ハンドルを握り、マークスは総合オペレーター席に移動した。
シンノスケはスロットルレバーを押し込んだ。
「武装のロックを解除。最大戦速で急行する」
「了解。救難活動信号を発信します」
ケルベロスは進路を変更して速度を上げた。
目標地点に向かって約20分。
「目標宙域に接近。同宙域にギャラクシー・キャメル、その他識別信号を発信していないアンノウン5隻を確認しました」
「了解。時間を掛けられない、速攻で行くぞ」
「了解」
「ギャラクシー・キャメルとアンノウンに警告を発信する」
「了解。ギャラクシー・キャメル及びアンノウンにレーザー通信を強制接続します・・・どうぞ」
シンノスケは警告を開始する。
「こちらはアクネリア銀河連邦サリウス恒星州所属の護衛艦ケルベロス。ギャラクシー・キャメルの救難信号を傍受した。ギャラクシー・キャメルは本艦に状況を報告せよ。所属不明の艦船は直ちに航行識別波を発信すると共にギャラクシー・キャメルから離れろ!」
警告を発したところ、不審船が動いた。
2隻がギャラクシー・キャメルから離れる。
「アンノウン2隻に動きあり。識別信号を発信しないままこちらに向かってきます。これより接近するアンノウンを敵船A、B、その他を敵船C、D、Eと呼称します。接敵まで5分」
「了解。本艦も戦闘速度に落とし、このままの進路を維持しつつ接近する」
シンノスケはスロットルレバーを引いて戦闘機動に備えた。
「敵船Aが発砲。射程外、命中もしません」
ケルベロスの右舷側を敵船のレーザー砲が通過する。
「間合いも分からないか。まあいい、敵船Aの発砲により敵対行動を確認。正当防衛、緊急避難が成立した。以後の警告は不要。直ちに戦闘行動に移行、敵船に対して攻撃を開始する」
シンノスケはグラスモニターを装着すると共にケルベロスの武装を起動させた。
艦首両舷の速射砲とガトリング砲が展開する。
「敵船Aを主砲でロックした。砲撃開始!」
シンノスケは主砲の発射トリガーを引いた。
「主砲発射・・・敵船Aに命中。撃沈しました。敵船Bは回避行動に入ります」
「了解。敵船Bをミサイルランチャーで攻撃する」
グラスモニターに敵船Bをロックした赤いマーカーが表示される。
「ミサイルランチャー単発発射モード。1番、2番ミサイル発射!」
シンノスケが発射ボタンを押とミサイルランチャーから2発のミサイルが発射されて敵船Bを追尾する。
「ミサイル、敵船Bを追尾中・・・2発命中。敵船Bを撃沈」
「了解。残りの敵船に動きは?」
「敵船C、D、Eに動き無し。ギャラクシー・キャメルからの通信等もありません」
シンノスケの脳裏に最悪の事態が浮かぶ。
ケルベロスが駆け付けたのに通信等を送って来ないということは、既に宇宙海賊の手に落ちている可能性がある。
「間に合わなかったか!・・・いや、宇宙海賊は仕事を終えたら長居はしない。まだ間に合う!」
自分自身に言い聞かせながらギャラクシー・キャメルに接近する。
「敵船C、Dに動き。ギャラクシー・キャメルと本艦の間に割り込んで砲撃してきます。エネルギーシールドで対処可能ですが、念のため警戒を要します。敵船Eには動き無し、ギャラクシー・キャメルに接舷している可能性あり」
「チッ、厄介だな。マークス、状況によっては敵船C、Dを排除した後にギャラクシー・キャメルに強行接舷して俺達で白兵戦を行う可能性がある」
「了解しました」
その時、レーダーに新たな反応が現れた。
「レーダーに新たな反応が1!」
「新手か?」
「確認中・・・識別信号及び救難活動信号の発信を確認」
新たな護衛艦の到着だ。
「了解した。識別信号を照合してくれ」
「了解、照合しま・・接近中の艦から新たな反応が出現。艦載機の類と推定。2隻を暫定的に護衛艦1、2と呼称します。護衛艦1はギャラクシー・キャメルに向かい、護衛艦1から発艦した護衛艦2が高速で敵船C、Dに向かっています。敵船C、Dが本艦の進路上から離脱、逃走に入った模様。・・・本艦の進路と護衛艦2の進路が交錯します!衝突回避行動を!」
シンノスケは減速して衝突を回避する。
護衛艦2がケルベロスの鼻先を掠めるように高速で通過して逃走する敵船C、Dを追う。
「クソッ!あれはファルコン級高速ミサイル艇だ。無茶するなあ」
シンノスケは不敵な笑みを浮かべながら呟いた。