…もう、何時間経っただろうか。
ガスの影響か手足に感覚がない。指は痺れてピクリとも動かず、自分で首を持ち上げることもできない。
何故かただただ、部屋が血腥い気がする。
視界がぼんやりとなにかの像を結ぶ。
あれは……?
大きく不気味な影の大きな手のようなものが僕に向かって伸びてくる。
僕はそこで朦朧とした意識が正常に戻り、我に返った。
重い体を必死で起こし、”それ”に遅れを取らないように構えた。
その時だった。 足に違和感があった。
まだぼんやりとしている目で足を確認する。
ー足が膝下から切断されているー
血腥い臭いは、自分の足は勿論のこと、たくさんの所へ飛沫のようにべっとりと着いた僕の血から臭っていたのだ。
さらに、先刻見えた”それ”はガスの影響である、幻覚に過ぎなかった。
一瞬にして事態を理解した僕は混乱し、呼吸を忘れたように震えたあと、足の苦痛と屈辱で叫んだ。
ーーう”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ーー
「…五月蝿いなぁ、本当。」
奴が来ていたのか…。
僕にはもう逃げる術も抵抗する術もなく、挙句、もう逆らうような気力も無かった。
「それよりさ!その足!!気に入った?」
愉しそうに笑う奴の目には光が微塵もなかった。
「…。」
僕の心は衰弱しきっており、怒鳴り返すことも返事をすることさえも出来なくなっていた。
ただできることは、俯くこと、指を広げたりすること、相槌を打つことのみだった。
これから先、僕は奴にどうされてしまうのだろうか。
…人虎……助けて…くれ。
一方その頃、敦と白い芥川は走っていた。
息が苦しい。
もう何時間走っただろうか。
途中まではタクシーに乗って移動していたが、運悪く交通事故があったらしく渋滞。
電車も待っている時間が無く、現在に至る。
白い芥川は、異能を使いながら空を舞うように駆けていた。
その姿は此方の世界の芥川と変わりなく、無駄のない美しいと思える姿だった。
しかし、彼は先程とは全く違い、険しい顔をしていた。にこやかにしていた目からは光が失われていて、明らかに表情がない。
本当に何を考えているのかが分からない。
それから何分が走ると、目的の場所に着いた。
「ハァ、ハァ。やっと、着いた。」
「…うん。お疲れ様。さぁ、会いに行こうか。」
僕達がたどり着いた目的地は、皆が知る場所。
ここは…ポートマフィアのビルである。
「…!侵入者だ!!」
入るなりすぐに、武器を向けられてしまう。
仕方がない。
僕達は異能を使って、相手の背後に移動し1発食らわせた。
勿論殺しはしない。気絶させるだけだ。
しかし、いくら相手を倒しても数が多すぎて埒が明かない。
「クソっ、多すぎる。このままじゃ芥川が…」
「…このままじゃ、敦が…やっちゃう…」
それぞれが絶望しているその時だった。
「…芥川君がどうかしたのかい?」
奥の方からカツカツと、ヒールの音を鳴らしながら誰かが近づいてくる。
「…誰だ!」
「私かい?君ならわかるだろう。」
「貴方は!」
その男はポートマフィアのボス。森鴎外だった。
「君、芥川君について何か知っているようだね。此方もちょうど芥川君が行方不明でね、困ってるんだ。」
「…行方不明?嘘だ!芥川はどこだ!」
「?だから行方不明だと言っただろう?先日の任務から戻ってきていないのだよ。」
「なん…だと。」
芥川はまだここには戻っておらず、行方不明。
白い芥川の方に目を向けると、彼は目をかっぴらいて…笑っていた。
「はははっ。そうか、そこかぁ。いやぁこれは1本取られちゃったなぁ。」
不気味に笑いながらつぶやく彼はどこか楽しそうにさえ見えた。
「白敦、あとボス。わかったよ。今度こそ居場所をね。」
こちらを向いた彼は目尻に涙を輝かせてた。
「…此方の世界のボス。貴方は着いてきますか?」
「…居場所だけ、教えておいてくれ。いざとなった時、私も行こう。」
「わかりました。では。」
「一寸待ちたまえ。君は別の世界軸の芥川くんで間違いないかい?」
「なぜ、それを!?」
思わず口を挟んでしまった。
流石はポートマフィアのボスだ。見ただけでわかってしまうなんて。
「ええ。」
「嗚呼、そうかい。まぁ、君たち。くれぐれも気をつけて帰っておいで。」
「…わかりました。必ず戻りますので、何かあれば頼みます。」
そう言うと、森さんはこくりと頷き、微笑んで僕達を送り出してくれた。
「…ねぇ白敦。ここからが本番だよ。油断しないでね。」
「嗚呼。わかってる。」
絶対に芥川を助け出してみせる。
あんな僕に奪われてたまるもんか。
待ってて、芥川。たとえ僕の命が尽きようと、僕は絶対に芥川を見捨てたりしないから。
さぁ、戦いだ。
コメント
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好きです〜!!続き超楽しみにしてます!!