テラーノベル
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放課後の音楽室。
夕日が差し込んで、
フルートの銀色が少し赤みを帯びて見えていた。
涼ちゃんが俺の正面に座り、優しい眼差しで待っている。
きっと――俺がはっきり答えを
出すまで逃がさないつもりなんだ。
胸が苦しくて、呼吸が浅くなる。
言わなきゃいけない。
でも、口にすればきっと涼ちゃんを傷つける。
そんなの嫌だ、でも……。
「……っ」
気づけば涙が頬を伝っていた。
涼ちゃんが驚いたように眉を下げる。
「元貴……泣かなくていいよ。
僕、責めてるわけじゃ――」
「ちがっ……!」
声が震えて、掠れて。
それでも必死に言葉を吐き出す。
「……俺は……若井が、好きなんだ……!」
言ってしまった瞬間、涙が一気にあふれ出す。
涼ちゃんの顔を直視できない。
好きって言葉が、どうしようもなく重くて。
だけど、これが俺の本当なんだ。
「ごめん……涼ちゃん……っ。
俺、ほんとは……若井のことばっかり考えてて。
涼ちゃんに期待させるようなこと、
させて……ほんとにごめん……」
嗚咽まじりに繰り返すしかなかった。
涼ちゃんはしばらく黙っていた。
でも、やわらかい手がそっと俺の頭に触れた。
「……ちゃんと伝えてくれて、ありがとう」
その声は優しかった。
それが逆に胸に刺さって、涙が止まらなかった。
涼ちゃんの手が俺の髪を優しく撫でて。
でも俺の涙は止まらなかった。
ぐちゃぐちゃになった
顔を隠すようにうつむいていた、そのとき。
ガラッ――。
音楽室のドアが大きな音を立てて開いた。
「……元貴……?」
若井だった。
驚いたように立ち尽くして、
俺と涼ちゃんを交互に見ている。
夕日の逆光で赤髪が燃えるみたいに光って見えた。
「わ、若井……!」
名前を呼んだ声は、涙でひどく掠れていた。
若井の表情が険しくなる。
「……何やってんだよ、二人で……」
胸がギュッと痛む。
ちがう、これは……。
でも説明できる言葉が出てこない。
涼ちゃんが静かに立ち上がった。
「若井……誤解しないで。僕は、ただ――」
「僕がただ…なんだよ?」
低い声が室内に響いた。
若井が涼ちゃんを鋭く睨む。
俺は慌てて顔を上げて、涙に濡れた目で必死に言った。
「ち、違うんだ! 涼ちゃんは何も……!
俺が泣いてて、それで……!」
でも、言葉が途切れた。
どう言えば伝わるのかわからなかった。
若井が俺の前まで歩いてきて、肩を掴む。
「……元貴、泣くなよ。
誰の前で泣いてんだ……俺がいるだろ」
その一言で、堰を切ったみたいにまた涙があふれた。
涼ちゃんは苦しそうに目を伏せる。
「……やっぱり、元貴が必要なのは
僕じゃなくて、若井なんだね」
夕焼けの中、音楽室の空気は張り詰めていて。
俺は震えながら、でもはっきりと
――若井のシャツを掴んでしまった。
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