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『僕だけ見てて』
兄貴は、今日も僕の知らない誰かの話をした。
「今度、彼女と映画観に行くんだ。ホラー、超苦手らしいけど」
そう言って笑った兄の横顔を見ながら、僕はただ頷いた。
頷いて、ペットボトルの蓋を閉めた。もう、味もしなかった。
(また、嘘だと思いたい。けど、違ったら?)
最近、兄貴の言うことが全部「試してるみたい」に聞こえてくる。
僕の反応を、試してるみたいに。
でも、僕はそれにどう返せばいいかわからない。
兄貴が誰かと一緒にいるのが嫌なのか。
自分が取り残されたように感じるのが辛いのか。
それとも、ただ――昔みたいに戻りたいだけなのか。
「直樹、聞いてる?」
「……うん。楽しそうだね」
言いながら、自分の声のトーンが妙に冷たくなってるのがわかった。
兄貴は少しだけ眉を寄せたけど、すぐに「まぁな」と言って笑った。
(なんで、そんな笑い方するんだよ)
僕だけ、置いてかれてるみたいじゃん。
….僕だけ見ててよ