テラーノベル
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※解釈不一致あるかも。
※エセ関西弁
※この作品に政治的意図はありません。
最初に集められたのは、空だった。
雲ひとつない、どこまでも白い天井。
地平も、壁も、時間の流れさえ感じられない広間。その中心に、円形に並べられた四十七の席があった。
席には、それぞれ名前が刻まれている。
北海道。青森。岩手。宮城。秋田。山形。福島。
茨城。栃木。群馬。埼玉。千葉。東京。神奈川。
新潟。富山。石川。福井。山梨。長野。岐阜。静岡。愛知。
三重。滋賀。京都。大阪。兵庫。奈良。和歌山。
鳥取。島根。岡山。広島。山口。
徳島。香川。愛媛。高知。
福岡。佐賀。長崎。熊本。大分。宮崎。鹿児島。沖縄。
そこに、人の姿をした「都道府県」が座っていた。
誰もが自分の名前を理解していて、同時にそれ以外の名を持たない。
国籍も戸籍もない。ただ「県」であるという事実だけが、全員に共通していた。
「……全員、いるな」
最初に口を開いたのは東京だった。
背筋を伸ばし、場を見渡すその視線には、自然と重心が集まる。誰もが、彼の声を待っていたことに気づいてしまう。
「ここはどこだ」
大阪が腕を組み、ため息混じりに言う。
「またえらいことになっとる気ぃするわ」
「夢じゃない」
愛知が即座に否定する。
「感覚が正確すぎる。これは――設計された空間だ」
北海道は黙っていた。
広すぎる肩幅と、どこか距離を保つ視線。全体を把握しようとしているが、あえて口を出さない。
「……誰が、こんなことを?」
宮城の声は低く、静かだった。
その問いに答えるように、天井がわずかに歪んだ。
音もなく、しかし確実に、空間そのものが“話し始める”。
無機質で、性別も年齢も感じられない声。
「……は?」
福岡が笑った。
「いやいや、冗談きついって」
その言葉に、広島が反応した。
「……存在しなかった、とは?」
沈黙が落ちる。
「つまり」
東京が、ゆっくりと言葉を選ぶ。
「死ぬ、ということか」
否定も装飾もない肯定だった。
ざわめきが広がる。
怒鳴る者、立ち上がる者、黙り込む者。
「ふざけるな!」
沖縄が叫ぶ。
「誰がそんなもん、決めた!」
「選別……?」
広島が噛みしめるように繰り返す。
その瞬間、東京の表情がわずかに変わった。
「……おい」
大阪が気づく。
「今、なんて言うた?」
「……つまり」
愛知が冷静に整理する。
「全滅前提ではない。勝ち筋はある」
その言葉に、空気が一変した。
「協力、か」
福岡が歯を見せて笑う。
「やれるやん」
「同盟を組めばいい」
大阪が言う。
「地域ごとでも、都市ごとでも」
「被災も、復興も、やってきた」
宮城が小さく言った。
「協力なら、できる」
「記憶を消す、というのなら」
広島は拳を握る。
「せめて、意味のある選択をしなければ」
北海道が、ようやく口を開いた。
「……全員で生き残る、って選択肢は?」
沈黙。
しかし、声は続いた。
天井に、文字が浮かび上がる。
「……え?」
誰かが、間抜けな声を出した。
「免除?」
大阪が目を見開く。
「それ、助かるやつやん」
「一県だけでも、確実に生き残れる」
東京が呟く。
「なら、弱いところを守ろう」
宮城が言う。
「守るべきところを」
「小さい県でもいい」
福岡が頷く。
「未来に繋がるなら」
空気は、確かに希望を帯びていた。
誰かを救える。
誰かを、確実に生かせる。
その選択が、ある。
声が、淡々と付け加える。
静寂。
「……誰が?」
愛知が尋ねる。
その瞬間、誰もが気づいてしまった。
これは、誰かを救う試験ではない。
誰を、最初に切り捨てるかを決める試験だ。
そして、彼らはまだ知らない。
このとき選ばれる「救済」が、
この物語でいちばん残酷な希望だったことを。
いいねください😭😭😭😭😭🥺🥺
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私はこの瞬間あなたをフォローしました 神作だろこんなの...!!!
神作の予感…