村の奥の温泉というのが幸いしているが、温泉に浸かっている時から邪悪な気配を感じていた。その気配に気づいているのは、おれとフィーサだけだ。
フィーサが初めてやる気を出し、自ら前に出てくれることになった。神剣である彼女はあらゆる魔法を無効にしてカウンターを発することが出来る。
「フィーサ、大丈夫なんですかね~?」
「ウニャ。フィーサ、強い! シーニャ、前に出る時アックの前」
「わ、わたしもアック様の前に立って、盾になりますよ~!」
「ウニャ! シーニャの方が強いのだ。強いったら、強いのだ!!」
――全く、結局二人の仲は悪いままか。温泉の効果を得られたことで彼女たちはそれぞれで力を高めた。そのせいでルティとシーニャは以前のような犬猿の仲に戻ってしまった。計り知れない強さを得られたようだが、その強さはまだ何とも言えない。
「イスティさま。炎耐性があるのは、イスティさまとドワーフ小娘だけだよね?」
「そうだな。シーニャだけは熱に耐えられないな」
「……ウ、ウニャ」
「あ、いや、シーニャが悪いんじゃないんだぞ? よ、よしよし……」
「フニャゥ」
耐性に関しては個人差があるということで、すぐにシーニャの頭を撫でた。気を取り直し、フィーサを先頭に町への一本道を進むことに。
町の全景は不明。だが、町というよりは都市のような奥行きを感じる。問題はそれでは無く、町の手前に立ち塞がっている竜の存在だ。
「イスティさま! 邪悪な存在はすでに気付いているよ。下がって!!」
「――む!?」
「な、何だかとっても危ない風がくる気がしますよ!? どうすれば~どうすれば!?」
村の人は町に向かった冒険者が戻って来ないと言っていたが、全て奴にやられたのでは?
それくらい危険な気配を感じる。ルティも何かに気付いているようだが、恐らくその攻撃は炎のブレス。かなりの勢いで息を吸い込んでいるようで、辺りには猛烈な風が吹き荒れている。
「グォアァッ!!」
どうやらブレス攻撃の準備が整ったようだ。炎耐性があるおれとルティとでシーニャの前に立ち、攻撃に備える。さらにフィーサがおれたちの前に立ち、両腕をまるで鋼鉄の盾のように変化させた。
「炎のブレスだからイスティさまには不向きなの! わたしに任せて」
「魔法じゃないからか?」
「うん! 全て弾いてから反撃に移るけど、切り刻んでいいよね?」
「思いきりやっていいぞ!」
「りょ~かい!!」
神族国家で印を授けられた時、おれはすでに魔法に限定しない炎属性を極めている。耐性も含まれているが、フィーサにはそのことを後で教えてやらねばならない。
「はえぇぇ~、フィーサがすごいですよ!」
「――だな。人化であれだけの強さを示すなんて、しかも見たことが無い動きだ」
「見えないのだ、見えないのだ~! フィーサが何なのだ!?」
「フィーサがとんでもなく強いぞ。腕を自在に変形させて炎のブレスを弾きまくりだ!」
フィーサの強さを知ればシーニャも驚いてしまうかもしれないな。
「シーニャ、すでに知っているのだ。フィーサはアックに隠していたのだ。ウニャ」
そうかと思えばすでに知っていたらしい。
「そうだったのか? なるほど。潜在スキルは相当なものだな」
フィーサが相手にしている竜はどうやら赤竜のようで、炎のブレスには自信があるようだ。しかしブレス攻撃以外の動きは実に緩慢なもの。その証拠にフィーサの刻み攻撃に対応出来ていない。
「ゴァァッ……」
そろそろとどめを刺すようだな。あの程度の竜にやられるようでは、確かに町に入ることも出来ずに村にも戻れない。
「イスティさま~! 全て吸収していい~?」
「――何だって?」