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「――ふわぁ……」
「あれ、アイナさん。寝不足ですか?」
「んー……。夜中に目が覚めちゃって、そこから結構起きていたんですよ」
朝食の時間、あくびをしてしまった私にエミリアさんが聞いてきた。
「アイナさんって、たまにそういうことがありますよね。きっと繊細なんでしょうね」
「……まぁ、良く言えば?」
実際のところ、最近あった色々な出来事が原因なのだろう。
グランベル公爵の件に、オティーリエさんの件。あとは王様の件やら、シェリルさんたちの件やら、テレーゼさんの件――
「ちなみに、今日の予定はどんな感じですか? 昼は錬金術師ギルドですよね」
「そうですね。他は……特に予定は無いです」
「それならルークさんも戻ってきたことですし、たまには魔物討伐の依頼でも受けてみませんか?」
「お、それは良いですね。
……でも外に出るなら、錬金術師ギルドは昼に行けませんね……。
魔物討伐の依頼だけ今日のうちに受けて、明日の早朝に出発するのでも良いですか?」
「はい! ちなみに明日は、テレーゼさんの方は大丈夫ですか?」
「明日は、夕食に誘おうかな?」
「それでは、あまり遅くならないようにしないと。
しっかり計画を立てて、確実に終わるようにしましょう」
「はい、そんな感じでお話してきます。
冒険者ギルドには今日の夕方に行って、依頼を決めることにして――」
そんな話をしていると、ルークが食堂に入ってきた。
「おはようございます。アイナ様、エミリアさん」
「おはよー」
「おはようございます! ルークさん、ゆっくり眠れましたか?」
「はい、とっても」
「……いやいや、エミリアさん。ルークは3時過ぎには起きていましたよ」
それを聞いたエミリアさんは、ルークの顔を見ながら驚いた。
「ええぇ!? 1か月もあんな修行をしてきて、それなのに早起きしたんですか!?
……って、あれ? アイナさんは、何でそれをご存知で?」
「寝つけないところで偶然会って。しばらくルークの修練風景を眺めていました」
「えー、そうなんですか? それならわたしも見たかったのに……」
「エミリアさん、見ていても面白いことはありませんよ……?」
「あれ? 必殺技の練習とかはしなかったんですか?」
「こんな場所でそんなことをやったら、近所迷惑ですので……」
まぁ確かに、必殺技なんて使ったら何か爆発したり壊したりしそうだし。
その配慮はきっと、正しいものに違いない。
「ところで、明日あたりに冒険者ギルドで依頼を受けてみようかな、って思ってたの。
魔物討伐にする予定だけど、ルークは大丈夫?」
「はい、もちろんです。
そういう依頼も久し振りなので、楽しみですね」
「ルークさん、かなり強くなっていそう!
そうそう、アイナさんも魔法をいろいろと覚えたんですよ。全体的に戦力アップですね!」
「そうなんですか? アイナ様、おめでとうございます」
ルークは純粋に、感心するように祝ってくれた。
「攻撃魔法としては、1つなんだけどね……。
私は基本的に裏方だから、戦いはルークとエミリアさんに任せたいかな」
今まで後ろで護られてばかりいた私。
急に前線に出ても活躍するイメージが湧かず、かといって後ろから魔法を当てられるかというと……さすがにその自信は無かった。
距離が短ければ当てられるだろうけど、近付くまでが大変だしね。
「分かりました。魔物は私が軽く倒してしまいますので、アイナ様はゆっくり見ていてください」
自信たっぷりに言うルークが、何とも頼もしい。
さてさて、どこまで強くなっているものやら……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
昼時、錬金術師ギルドの食堂でテレーゼさんと食事をする。
「ルークさんが無事に戻ってきたんですか。それは良かったです……。
これで仲良し3人組の復活ですね!」
昨日今日の話をすると、テレーゼさんはそう言って喜んでくれた。
「3人揃って『仲良し3人組』と言うなら、ジェラードさんが少し可哀想ですね」
「あっ、ごめんなさい。
でもでも、ジェラードさんは何だか違うんですよね。……うーん、説明は難しいのですが」
「要所要所で助けてくれる、っていう感じだからでしょうか。
確かに何となくは違う……かな?」
ジェラードにはとてもお世話になっているけど、一緒に冒険をしたり依頼を受けたり……ということは無いからね。
確かに仲間ではあるものの、ルークやエミリアさんとは少し違う気がした。
「ルークが戻ってきたので、明日は冒険者ギルドの依頼をこなしてこようかと思うんです。
一緒にご飯を食べるのは、夜でも大丈夫ですか?」
「あああ、そんなに気を遣って頂いてすいません!
さすがに毎日は申し訳なくなってきたので、1日くらいは気にしないでください!」
「えー?」
でも、何だか心配だなぁ……。
そう思う私をよそに、テレーゼさんは力を込めて言った。
「私も一応は大人なので、明日は大丈夫です!
せっかく外に行くんですから、アイナさんも楽しんできてください。
……あ、魔物にはくれぐれも気を付けてくださいね!」
「うーん。それじゃ明後日のお昼はまた、ご一緒しましょう。
それにしてもテレーゼさん、最近お休みしていないんじゃないですか?」
思い返せば体調不良で欠勤して以来、彼女は休みを取っていない。
毎日会いに来ているが、仕事に来るようになってから今日で5日目なのだ。
「実は明後日、お休みなんです。
本当は仕事をしていたかったんですけど、さすがにそろそろ休めと言われて……」
「あ、そうなんですか。
もし良ければ、うちに泊まりにきません?」
「えっ!?」
「ああ。でもそれなら、やっぱり明日の夜は一緒に食事をして――
そのまま明後日までどうかな、って。気疲れしちゃいますかね?」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!!!!
是非! 是非とも遊びに行かせてくださいっ!!!!」
「うわぁ!?」
何だか懐かしい、テレーゼさんのぐいぐい感。
そうそう、これこれ。やっぱりテレーゼさんは、こうじゃないとね。
「ああでも、手土産を準備する時間がありませんね……!」
「そんな気は遣わないで大丈夫ですよ。
私の親がいるとかならともかく、あそこは私が主なんですから」
「そ、そうですか……?
それじゃお言葉に甘えて、メイドさんたちの分だけにしておきます」
「いやいや」
「あ、そうですよね。警備の方とか、庭木職人の方もいるんでしたよね。
それではその分だけ、お菓子でも持っていくことにします!」
……何だか嬉しそうだし、あまり拒否するのも可哀想か。
それならばその厚意、ありがたく受け取っておくことにしよう。
「何だかすいません。でも持ってくるにしても、ちょっとしたもので大丈夫ですからね?」
「そうですね、私もこんな状態ですし……。
では適当に、適切に、何かしら考えていきます!」
楽しそうに言うテレーゼさんに、何となく温かいものを感じた。
彼女もいろいろと大変だけど、やっぱりしあわせになってもらいたいというか――
少なくても困っているときに、私は彼女に手を差し伸べられる人間でありたい。
……そう思ったかな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
テレーゼさんと別れたあとは、冒険者ギルドの前でルークとエミリアさんと合流した。
しばらく依頼の掲示板を眺めていると、ルークが1つの依頼を持ってきた。
「……ストーンゴーレムの討伐?」
「はい。距離的には少し遠いですが、馬車を走らせれば行けるかなと……。
いかがでしょうか?」
「ストーンゴーレムって、どういうやつ?」
「身長が4メートルから5メートルくらいの、大きな魔物ですね。
防御力が高くて倒しづらいので、あまり人気が無い討伐依頼……でしょうか」
エミリアさんは少し唸るように答えてくれた。
しかしこの世界、そんな魔物もいるんだね。
「私の魔法は相性が悪いかな?
クローズ・スタンもアクア・ブラストも効かなそう」
「シルバー・ブレッドは多少は効くと思いますが、ルークさんの戦力頼りになってしまいますね」
「もしよろしければ、私の修行の成果を見てください。
これ以外のものが良ければ、他の依頼でも大丈夫ですが――」
「……いや、うん。今回はこれを受けましょうか。
ルークの全力が見られるなら、しっかり見ておきたいですし」
「そうですね、分かりました。ほとんどお任せになってしまいますが、それでも良いですか?」
「はい、問題ありません。あっさりと片付けてみせましょう」
何とも頼りになる雰囲気を見せるルーク。
たったの1か月ほどで、どれだけの力を付けてきたのか楽しみだ。
……でもゴーレムなんて、剣で倒せるものなの?
急に爆弾なんて使い始めたら……いや、それはそれで面白いんだけど。