コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
次の日の早朝、私たちは馬車を走らせて魔物討伐へと向かった。
目指す場所は王都から離れた、廃棄された採石場。
以前は多くの人々がここで働いていたというが、頻繁にストーンゴーレムが生まれるということもあり、いつしか廃れてしまったのだという。
「――質の良い石が採れる場所なんて、他にもたくさんありますからね!」
そう言うのは、馬車の御者のブルーノさん。
値段は少し張ったけど、突然のお願いにも関わらず、快く馬車を出してくれたフリーの御者さんだ。
「他の採石場には、魔物は出ないんですか?」
「どこにでも、それなりには出ますよ。
ただ、良質の石が採れるところは金回りが良いから、傭兵や冒険者を継続的に雇うんです。
だから大体の働き手は、そっちに行っちゃいますね」
「なるほど……。
私たちが向かっているところは、もう誰もいないのかな……?」
「いえいえ。魔物討伐の依頼が来るというのであれば、そこで何かしら作業でもするのでしょう。
お金を払って討伐して、それで何もしないだなんて、まったくの無駄ですからね!」
……確かにその通りだ。
何をするのかは分からないけど、とりあえず誰かの役に立つというなら、それはそれで良いか。
申し訳ないけど、今回は遊びのような感じで依頼を受けているわけだし――
……って、さすがに遊びで命を落とすのは避けたいから、そこは十分に注意することにしよう。
「もうすぐ11時ですね。お昼までには着きそうですか?」
「あ、|直《じき》に着くと思いますよ。皆さん、準備をしておいてください!」
「結構早かったですね。分かりましたー」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――ズシィイン……。ズシィイン……。
引き続き馬車に乗っていると、たまに大きな揺れを感じるようになった。
「な、何だか揺れますね?」
「そうですね……。これって、もしかしてストーンゴーレム……ですか?」
「大きな力を感じます。何体かいるようですね」
ちなみに今回は討伐した分だけ報酬がもらえる依頼なので、たくさんいるのであれば報酬も多くなる。
さてさて、どれくらいるのかな……?
そう思いながら、馬車の幌から顔を出して外を見てみると――
……巨大な石像が、遠くの岩場を闊歩していた。
話には聞いていたが、聞くのと見るのとでは印象が大きく違う。
目に入ったストーンゴーレムの数は3体。それぞれがしっかりと大きく、しっかりと重々しい。
「うわぁ……?」
「お客さん、ストーンゴーレムを見るのは初めてですか?
へへっ、大きいですよね!」
「本当に、大きいですねぇ……」
私が驚いていると、エミリアさんも外を覗いてきた。
「ひゃー、あれがストーンゴーレムですか……。おっきいー!」
「それ以外の感想が出てきませんね……。
それにしても、あんなのと戦うんですね。ルークって凄いなぁ……」
一般的なストーンゴーレムは、大きさが4メートル以上もあるらしい。
その巨体が放つパンチでも食らおうものなら、恐らくは一撃で大変なことになってしまうだろう。
「ところでお客さん、あいつはどうやって倒すんですか?
このパーティは司祭様と、剣士と――……リーダーさんは、魔法使いですよね?」
「私ですか? 私は錬金術師ですよ」
「……え?」
「え?」
ブルーノさんの表情が、一瞬固まった。
「あ、あー。錬金術師の方なら、爆弾で吹っ飛ばす感じですね!
なるほどなるほど、それも手でしょう。でも身体が大きいから、上手くいきますかねー」
「いえ、今日はこっちのルークが戦う予定です」
「は? ……剣士、ですよね?」
「あの程度なら、何とでもなると思いますよ。ご安心ください」
ルークは微笑むように、ブルーノさんに言った。
しかしブルーノさんの表情は固まったまま、和らぐことは無かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
馬車から降りて、ブルーノさんには少し遠くで待機してもらうことになった。
ストーンゴーレムは移動速度が遅いため、馬車を走らせれば簡単に逃げることができる。
いざとなれば馬車に駆け込んで、そのまま戦術的撤退を決め込む予定だ。
「それではルークさん、支援魔法を掛けますね」
エミリアさんはそう言うと、いくつかの支援魔法を掛けていった。
「ありがとうございます。それではもう少し、近寄ってみましょう」
少し近付いてから、改めての感想が口から零れる。
「……うっわぁ……。やっぱり大きいねぇ……」
何せ、4メートル以上である。
しかも身体はずっしりどっしりとした感じなので、どれくらいの重さがあるのかは想像することも出来なかった。
「ここは慎重に、1体ずつ仕留めていきましょう。まずは一番近くのあいつですね」
「ルークさん、わたしは何かやりますか?」
「そうですね……。一応、それなりに近くにいてもらえますか?
攻撃は避けるつもりですが、もし当たれば痛いので」
「痛いどころじゃ済まない気もするけどなぁ……」
「ぱぱっと終わらせますので、心配しないで待っていてください」
そう言うと、ルークはストーンゴーレムの方に素早く向かっていった。
エミリアさんも途中まで付いていく感じだったので、私もそこまでは一緒に行くことにした。
「ヴォオオォォオオオォッ!!!!」
ルークがストーンゴーレムに近付くと、野太い大きな咆哮が周囲に響いた。
その声は余韻を残しながら消えていったが、完全に消えきる前に、新たな衝撃が地面を大きく揺らした。
ズガァアアンッ!!!
「ひぇっ!?」
それは、ストーンゴーレムの重い一撃が地面に叩き付けられた音。
ルークが立っていた場所には大きな拳が振り下ろされ、大量の砂埃を舞い上げていた。
あんなのを食らったら、普通の人間はただでは済まない――
「あ! アイナさん、上ですっ!」
「上っ!?」
エミリアさんの言葉に釣られて上を見ると、ルークがストーンゴーレムの身体を駆け上っているところだった。
いやいや、えーっ!? 人間って、あんな動きが出来ちゃうんだね!?
ルークは肩まで辿り着くと、さらにそこから跳び上がり、両手に持った剣をストーンゴーレムの頭のてっぺんに振り下ろした。
ズムン……ッ!!
「……は?」
思わず、エミリアさんと顔を見合わせる。
「……え? 何ですか、今の音……」
「で、ですよね? 何だか聞きなれない音、っていうか――」
ルークの剣が、ストーンゴーレムに当たった瞬間に響いた不思議な音。
斬ったというか、叩き付けたというか、そういう音ではまったく無かった。
どちらかと言えば、地中で爆弾が爆発したような……鈍い音?
頭の中で考えを巡らせていると、目の前のストーンゴーレムはゆっくりと崩れ落ちていった。
どこから……ということも無く、全身が一斉に……といった具合だ。
「えぇっ!? あれだけで倒しちゃったの!?」
「わー……。夢を見てるみたいですね……。どうなっているのでしょう……?」
私たちの疑問を余所に、ルークは他のストーンゴーレムに注意を払いながら、こちらに戻ってきた。
「――まずは1匹、ですね。
今のが必殺技のひとつです。『響震剣』という名前なんですが、振動を叩き込むというか、そんな技です」
「おぉー、必殺技! 確かに必殺してた!!」
「確かに! すっごく必殺でした!!」
何せ、一撃で仕留めたのだ。
これ以上の必殺はないだろう。
「ははは……。それでは次に行きますね。
また移動しますので、今くらいの距離を空けて付いてきてください」
「はーい。大丈夫だと思うけど、一応気を付けてね」
「はい、細心の注意を払って一撃で倒してきます」
……ん? 慎重なんだか、豪快なんだか……?
しかしストーンゴーレムもあと2体。今の調子ならあっさり勝てそうだけど、一気にいけるかな……?