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その時、《《智から》》の着信音が西村の胸ポケットの中で響いた。心臓が跳ね上がる。ジャケットの内ポケットに差し込む指先が震える。智は、洸はどうなった、朱音が連れて行ったのか、無事なのか、朱音を、朱音の発作が起きない様に如何したら良い、何て言ったら良いんだ。




(何て、朱音に何て言えば良いんだ!?)




西村は震える指で携帯電話の緑のボタンを押した。




「西村さん」

「あ、朱音」

「何?」

「朱音、会って、会って説明させてくれ」

「説明?」

「これ、これには色々と訳があって」

「ふぅん」




西村の頭は酷く混乱し、陳腐なドラマのセリフがポロリと口から溢れた。


(今更会って、朱音に何を説明すると言うんだ)


額に汗が滲む。朱音が智と洸を連れ去ったのか如何かを確かめたい。連れ去ったのならば2人が無事なのか、そこに居るのか。その時、携帯電話越しの朱音の息遣いの背後から人の気配がした。


(智と洸か?)


けれど今、その名前を出せば朱音は逆上し発作を起こしてしまうかもしれない。西村が返答に詰まっていると《《金魚》》がパクパクと口を開いた。




「西村さん、お迎えに来てくれる?」

「ど、どこに」

「16:30に芸術村の裏の駐車場に迎えに来て」

「た、タクシーでか?」




金沢芸術村、ここから、此処から見える距離じゃないか。




「当たり前だよ。変なの」

「わ、分かった。16:30に裏の駐車場だな?」

「うん」

「分かった」

「西村さん、お迎えは《《いつも》》と同じ、みんなには内緒」

「わ、分かった」



じゃあ、と言って電話は切れた。


(・・・・そうだ)


西村に一つの考えが浮かんだ。

40万円。

朱音との契約金、40万円を渡して契約を破棄すればどうだろう。そうすれば俺と朱音が繋がる必要はもう無い。金を渡して謝罪すれば許してくれるかもしれない。そうだ、物分かりの良い朱音ならば許してくれる筈だ。


(大丈夫だ、大丈夫だ)


その時、再び西村の《《個人携帯電話》》が鳴った。




(・・・・・な、何だ。今度は何だ)




♪るるるるるるるる ♪るるるるるるるる

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それは見覚えの無い電話番号、金沢市内局番、近郊からの着信。


(金沢中警察署からの連絡か?)


それなら、警察に、警察に通報して朱音を捕まえて貰えば。



(けれど、それでは俺と朱音が個人的に繋がっていた事がバレてしまう!)



警察官が言った「犯人隠避罪」その単語がぐるぐると頭の中で渦を巻いた。普段ならば見知らぬ電話は無視する西村だが、恐る恐る緑のボタンを押した。人の息遣い、背後は何やら賑やかな子どもの声がして騒がしい。聴き覚えのあるアンパンマン体操。




「も、もしもし?」

「あ、西村洸くんのお父さんですか?」

「は、はい」

「西泉幼稚園の井上と申します」



(こ、洸!?)



「あ、はい。いつもお世話になって、あの」

「洸くんのお迎えがまだなんですが、何時頃来られそうですか?」

「は、はい」




洸は幼稚園に居た、洸は無事だった。安堵の思いが胸に広がった西村は足元から脱力し、刃物で切り裂かれたズタズタのソファにヘナヘナと座り込んだ。




「あ、あぁ、申し訳ありません。幼稚園が終わるまでには、都合が付かなくて」

「そうですか、閉園は19:00です。よろしくお願いします」

「すみません」

「今度から気を付けて下さいね」

「は、はい」




西村は頭をぼりぼりと掻きながら電話を切った。足元に散乱し割れたガラスが靴下越しに足裏に刺さった。グレーの靴下に真っ赤な血が滲む。誰に向けて良いのか分からぬ怒りが腹の底から沸き、吹き出した。




「くそババァ!うるせえんだよ!」




ソファの下に転がっていたクッションを左手に握ると和室の襖に思い切り投げ付けるとボコリと凹んだ。



(クソっ!)



顔を上げるとチカチカと赤い光が窓際で点滅している事に気が付いた西村は、よろける脚を引き摺りながら醜く垂れ下がったカーテンを開けた。黒々としたドン・キホーテの看板の向こうにパトカーの赤色灯が回転して居るのが見える。


(洸を迎えに行って居ない、智は朱音に連れて行かれた)



朱音が指定した金沢芸術村の裏手駐車場はドン・キホーテから僅か10分足らず。




(やはり、警察署に通報した方が、良い、のか?)




(いや、駄目だ)




警察のパトカーを見た朱音が、《《俺が裏切った》》と気付き発作的にあの握力で智の首を締め上げたら、女の細い首など折れてしまうだろう。その光景を想像するだけで身の毛がよだった。




(これしかない)




西村はソファから立ち上がり和室へと向かった。足の裏に細かなガラスの破片が刺さりチリチリと痛む。畳に膝を突いて屈むとチェストの一番下の段を思い切り引き出して半袖のTシャツや夏物のハーフパンツを掴んでは投げた。腕を伸ばし奥から帯付きの一万円札の束を取り出した。新札の匂い。西村が智に隠れて貯めた100万円だ。




(40万円が駄目なら100万円。手切れ金にしては少ないが世間知らずの朱音には十分な額だ)




キッチンに散乱していたスーパーマーケットの白いポリエチレンの手提げ袋を1枚拾い上げるとその中に100万円の束を突っ込み、持ち手をぎゅっと結んで玄関先に向かったが、ふと思い付いた様にTVボードの引き出しをガタガタと開けカッターナイフを握りしめた。

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