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頭の中がぼんやりとする。目をどうにか開くが、見える世界は輪郭がハッキリしなかった。死んだ、のか……?まあそういうことなのか…こんなとこ見たことない、し……。

「…おい、こいつ起きねぇんだけど」

「いや、起きてるだろ。目開いてるぞ」

「え、マジ?」

聞いた事のない声が聞こえた。男性の声だ。どこか発音が覚束無い気がする、訛っているのか…はたまた異国人なのか……。だんだんと世界の輪郭が整ってきた。ぼやけた何枚ものフィルムが重なって線がはっきりとしていく。あぁ、あの時に見た月の光のような銀色…それに……

「…あかい、め……」

「うおっ」

菊の白魚のような手が男の頬へと寄った。すると男の長いまつ毛がふる、と震えた。驚き、それと好奇。紅い月がゆるりと弧を描く。

「なんだぁ、お前……俺様に楯突こうって?んな細い手で…?」

「おい、ギルベルト」

「…Kaninchenうさぎみてぇに気失ってたくせになァ…」

「ギルベルト、やめろ」

「あ?」

「そいつは一般人だ、お前のオーラに耐えられるわけねえだろ」

「……なんだ?こいつのこと気に入っちゃってんのかよ、お坊ちゃん」

「お前あんまふざけんなよ」

銀髪の彼と金髪の彼はそうして言い合っている。どちらも見知らぬ人間だ。どこから来たのか、誰なのか、何が目的なのか。まだぼんやりとしている菊の頭では理解できそうになかった。それよりも、己の右手首を握ったままなのが気になった。ぎち、とそこには力がかかったままだ。その犯人の筋肉質な腕をみて、ため息をこぼす。跡が着きそうだ。…というか、着いていそうだ。

「…あの、」

「俺はストレートだっつってんだろ! 」

「あ?知らねえよそんなこと」

「こんな子供、それも男に興味なんてねえよ!!」

「あの」

「ケセ…こいつの顔、可愛がってたくせになァ」

「か、可愛がってねえよ!!!ばか!」

「あの!!!!!」

「「なんだよ!?」」

グルルル、と今にも唸り声が聞こえそうな程に威嚇しあっている2人に声をかければ、ばっと顔をこちらに向けてきた。改めて見れば2人とも相当、イケメンだ。高い鼻に異国人らしい瞳の色、整った輪郭に魅惑的なまつ毛はとても美しく見えた。端正な顔がふたつもこちらに向いているのは流石の圧があった。しかし日本男児たるもの、それにただ伏するわけもなく気を奮って声を上げた。

「…手を、離してくれませんかっ……」

「あ、あぁ……すまん」

想定外にも、銀色の彼は菊の手をパッと離した。そして離された手に目を向ければ、やはり仄かに手首に赤い輪を纏っていた。ソレに片方の手を寄せてゆっくりと撫でる。睫毛を麗しげに伏せてため息をこぼす菊が目に付いたのか、金髪の彼が菊へ声をかけた。

「…ごめんな、この馬鹿がさ」

「は?アーサー…てめぇ……」

「でさ、お前…このこと秘密にしてくれる?」

噛み付いてきた銀髪の彼は気に停めず、そう男は菊へ尋ねる。

「このこと……とは?」

「俺らのこと」

「あぁ………やはり外つ国の者ですか。構いません、慣れています」

「…ふぅん。ま、わかったならいいよ

じゃあな」

そういって金髪の彼は菊へスマホを投げてきた。彼はびく、と体を揺らしたがしっかりとそれをキャッチすることは出来たようで、呆然としたような顔で投げた本人を見つめていた。飴色の瞳と若草色の瞳が交差する。2秒ほどの沈黙の後、菊が口を開いた。

「…あなた、これを知ってるんですか?」

「………あー、いや、なんかお前の近くにあったから…」

「近く?本当に?

……私は遠くに投げたはずですよ」

受け取ったスマホを握りしめ、菊は金髪の彼をじとりと睨みつける。そして目をそらさぬまま下ろしていた腰をゆっくりと上げる。菊に合わせて体制を低くしていた彼を見下すように、ゆっくりと……。

「……チッ、めんどくせー…食わないつもりだったんだが、変わった」

「現世の子に手を出してはいけない、と聞いてはいませんか」

「ハッ…俺はJapanの生まれじゃねえ、そんなルールは俺を縛らねえよ」

後ずさる菊を追うように、男はポケットに手を突っ込みながら歩みを進める。彼の長い足と、比較的小柄な菊とではその1歩の差は歴然だった。

「…ギルベルト、やっていいぞ」

「ja,Führer」

「残念だったな、Kitty。ソイツは狩り専門だ」

「…外つ国の者に私は傷付けられませんよ」

「あのさぁ、聞いてれば外つ国ってなんだよ?俺らはそんなんじゃないぜ?」

そう話しているうちにもじり、じりと菊と2人の距離は縮まっていく。別に妖に食われることを避けたいわけではなかった。しかし、1度生き残った命を早々に手放す気も、つい先程なくした。前後には彼らがいる、彼らと正面衝突で勝てる道は無いに等しい。ならば、上か下…どちらかに方向を変えるしかない。上は無理だろう。2人にバレないよう、目を逸らすような感じで上へ目線を向ける。およそ7、8m。最初落ちた時と何ら変わっていない。これを登りあげる体力に自信はなかったし、何より外つ国の彼らに追いつかれない自信もなかった。こうして思考している時間も無駄だ。崖下に目を向ける。数m下に小さな足場が見えた。小柄な菊だったら体を預けられそうだ。…いける。

息を吐いたあと、後ろに足を踏み込んだ瞬間即座に左へ方向転換する。刹那、2人を微かに視界のなかへ収めて位置関係を把握した。この距離なら大丈夫だ。…足場を踏めさえすれば。

「おい、お前っ」

銀髪の彼があげた声も無視して、菊は崖から飛びおり空中に身をなげた。

「………追わなくていい。どうせ死ぬだろ」

それをみて、金髪の彼は呆れるような声色でそう言う。その言葉に従い、2人は崖から離れていった。

九死に一生。まさに言葉通りの体験をしたような気がする。未だ早い拍動を打つ心臓辺りを抑えて、菊は荒い息をしていた。無事、足場に着地できたのだ。思っていたよりも高さがあったのは誤算だったが、結局逃げられたのだから結果オーライだろう。額の汗をぬぐい、跳ねる肩を抑えるようにして体を縮める。だんだん落ち着いてきた。ある程度頭が冷めたところでふと気付く。

「……これどうやって帰るんですか…?」

…しまった、失策だ。

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