柚子と二人でキャッキャ言いながら大葉のアルバムを見ていた羽理は、沢山ある写真の中、それだけポラロイドカメラで撮られたと思われる一枚に視線を奪われた。
大葉のアルバムなので、大半は大葉単体の写真で埋め尽くされている。けれど、時折ほかのご家族と一緒に写っているものもあって。
大抵はお姉さんたちとの可愛らしい和気藹々写真なのだが、羽理が目を留めたポラロイド写真は産院で撮られたものだろうか? 産着にくるまれたしわくちゃの大葉を抱いた、母親と思しき人物とのツーショット写真だった。
「大葉は……お母様似なんですね」
お父様もすっごくイケメンだけれど、顔が整い過ぎていて少し近付きがたい印象を受ける。おそらく、大葉のお姉さん二人――七味と柚子は、父親似なんだろう。凛とした印象の、キリッとした美人姉妹だ。
柚子も麗し過ぎて、初対面の時はちょっぴり気後れしてしまったのを覚えている。でも話してみると、見た目とは裏腹に物凄く気さくな性格の人で、すぐに打ち解けられた。
対して、大葉の方は一見近寄りがたい美形の癖に、どこか優し気に見える顔つきをしている。その、何となくほわっとした印象を与える面立ちは、どう見ても母親譲りに見えた。
「そうそう。たいちゃんだけ私たち三姉妹弟のなかで唯一母親似なの!」
だから写真の枚数も、大葉のだけが図抜けて多いのだとクスクス笑う柚子に、羽理はキョトンとする。
「え? 大葉の写真が多いのって……彼が黒一点だからじゃないんですか?」
「まぁそれもあるんでしょうけど……だとしたら長女で、屋久蓑家初めての子供だったななちゃんもたいちゃん並みにアルバムがあってもいいと思わない? でも実際は――」
言いながら柚子が指さした作り付け棚には、【Nanami】と背表紙に書かれたアルバムが通しナンバーで【7】までしかなかった。
「私のに至ってはたったの五冊よ?」
その言葉の通り、【Yuzu】と書かれたものは【5】までで。
大葉のみ、いま羽理たちの目の前に積み上げられた小学生以降のものも合わせると、通し番号で二〇冊を越えている。
確かに、その差は歴然だ。
あまりの落差にアワアワした羽理に、柚子は「まぁ私は次女だったし、少なめなのは仕方ないなーとも思うのよ?」と微笑んで、「でも、ななちゃんも私も、たいちゃんと一緒に結構沢山写ってるから言うほど気にしてはいないの」と付け足した。
アルバムへ閉じられないままになっている焼き増し分が山ほどあるのは、自分たちへの配慮もあるんだと思うよ? とカラカラ笑う柚子を見ながら、『でも、その割に大葉一人きりのものも結構焼き増されてませんかね!?』と思ってしまった羽理である。現に、羽理が「これも……。あと、これも!」と選んだはみ出しものたちの大半は、大葉単体の写真なのだ。
羽理はその疑問を、柚子への配慮から寸でのところでグッと飲み込んだのだけれど。
「それにしても……やっぱりたいちゃんのだけ異常に多いよねー?」
柚子がそう問いかけてくるから、羽理は『柚子お義姉さま、やっぱりご自分の写真が少ないの、気にしておられるのかな?』と思って、恐る恐る「はい」と答えた。
「実は私たちの写真を撮ってくれたのって、殆んどが母方の伯父なんだけどね、その伯父さんが妹――つまりは私たちの母親を溺愛してて……。たいちゃんは母親似だから無意識にシャッターを切りまくっちゃったんだと思うの」
すぐさま「ホント、困った伯父さんなのよー」と付け加えて苦笑する柚子に、羽理が何気なく「伯父さまが……」とつぶやいたら、「そうなの。ほら、うちの両親商社勤めだからね、出張が多くて家を空けがちだったの。それで小さい頃は自営業を営んでる伯父さんが沢山面倒を見てくれたのよ」と柚子が補足説明をしてくれる。
自営業……ということはその伯父様が畑を手伝っていらっしゃるということかしら? と思った羽理だったのだけれど、さっき後継者がいなくて土恵商事が見ていると言っていなかったかな? と思い出して、すぐさま小首を傾げた。
「伯父さんってば、いっつもカメラを構える側だったから……沢山一緒にいた割に、ほとんど写真に写ってないの」
小さく吐息を落としながら、「えっと……確かこの辺に……」とつぶやいた柚子が「あ。この人! この人がその、うちの母とたいちゃんをエコ贔屓しまくりの困ったちゃんな恵介伯父さんよ? 羽理ちゃんも知ってる人じゃない?」と一葉の写真を指さした。
そこには一歳くらいの大葉を膝に抱っこして、嬉しそうに目尻を細めた一人の男性が写っていた。
写真の中のその人からは、自分たちにカメラを向けた相手が愛しくて堪らないのだという想いが、画面一杯に溢れていて、羽理はちょっぴり圧倒されてしまう。
「これは母が撮ったらしいのね。伯父さんがバカみたいにデレてるのはそのせい」
柚子の言葉を聞きながら、羽理はそのデレていると評された人物をよーく見て、「えっ? うそ。しゃ、ちょ……!?」とこぼさずにはいられなかった。
だってどう見てもその人は――年齢こそかなりお若いし、表情が緩みまくっていてちょっと分かりづらいけれど――、羽理が勤める会社の代表取締役社長・土井恵介に他ならなかったのだ。
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