その後も、ピアーニャ達はのんびりと飛んでいるだけだったが、話はとにかく弾んでいた。情報収集しておきたいというのと、喋りたいキュロゼーラ達の利害関係が一致しているので、話題が尽きる事は無い。
「ミューゼオラ。おまえのツエ、ゴミらしいな」
「知りたくなかったなーその真実!」
その過程で、調査には関係なかったのでこれまで放置されていたが、ネマーチェオンに来る為の鍵となったミューゼの杖について聞く事もあった。
「ぷくくく……よく分からない他リージョンの、消化不良になりそうな物をポイ捨てするのに、ぐるぐる巻きにした木がその杖の正体とか」
「その珠が消化不良のゴミだって?」
「さ、再利用するのは……いいことだから、ね……ぷっ」
「いっそ笑え! ああもう、おばあちゃんから貰った大事な杖なのにぃ……」
植物を操り、物を収納できる程の業物だったが、出所はしょーもなかった。
杖の先端についた珠は、元々どこか知らないリージョンの石で、吸収出来ないと判断したネマーチェオンが蔓(普通の巨木の幹サイズ)で包み、そのままリージョンの外へ捨てたのだ。それがそのままファナリアへ落ち、ミューゼの祖先が偶然見つけ、不思議な魔力を感じて杖に加工した。そうして植物魔法を増幅する杖として、ミューゼまで受け継がれてきたのである。
代々伝わる杖が、意思を持つリージョンそのものの一部というとんでもない品物で、同時にただのゴミだった事が判明してしまったミューゼの心境は、とても複雑である。
「というか、もしかしたら、そのイシのリージョンにいくという、かのうせいもあったわけか……」
「もう1つ新しいリージョンに行けるかもしれないって事ですか?」
「しばらくはいいですよー。おなかいっぱいです」
ミューゼの杖には、2つのリージョンの物がくっついているという事が判明してしまった。流石に立て続けに行く気は無いが、次の目的地が決定した。
「まぁ、もしかしたらファナリアかクリエルテスから落ちた石が、大昔にネマーチェオンに来て、偶然ファナリアに捨てられたって事も?」
「ありえるかもしれんがな」
どんなリージョンに繋がるかは、やってみないと分からないのだ。
後で行けるまだ見ぬリージョンよりも、今はネマーチェオンの事を考えたいと、ピアーニャが話を戻し、再び喋りながら辺りを飛び回った。
適当に飛んでいるようだが、実はムームーが頑丈な糸を伸ばしている。糸を辿って行けば、拠点の小屋に戻る事が出来るので、ピアーニャは安心して探索に集中できるのである。
「とこロで。この近クに厄介なモノがアるんですヨ。ちょっト独立した花なノですが、暴れン坊でシて」
「へぇ、まぁどこの世界にも半端モノはいるのよ?」
「なんであーしを見るの……」
「今はわたし達がシーカーの半端者だけどね……」
自分達の姿を見て、ムームーは苦笑い。まぁニンジン姿のシーカーは確かに珍しい。
移動中に降りた葉の上で昼食をとったピアーニャ達は、新しく加わったキュロゼーラから、この辺りの情報を得た。加わったといっても、減った分が補充されただけなので、数は変わっていない。その代わり、野菜の種類が増えている。
「まぁつまり、反逆の心を持った荒くれ植物が、この近くに潜んでいる。そう言いたいリムなんだな?」
「そーゆー所が半端者なのよ……いい加減そのブレブレのキャラを固めろなのよ」
「そっち? よく分からないポーズとか口調はいいんだ?」
定まっていない口調を半端と見るか、若さゆえの病を半端と見るかは、人それぞれである。
ピアーニャはその話についてはどうでもいいのか、アリエッタの隣で不機嫌そうに考え事をしていた。
(リージョンをテンイなしで、わたるコトができる? リージョンのそとにすてたら、ちがうリージョンにおちるか。ぶつりてきにイドウしているともいえるか。しかしどうやって?)
人の身でリージョンの外に出る。それは不可能である事が既に証明されている。というのも、空を飛べるハウドラント人は、ハウドラントの外へ飛んでいけるかどうか、昔にしっかり試しているのだ。
ハウドラントは世界の周囲を水の膜で覆われている。その光景は夜にも視認出来る為、一度その水に触れてみようと思うのは、探究者としては自然な流れである。そして実際にその水に触れた者達が、常時いたりする。ピアーニャもその1人で、50年以上前に世界の果てである上空へと昇ったのだ。
結果、水には触れる事は出来たが、その先に進むことは出来なかった。水の表面に触れるだけで、潜っていく事がどうしても出来なかったのだ。
その後も、シーカーとして色々なリージョンの果てを目指す事があったが、リージョンから出る事は出来なかった。空にいた筈が地上に戻されてしまったり、甘い綿雲から触手が伸びて捕まってしまったり、星々が浮かぶ空が無限に広がって果てが無かったり、一線を超えると肉体や物質が消滅したりと、理由は様々である。
しかし、それらを潜り抜けて、確かにリージョン特有の物質が、他のリージョンへと渡るという事象が起きている。それも『捨てる』という気楽な行為によってである。
(まだまだしらないカノウセイは、たくさんあるようだな)
ピアーニャは、シーカーとしての調査に終わりが見えない事を、内心喜んでいた。知っているリージョンでも、知らない事は沢山あるのだ。自分がどこまで解明出来るのか、楽しみでしょうがないのである。
「ぴあーにゃ、たべる」
「うむ……」
隣からお菓子を差し出してきた理不尽な存在については、全力で考えないようにしながら、キュロゼーラからもたらされた情報の調査に乗り出すのだった。
ドンッ
「うおっ!?」
『わっ!』
唐突に、足場となっている『雲塊』に、衝撃があった。
「なにかがシタからぶつかった! きをつけろ!」
まだ見えない何かに警戒を始める一同。アリエッタはパフィの腕の中に収まった。
(敵か? 敵襲か!? わかんないけど!)
「総長! その辺の足場に降りるのよ! この人数じゃ狭いのよ!」
「わかった!」
乗り物として使っていた『雲塊』だが、6人とキュロゼーラ達がぎっしり乗っていては動けず、襲い来る何かに対抗する事は出来ない。しかも全員を乗せているピアーニャは、無防備になっている。
迎え撃つにしても、逃げるにしても、相手の姿を確認しない事には、対策を練る事が出来ない。下からの衝撃を警戒し、近くにある枝の上に留まる事にした。枝はかなり太いので、これならば下から何かが来る心配は少ない。
「気を付けてくダさい。先程話シた暴れん坊の花デす。茎を伸ばしテ体当たりしてきタのでしょウ」
キュロゼーラの一言で、枝が動いたり、枝を貫いてくる心配は無くなった。ならば周囲を警戒するのみである。
そしてアリエッタ、ミューゼ、パフィ、ムームーが雲から降りたその瞬間、一同を囲い込むかのように、下から花が伸びてきた。その大きさは、花びら1枚ですら人と同じくらいある。
「! ラッチはこのまま、わちのサポート! ムームーたちはおそいかかってきたら、ゲイゲキしろ!」
『了解!』
(キュロゼーラは……まぁこいつら、いくらでもはえてくるしな)
キュロゼーラは雲に乗ったまま、伸びてきた花を見上げている。
「アレはテキなのか?」
「分カりません。トりあえず近クのモノに襲い掛かリます」
「モウジュウかっ!」
ピアーニャのツッコミと同時に、花が突進してきた。だが、ピアーニャは人数が減った事で自由になった片方の『雲塊』をハンマーのように変形し、叩き返した。
「って、おおいな!」
改めて見上げると、目の前に同じ花が10本伸びている。その内の1本が、突如切り落とされた。
「ふっ、いかに花とはいえど、我の敵ではないリムな」
カッコつけて鎌を振り、目を閉じて油断しまくっているのはラッチ。着ぐるみから出している右腕を、ロングサイズの大鎌に変形させ、花を刈り取ったのだ。ポーズもバッチリ決まってご満悦である。
しかし、切られた部分から再生し、再び花が咲いた。間近で見ると、巨大な花の中央が開き、ヨダレのように蜜を垂らしている。
「えっ、ちょっと、マジで?」
「ホショクするのか? おまえたち! くわれるなよ!」
「まーたヤな生き物なのよー」
切られた事で怒ったのか、花は一斉にピアーニャ達に襲いかかった。
しかし、ピアーニャは冷静に、雲を大きな刃へと変形させ、4本同時に花を切り落とした。
同時にラッチも1本落とし、ムームーも硬い糸を伸ばし、鞭のようにしならせ、2本の花を切り落としている。
「……やっぱり駄目かぁ。すぐ生えてくるね」
先程と同じく、切った所が再生し、再び蜜を垂らしながら、ピアーニャ達を見下ろしてくる。警戒を強めたのか、動きが慎重になっている。
「ねぇキュロゼーラ! こいつにも根っこはあるよね!?」
「もちろンです!」
「よし、総長ー! 植物は根っこを処理すれば元気無くなりますよー!」
「そこは、しとめられるんじゃないんかい! まぁいい! いくぞラッチ!」
ミューゼのアドバイスを元に、ピアーニャが花の根元に向かう為、花の茎を辿って降りて行った。
「って事は、総長がなんとかするまで、相手すればいいのよ?」
「そうなるね」
「ミューゼ凄いね……」
植物に関する事であれば、ミューゼは誰よりも詳しい。茎が再生するのであれば、その源となっているのは根であると判断したのである。
あとは機動力のあるピアーニャが、根本から花を切り落とすなりして、再生出来なくすれば良い。
「まぁでも」
「耐えるのも大変そうね」
「よし逃げよう」
それまでは、既に伸びてきている花から、身を守る必要がある。十数本の花を背にして、3人のニンジンは全力で走り始めた。小さいニンジンを小脇に抱えながら。
「ぱひー!」
「大丈夫なのよ。守ってあげるのよ」
(むむむ、一大事っぽいぞ。僕がみゅーぜ達を守らなきゃ)
アリエッタも筆を持って、機をうかがい始めた。
《よーしがんばれー! アリエッター!》
エルツァーレマイアも、アリエッタの中から応援し始めた。
襲い掛かってくる花を警戒するあまり、少女の方を警戒する者は1人もいないのだった。
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