テラーノベル
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いやいやそういうわけじゃないのよ、と義憤に駆られている梓を宥めていれば、すぐにビールと突き出しが運ばれてくるので、梓の口元にジョッキを運んで一旦黙ってもらう。
「かんぱーい」
大学生の頃には決して理解し得なかったビールの美味しさを、社会人5年目にもなるとずいぶん深く愛するようになり。
ジョッキの4分の1ほどを空ければ、
「で、まどかはどうしたの」
パワハラ?失恋?
とりあえずそいつの名前吐いてもらって、まずは殴りこんでから考えようか。
梓はなぜかいつも私に対しては過保護だ。入社以来、常に手厚く保護されている気がする。
「いやいや、そんなんじゃないよ」
梓を宥めながらもう一回ジョッキを煽れば
「弓家、担当パートナー変わったとこだしストレスはなんらか溜まるだろ」
普通に考えてと、紫水が机に肘をつきながらやっぱりダルそうに私を眺める。ダルそうな癖に、いきなり核心をついてくるところに観察眼の鋭さを感じる。
「まあ、大豆生田さんはいい人であんまりストレスではないんだけど、いきなり環境が変わると慣れるまでやっぱり大変よね」
最近ようやく慣れてきたよ、と前置きをして、豆さんの担当になってからのあらましをつらつらと語る。
梓と紫水とは、新卒入社当時からの仲なので2人とも聞く姿勢も相槌を打つタイミングもバッチリで。時々運ばれる料理やお酒を堪能しつつ会話を進めて、ようやく全容を話し終えれば、ビールを三杯空けてしまっていた。
「普通に飲みすぎな」
自分だって同じだけ飲み干しながら、全く変化を見せない紫水は飲み会には重宝されてると聞く。
「だからそろそろ日本酒にするぞ。お猪口は3つな」
「…紫水ってたまに一周回ってめちゃくちゃ頭悪くない?」
さあなんのこと、としらばっくれる紫水を睨みながら、梓が「お茶とか頼んでおこうか」と彼からタブレットを奪い取ってお茶を頼んでくれる。
所属するユニットも違うし、日頃会うことはないけれど、時々こういう時間を持てるからやっぱり同期っていいなあ。
「というか、なんでまどかが秘書とコンサルの二刀流やってんの」
「まあ期間限定だし」
「そのうちコンサルの方に引き戻されるんじゃないの?」
あいつ何か企んでるのかしら、と梓が眉を顰めながらお猪口を傾ける。
うっすら頬が赤くなっている彼女は、見た目と雰囲気の割にそこまでお酒に強くない。
「それはないと思うけどなー」
「まあでもバックオフィスの方が給料低いから、同じ作業させるなら弓家の方がコスパいいよな」
紫水がど正論を紡いでくる。
「…確かにね。でも流石にコンサルワークがメインになるなら給与交渉するよ。給与以前に所属変えてもらわないとだよね」
ま、今回はほんと期間限定だったし、そんな懸念は不要ですよ。おどけて言ってみても、
「いやー…一度実績ができちゃうとなぁ」
と梓まで首を傾げ始めるから本当にやめてほしい。
「梓まで。だから大丈夫だからね?」
うめぼっち

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臣桜
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鷹槻れん/鷹槻うなの

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#恋愛
水無月 京
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「まあ雲行き怪しくなったら俺たちに言えよ」
弓家は強く言えなさそうだけど、俺とか榎本から言ってやるから。
「私まであんたと同類にしないでよ!」
この2人は入社した頃から仲が良い。仲が良いというか…波長が合っている気がする。
だから、私は密かにこの2人に幸あれと全力で祈ってるんだけど。かつてそのことを2人に言ったら、双方からものすごく怒られたから、心の中でこっそりと。
「まあでも本当に何かあれば言って」
なんだかんだ優しい梓は徳利を奪って手酌しながら日本酒を飲んでいる。そろそろ本気で彼女を止めた方がいいかな。
「ほら、今年は社長戦があって大豆生田さんも巻き込まれかねないじゃん?」
「…そうだね」
そう。徐々に始まる社長戦に向けて、
「魑魅魍魎が暗躍してるもんな、どこも」
思い当たる節があるのか紫水が派手にため息をつく。
「…そうだね」
私も、豆さんのスケジュールの端々にその気配を感じ始めているから、同意する言葉をそっと添えることしかできない。
「ま、また弓家はそれで削られそうだし、定期的に飲もうや」
紫水の飾らない言葉に、梓も「いつでも言って。毎週でもいいよ」と付け加えてくれる。
ありがとう、と頷きながら、この2人がいるからこそ私はまだ頑張れている気がする、と思うんだ。
コメント
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読了しました。第9話、同期飲みの回、めちゃくちゃ良かったです。 梓と紫水、二人ともまどかにすごく優しいですね。過保護な梓と核心を突く紫水、この凸凹コンビの掛け合いが絶妙で、読んでいてすごく心地よかったです。「お茶とか頼んでおこうか」とタブレットを奪う梓とか、「弓家は強く言えなさそう」と言いながらフォローを申し出る紫水とか、細かい気遣いの描写が沁みました。 それに、社長戦に向けた不穏な空気感もちらりと顔を出していて、今後の展開が気になります。豆さんのスケジュールの端々に「その気配」を感じているまどかの立場……続きが楽しみです。