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うめぼっち

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臣桜
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鷹槻れん/鷹槻うなの

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#恋愛
水無月 京
1,300
手のひらの中に収まるタバコのパッケージを、くしゃりと握りしめる。潰れ方的に、中身はあと数本ぐらいか。
「あーダリぃ」
このビルの喫煙所は、嫌がらせのようにフロアの端っこにある。そこまでの動線も、喫煙所自体も照明がやや絞られていて、喫煙者にかける金はないと明言されているかのようで腹が立つ。
そして当たり前にタバコの自販機なんてものはないので、タバコを買おうと思うなら、この摩天楼をご丁寧にエレベーターで下降し、地下の常に混雑しているコンビニに立ち寄り…
面倒臭っ
想像しただけで面倒臭いプロセスに意識が飛びそうになるが、
「あ」
そういえば、と先ほどの真新しい記憶を反芻して右手をジャケットのポケットに這わせれば、やはり記憶の通り新しいパッケージがそこに入っていた。
これは、弓家さんが用意していてくれたもので。
誓って言うが、決して「タバコ買ってこい」なんてパシリはしていない。一応時代に即した感覚は身につけているつもりではある。
『ちょっと休憩〜』
個室に弓家さんを招き入れて2人で会話しながら作業をすることも日常茶飯事。あれやこれやと細かい話を詰めていれば、細かい話が面倒で大嫌いな俺の脳は早々に白旗を上げる。
とりあえず一服、という悪癖も彼女は「またですか」という白けた目で見てくるので、この子きっとタバコとか嫌いなんだろうな、なんて勝手に想像する。
『豆さん』
部屋を出る寸前に呼び止められる。
透き通った声音に、思わずぐんと後ろに引っ張られた感触を覚えて立ち止まる。
『ほい?』
『これ、どうぞ』
彼女の手のひらに収まっているのは、どう見ても見覚えのあるパッケージ。
『え、弓家さんも実はそっち!?』
『なんでそうなるんですか』
流石に驚いてトンチンカンなことを喋ってしまったら、彼女はさも迷惑そうな顔をして私は吸いませんよ、とにべもなく言う。
えーおじさんちょっと傷ついちゃう。
『業務の合間に買いに行くの面倒だと思うんで』
『え、待ってこれもしかしてパワハラ裁判用のハニートラップ!?』
『…いや訴えませんよ』
タバコ買いに行くためだけに10分もお渡しできないんで。
俺の新しい秘書は、多分結構ドライだ。
『だから、私もいくつかストック用意しておきますし、足りなければ買ってきますよ』
『…いや、流石に秘書さんにタバコの世話までさせられないよね』
秘書にというか、弓家さんにというか。
『ま、それぐらい私は問題ないですけどね』
私も結構気晴らしにコンビニとか行ったりしますし。
そう言ってニコリと整った顔に笑みを浮かべるが、彼女こそ日中ほとんど椅子から動けないほど忙しいのは、彼女にタスクを振る上司たる俺が一番わかっている。
なんでそんな見えすいた嘘つくんだろうか。
「ま、可愛いけどなあ」
薄暗い喫煙所の引き戸を開く。
途端にむわりと煙が鼻腔に飛び込んできて、それだけで気持ちが落ち着く。
弓家さんのその気遣いも、絶妙な見栄の張り方も、若者特有のそれで…
「だぁれが可愛いって?」
不穏な声が聞こえてきて、自分の脇の甘さに奥歯を噛む。
「少なくともお前じゃねぇよ」
「あらヤダ妬けるわね」
人事パートナーがだいぶ短くなったタバコを挟みながら不穏な笑顔でこちらを見てくるから居心地が悪い。
「気持ち悪いこと抜かすんじゃねぇわ」
「豆ちゃんの方がよっぽど気持ち悪いけどな」
可愛いってなんだよ、可愛いって。
「うるせぇよ。可愛いって形容する場面なんか腐るほどあるだろ」
「あるよ、あるけどさ。豆ちゃんがそんな穏やかな顔で何かを可愛いって言うとこ見たことないわ」
「お前、言うほど俺のこと知らんだろ」
「あ、バレた」
相変わらず人と会話することが生きがいなこの男は、俺が嫌そうな顔をしても一切構わず会話を続けてくるから見事なものではある。
「で、誰が可愛いの」
「そういうんじゃねぇわ」
「え、そういうのってどう言うことでしょうか。前提の認識合わせをさせていただけますか」
「…腐ってもコンサルだな」
「豆ちゃんには到底敵わないけどね」
ケースを振って1本取り出し、ライターを探せばすかさず向かいから差し出されるライター。
「…何」
「火貸すから喋れよ」
そのド下手くそな交渉何なの。
無視して自分で火を点ければ、真新しい燻った匂いが鼻を掠める。
しばらく2人で黙って立ち上る紫煙を目で追う。予測できない、揺らぐような動きを見つめていれば脳の疲労が少し解けていく気がする。
わずかな衣擦れの音と、革靴の踵をコツリ、と鳴らし奴の体が緩やかに動き始める。
「お疲れ、豆ちゃん」
「お前もな」
「弓家さん、悪くないと思うよ」
パァン、とバカみたいな音を立てて俺の肩を叩き、何の反論も許さないままに去って行く。
「はぁ?」
俺、そんなこと一言も言ってないけどな。
コメント
1件
# 感想 桐人side、めっちゃ良かったです…!弓家さんの「タバコのストック用意しとく」発言、ドライだけど気遣い感じられて最高にエモいし、桐人の「可愛いなあ」が人事パートナーに聞かれる流れめっちゃニヤニヤしちゃいました笑 最後の「弓家さん悪くないよ」も、言われてないのにわかってる感が沁みる〜😭💕 2人の関係性がますます好きになりました!