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𝕣𝕖𝕒𝕣
395
#ご本人様には関係ありません
あか
261
#からぴち
琉愛˚𓆩✞𓆪˙
191
2026/9/5(土) 23:27
本編について、大幅に加筆・修正しました。
全く違う展開になっている部分もありますので、ご注意ください。
兄王が身罷ったのは、雨上がりの静かな朝だった。
葬儀は国を挙げて執り行われ、王都のあらゆる鐘が、幾日にもわたって鳴り響いた。勇斗は、その喪の行列に連なりながら、ただ一つの約束だけを、胸の内で繰り返していた。
喪が明けて間もなく、戴冠の儀が執り行われた。
神殿の最奥、代々の王が戴いてきた冠が、仁人の頭上に据えられる。居並ぶ家臣たちの拝礼、鳴り響く祝いの鐘――その一部始終を、勇斗は列席者の中から見つめていた。
その夜、儀式のすべてが終わったあと、仁人は、誰にも告げずに私室を抜け出した。
冠を外し、着慣れない正装のまま、辿り着いたのは、王宮の裏庭だった。伸びた蔓薔薇の向こう、古びた木のベンチに、仁人は一人、力なく腰を下ろす。
空を厚い雲が覆い、やがて、ぽつり、ぽつりと、雨が落ち始めた。それでも仁人は、立ち上がる気力さえ湧かなかった。
仁人の様子を見に来たが、室内に姿が見当たらないことに気づき、勇斗が慌てて捜しに出たのは、それから間もなくのことだった。
裏庭のベンチに雨に打たれるまま座り込む仁人を見つけたとき、勇斗は、雨が降り注いでいることも忘れ、迷わず駆け寄った。
「――こんなとこにいたのか。濡れるだろ」
答えは、なかった。近づいて、初めて、仁人の頬が涙で濡れているのに気づく。雨のせいで、それがずっと分かりにくくなっていた。
「……勇斗?」
「ここにいる」
勇斗は、せめてと上着を脱いで仁人の肩にかけると、その隣に、静かに腰を下ろした。
「僕には、無理です」
声を震わせながら、仁人はそう零した。
「兄上みたいに、みんなを導けない。今日だって、ただ冠を被って座っていただけで……何も、王らしいことなんてできなかった」
「仁人」
「兄上は、僕に王にならなくていいって、言ってくれたのに。結局、こうなった。逃げられなかった。それなのに、僕はまだ、こんなに情けない――」
言葉は、途中で嗚咽に飲まれた。
勇斗は、その肩にそっと手を置いた。冷たい雨が、二人の髪を、肩を、容赦なく濡らしていく。それでも、どちらも立ち上がろうとはしなかった。
勇斗の脳裏に過ったのは、あの雨の夜、兄王が遺した言葉だった。
――あいつが、ただの一人の人間でいられる場所を、お前が作ってやってくれ。
これまで、幾度となく、言葉を飲み込んできた。仁人の縁談が決まりかけたときも、二人の間に流れる、言葉にならない空気に気づいていたときも。王族という立場を思えば、自分の想いなど口にすべきではないと分かっていた。
――自分の大切な人が、背負うものの重さで壊れてしまいそうなのに。
もう黙っていられなかった。
「仁人」
「……なんですか」
「お前が王らしくあるかどうかなんて、俺にはどうでもいい」
仁人が、驚いたように顔を上げる。雨粒が、その睫毛に、いくつも光っていた。
「俺は、王としてのお前じゃなくて、ただの仁人が――お前が、好きなんだ」
降りしきる雨の音だけが、しばしの沈黙を埋めた。仁人は、濡れた瞳のまま、勇斗を見つめている。
「……いつから」
「さあな。気づいたら。たぶん、出会ったときから」
仁人は、何かに耐えるように、唇を噛んだ。
「僕も……」
その先を、仁人はなかなか続けられなかった。それでも、震える声で、ようやく言葉を紡いだ。
「僕も、勇斗のこと、ずっと――」
最後まで言い終わる前に、勇斗はそっと、仁人の頬に触れた。雨に濡れたその頬は、涙よりも冷たかった。
どちらからともなく、唇が重なった。
雨と、嗚咽の余韻が入り混じる、塩辛い口づけだった。それでも、これまで積み重ねてきた沈黙のすべてが、ようやく報われたような気がした。
仁人の腕が、縋るように勇斗の背に回される。勇斗はそれを、雨ごと包み込むように抱き締め返した。
冠を戴いたばかりの王と、その国を裏切ることになるかもしれない、異国の王子。二人を隔てるはずのものは、この夜だけは、降りしきる雨の中に、溶けて消えていった。
このとき勇斗は、静かに、けれど確かに、心を決めていた。
黒色の国の王子としての自分より、この人のそばにいる自分を選ぶ。それがどんな結末を招くとしても。
雨に濡れながら口づけを交わした、この裏庭のベンチこそが、二人にとってこれ以上ないほど幸福な夜の記憶となった。
そして同時に――誰にも言えない罪の、始まりでもあった。
コメント
2件
初めまして、コメント失礼いたします。 とても美しい表現で胸がギュッとなりました、これから先の展開が楽しみです!