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駄作
#三角関係
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聞き覚えがある鈴の音にはっとして、瞳を開けて音のした方向を探る。ちりんと、また心鎮まる清浄な鈴の音が響く。その音は環の光球の向こう側。正門の横、潜り戸からだった。
よく見れば潜り戸からしずしずと。手に何かを携えた、純白の狩衣に身を包んだ小柄な人影があった。
「まさか、羽鳥帝──ッ」
小さな人影はゆっくりとこちらに近づいて来る。
光球に照らされてその姿が、はっきりと目の前に現れた。
白鳥のような白い髪に、柘榴のような赤い瞳。
凛とした佇まいは幼き帝、羽鳥帝に間違いなかった。
「は、羽鳥帝、共も付けないでどうされたのですか。いや、それよりもここは危ない。早くご退避をっ」
前に突き出していた手を、こちらへ来てはならないと、大きく横に振る。
だが羽鳥帝の歩みは止まらず。光球にも目をくれず。まっすぐに俺の元へとやってきてしまった。
そして鈴の音も止まる。
羽鳥帝の赤い瞳が俺を捉えた。神秘的な瞳に思わず言葉に詰まる。しかも、にこりと穏やかに微笑まれた。
「鷹夜殿。遅くなってすみません。正門を超えて敷地内に倒れていた五人の人達を、従者達に御所へと運ばせていました。五人の命に別状はありませんでした」
「五人……やはり環が救い出していた」
さすがは俺の妻、その事実を誇らしいと感じた。
一瞬の喜びの後に、なおさら環を早く助け出さないといけないと気を引き締める。
俺を見つめる羽鳥帝に本来なら膝を折るところだが、さすがに今はそれどころではない。
無礼かと思うが、羽鳥帝の華奢な肩を掴んで退避を促す。
「帝直々の救援。心より感謝します。ですが、まだ土蜘蛛の脅威は去っていません。どうか安全なとこに、」
お逃げください。
そう言おうとすると、肩を掴んだ俺の手に帝の小さな手が重なった。
またちりんと鈴の音が響く。
「私は『過去視』にて、何が起こっているのかを全て把握しています。私の過去視は未来以外は全て見通せるのですよ」
「!」
そうか。羽鳥帝は一秒という時間が過ぎてしまえば、それらは全て過去として捉えている。
想像を絶する強力な力。
超人と感じるが重なった手の温かさに、初めてこの方も俺達と変わらない、人だという思いを実感した。
合わさった羽鳥帝の手を一度だけ、強く握り締めてからそっと小さな手を離した。
「羽鳥帝。ではこの状況をお判りだと思いますが、今から私はこの中にいる環を助けて、土蜘蛛を倒さねばなりません」
「えぇ。それはとても難関であり、鷹夜殿の身にも危険が及びかねないことだと、《《視ました》》。だからこれを鷹夜殿に使って欲しくて、ここに来たのです」
羽鳥帝はそう言うと、ずっと手に持っていた白い包みをしゅるりと解き、俺に差し出した。
それは何の変哲もない古びた、小振りな青銅剣だった。
表面は緑青色。なんの装飾もない、骨董品の片隅に置かれていそうな素朴な青銅剣。
これを使う意味とは? 首を傾げてしまいそうになると羽鳥帝がまた微笑む。
「これは神器。|布都御魂《ふつのみたま》の剣です。神代の時代。タケミカヅチノカミによる国の平定に使われた剣。それがこの布都御魂です」
「|布都御魂《ふつのみたま》の剣……」
思いもよらぬことを言われて、言葉をそのまま返してしまった。驚きを通り越して、現実味がない。
この短刀ぐらいの小ぶりな青銅剣が|布都御魂《ふつのみたま》の剣だとは信じられなかった。しかし羽鳥帝が冗談でこのようなことは言わない。
「これは國護りの剣。人を守りたいと言う鷹夜殿にこの|布都御魂《ふつのみたま》が目覚めました。鷹夜殿の力になりたいそうです」
「剣が俺に……」
「どうかこれを持って帝都を護り、土蜘蛛の魂に安寧と……玉藻の魂と環殿を救って下さい」
まだ上手く言葉を返すことが出来ない俺の手に、羽鳥帝が|布都御魂《ふつのみたま》を手渡した。剣の柄が俺の指先に触れた途端。
剣からどくんと、まるで生きているような力強い鼓動を感じた。それは人のような熱い血潮。この剣は──生きている!
柄を掴んだ手先から途方もない、熱量が全身を駆け巡る。背筋がゾクゾクした。産毛が逆立つ。
この熱い鼓動に理屈より言葉より、この剣を持って全てを護れると確信した。
ぐっと強く柄を握る。
あとは俺の成すべきことを成すだけだ。羽鳥帝の赤い瞳を強く見つめ返す。