俺は自分の声のせいで周りから嫌われてきた。何が悪いのか全然わからなかったが、ある日、研究者を名乗る男が現われ、俺の声には特別な力があると言った、なんでも、その男の発明した機械を使えば、俺の声なら完全な催眠術をかけられるらしい。男はその機械をスマホに入れていた。
その男といっしょにやった実験は成功した。男は催眠術がかかりにくい女を用意していたが、一発で催眠状態になり、試しに服を脱がしてみたら、簡単に全裸になった。
そのまま俺は男を騙して催眠術をかけ、そのスマホを手に入れた。そこからは、このスマホを使っていろんなことを試してみた。けれど、人に見つかるとやっかいなことになる、と思って、思い切ったことはできなかった。だんだんそれがめんどくさくなってきた。
そこで俺は、この町の住人に片っ端から催眠術をかけて、町全体を催眠術の実験場にしようと考えた。ただ、これはなかなか大変だった。さすがの俺も挫折しそうになっていた。
が、そのとき、2つの幸運が訪れた。ひとつは、あの研究者の男にもう一度会えたことだ。催眠術で俺のことは忘れていたが、研究は続けていたらしい。催眠術の装置はバージョンアップしていた。
まず、これまで催眠術をかけるには、めんどうな手続きが必要だった。それが大幅に改善され、スマホでアプリを起動し、それに話しかけるだけでよくなった。そうすると、アプリがボイスチェンジャーのように、俺の声を特殊なものに変化させ、それを聞いた人間が催眠術にかかるようになったのだ。
俺はさっそく催眠術をかけ、新型の装置を研究者から奪った。
そしてもう一つの幸運は、冬休みにじいちゃんの住む田舎に行ったときに起こった。そこは小さな村で、「町内放送」というものがあった。街中にスピーカーが取り付けられており、例えば災害なんかがあったときに「避難してください」と放送するやつだ。
俺はこれを見たときにピンときた。新しい装置とこの町内放送があれば、村中に催眠術をかけられるんじゃないか、と。
俺はさっそく試してみることにした。放送室は役場にあるらしい。普通なら子どもの俺が入ることは出来ないが、催眠術ボイスチェンジャーを使えば難なく侵入できた。そしてついに俺は、野望を実現させることができた。
続く