《Layer:イレブン》の中心には、穏やかな風が吹いていた。
それはどこか懐かしく、そして温かい――まるで誰かの優しい記憶に包まれるような感覚だった。
アカネは深く息を吸い込んで、目を閉じた。
「……ここ、なんだか違うね。今までのレイヤーとは。」
アカリが微笑む。「うん。空気がやわらかい。心の中まで、少しだけ軽くなった気がする。」
ノエルは、ゆっくりと頷きながら、遠くの光を指差した。
「見て。あそこに、“芽”がある。」
三人が見つめたその先には、純白の大地の上にぽつりと浮かぶ、小さな光の芽があった。まだ弱々しく、それでも確かに生きている。
「これは……感情の“種”?」
「うん。喪失を越えた感情が、希望として芽吹いたんだ。今までは封じられていた感情が、君たちの記憶を通して形になった。」
アカネはその芽にそっと手を伸ばす。
すると――
ふわり。
光の種は温かく彼女の手に包まれ、まるで心に語りかけるように、声を響かせた。
『ありがとう。思い出してくれて。私たちは、きっともう一度つながれる――』
アカネの目に、自然と涙がにじむ。でもそれは、悲しみではなかった。胸の奥にあるものが、今、やっと形になってゆく。
「ねえ、ノエル。この世界、もしかして……少しずつ、変わり始めてる?」
ノエルは微笑んで答えた。
「うん。君たちが“感情を受け入れた”から、この世界にも変化が訪れた。これは、再起の第一歩だよ。」
アカリがくすっと笑う。
「なら、せっかくだし……このレイヤーに花でも咲かせてみない?」
三人は顔を見合わせて、小さく、でも確かな笑みを交わした。
それは、失ったものの上に、新しい未来を育てるという“希望”の証だった。