コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
20話目の内容で、震えているゼリアの脳裏でと書いてある部分がありましたが、正しくはリザードマンです。訳のわからん間違いをしてすいませんでした!!!
前回のあらすじ
カイルは街中で発狂した。
深夜。王都の街は静まり返り、石畳の上を月の光が淡く照らしていた。その真ん中を、ひとりの男が歩いている。
俺の名はカイル・アトラス。
掃除屋として働いていたが、突如「予言の男」なんて呼ばれて、騎士団長に強制的に戦いへ駆り出されるようになった。
毎日が地獄みたいだった。仲間は傷だらけ、俺も心を何度も折られかけた。
それでも歩みを止めなかった。仲間の笑顔を守るため、国の平和を守るため。
その想いが、俺を前に進ませた。
──そして今、新たな困難に俺は立ち向かっている。
「ここはどこやー!!!」
静寂を破る絶叫が夜気を震わせた。エリーゼが案内してくれていた頃は、ホテルなんて迷うこともなかった。
だが、彼女はもういない。手元の地図を睨んでも、線の上のどこに自分がいるのかまるでわからない。
「こんなとこで野宿は嫌やー!!!」
声が石壁に反響し、遠くまで響いていく。通りの角にいた二人の騎士が、顔を見合わせた。
「カイル・アトラスじゃないか?」
ウィンクで返すカイル。自信満々に胸を張った。
俺も有名になったもんだ。これからはマスクとサングラスが必須だな。
だが、騎士たちは表情ひとつ変えない。むしろ距離を取った。
「そうだとしたら離れた方がいいな。不審者のあいつを連れて行こうとしても、絶対に脅してくるぞ。なんで、あんなロクでもない奴が王宮に入れたのか、さっぱり分からない。」
「お前聞こえてるぞ!こっち来い!!」
「逃げるぞ!」
「あいつにだけは関わりたくない!」
二人は鎧を鳴らして駆け去った。カイルは地面をドン、ドンと踏み鳴らす。
「クソ!あいつら王様にちくってクビにしてやる!」
「お前はいつもそんな感じなんだな。」
声が横から聞こえた。振り向くと、ゼリアがいた。鎧を着ていて、すでに騎士として活動しているようだった。
「びっくりした。なんでここにいるのよ。」
「お前が大声を出すからだろ!まったく……最近変な事件が多いんだからこんな時間に外にいるなよ。」
「変な事件ってなによ?俺なんも知らんよ。」
「一般市民が立て続けに誘拐されているんだ。犯人の姿も目的も何も分からない。あと、魔物とモンスターの動きも活発だ。冒険者の仕事がとても増えているが、お前じゃ対処できないからクエストは受けない方がいいぞ。」
「なんやと!?俺の新装備があれば無敵や!!」
「なんだ新装備って」
ゼリアの眉がわずかに動いた。カイルは得意げにバッグを開け、銀の装飾が光る大剣を取り出した。
「これや。かっけぇやろ。いくらしたと思う?」
「お前は金額でしか物を判断できないのか。」
「1000大金貨もしたんだから、いい武器に決まってるだろ!!適当に振っただけで小屋破壊しかけたんだぞ!!」
「ちょっと待て。大金貨1000枚だと?その金はどこで手に入れたんだ?」
「女の子に払ってもらう予定。」
「ついて来い。騎士団の取調室で話をするぞ。」
「なんでや!?俺悪いことしてないぞ!!」
「嘘をつくな!大金貨1000枚を負担させるってどう考えてもおかしいだろ!!」
「本当だわ!エリーっていう女の子が俺のことだました罰として、大金貨1000枚払ってもらうことになったんだよ!!分かったか!!」
「その武器を売った店はどこだ?直接確かめるしかないようだな。」
「真実はなんとかっていう店だよ。すっげぇ高級なとこだったわ。」
「まさか『真実の誓い』か?あの店は会員しか入れないはずだが……エリーっていう女性は相当な実力者だな。お前みたいな奴がその人とどうやって知り合ったんだ?」
「ナンパしたのよ。金貨1000枚持ってるって言ったら、すぐに食いついてさ。金にすぐ食いつく女はダメだね。勉強になったわ。」
「……まぁ後で確認すれば分かることか。確かホテルの場所が分からないんだったか?私が案内するからついてこい。」
「なんで俺が迷子だって分かったの?」
「お前の叫び声が聞こえたからだ。早く行くぞ。」
二人はホテルへと歩いていく。
「ゼリアも一緒に泊まる?部屋広いからさ、二人でも大丈夫だと思うんだけど。」
「あまりふざけていると、ぶっ飛ばすぞ。」
「ちぇ。今日は勇者と付き合えたし、ゼリアもいけると思ったんだけどねぇ。俺は諦めないぞ!!」
「もうこれ以上喋るな。最近、お前の悪い噂が広まっているから、あまり変なことは言わない方がいいぞ。」
「どうせ嫉妬だろ。そんなん気にしてる余裕はねぇ。」
「……そうか。これ以上言わないことにする。」
二人の影が並んで伸びる。夜風が吹き抜け、街灯の火がわずかに揺れた。
ゼリアがふと足を止める。中央に、黒いフードを深く被った二人組が立っていた。
「あの方がカイル・アトラス様か。」
「間違いない。連れていくぞ。」
言葉と同時に、二人は動いた。ひとりは短剣を抜き、もうひとりは弓を構える。
空気が鋭く裂け、月の光が刃に白く反射した。
襲いかかる二人の気配を感じ、ゼリアは即座に剣を抜いた。
「ここは私が引き受けるからお前は先に逃げろ!」
声に焦りが滲むが、背後から返事はない。振り返ると、カイルはすでに靴を最強ブーツに履き替え後退していた。
「気にするまでもなかったか。」
息を整え、視線を前に戻す。短剣を構えた男が、低く笑みを浮かべて迫ってきた。
金属が弾ける音が空気を裂く。剣と剣が噛み合い、火花が散る。
「お前獣人族か。生贄に相応しいな。」
男は数歩引き、フードを脱ぎ捨てた。汗と血に濡れた顔に、歪んだ笑いが貼りついている。
「お前が誘拐犯なのか」
ゼリアは踏み込み、迷いのない斬撃を繰り出す。
「一式・立風」
刃が通り抜けたが、手応えがない。
「こっちだよ、ざーこ!」
背後。気配を読んで反射的に剣を振るい上げた。金属音が空に跳ね、首筋を狙った短剣が逸れる。
「雑魚をいたぶるのは楽しいなぁ!苦しんでる顔を見るのが楽しみだ!」
下卑た笑いが耳に残る。ゼリアは表情を変えず、呼吸を整えた。視界の端に、弓を構える影がないことに気づく。
「早く俺を倒さないと仲間が連れ去られちまうぜぇ?」
男が地を蹴る。砂が散り、距離が一気に潰れた。
「二式・断獄」
「その剣術はもう全て知ってるんだよぉ!」
短剣の切っ先が唸る。しかしゼリアの剣は違う軌道を描いた。彼女が放ったのは「断獄」ではなく、再びの「立風」。男の体がわずかに傾き、ギリギリで回避する。
「雑魚のくせに少しは頭を使えるようだな。」
「お前は油断しすぎだ。そんな実力でよく、王国に喧嘩を売れたな。」
「粋がるなよ雑魚が。」
男が短剣に魔術式を展開する。紫の紋様が浮かび、緑の液体が滴り落ちる。
「ポイズンエッジ」
風が湿り気を帯びた。毒の匂いが鼻を刺す。
「お前は俺の毒に耐えられるか!」
踏み込んで鋭い突きが放たれる。ゼリアの剣がそれを受け止めたが、刃の根元から煙が上がる。刃が段々溶けていった。
「ヒッヒッヒ。お前の武器は使えなくなっちまったな。どうする?跪いて許しを乞うなら、腕一本で勘弁してやるけどよ!」
男がゼリアの腕を狙って振り下ろす。だが手応えがなく、虚空を切った。
「後ろか!」
ゼリアは体を捻り、男の手に剣を叩きつける。肉が裂ける感触と共に、短剣が転がった。
「生贄にするには惜しいな。どうだ、俺たちの仲間にならないか?」
「なるわけないだろ。」
「ユグドラに入ればすぐに強くなれるぞ。お前は良い才能を持っているから上に気に入ってもらえるはずだ。」
「そんなのはどうでもいい。お前らは何が目的でこんな事をしているんだ?」
「それを最初に言えば良かったな。俺たちの目的はーー」
言葉が途切れた。真上から影が落ちる。銀の髪が月光を弾いた。
「ぐあ!」
拳が落ちる。男の頭が地面に叩きつけられ、石畳が割れた。現れた女はすぐに毒の剣を拾い上げ、指を鳴らした。すると魔力でできた鎖が現れ、男の体を縛る。
「邪魔してごめんなさいね。」
その声を聞いた瞬間、ゼリアは誰かを悟った。
彼女の名はジーナ。ソロでA級まで上がった、結界術の使い手。
「いえ、協力ありがとうございます。」
「いいのよ。あと、これあげるわ。」
ジーナはポーションを渡す。ガラス瓶の中の液体が淡く光る。
「貴方良い才能を持っているわね。コピーの才能は獣人族の中でも特殊な方だと思うけど、特別な出身なのかしら?」
ゼリアは下を向き、何も言わない。
「言いたくないなら別に良いわよ。あなたはこの男を牢屋に連れて行きなさい。」
「分かりました。」
男を抱え、走り去っていった。
一人になり、ジーナは静かに息を吐いた。
「あともう一人いるって言ってたわね。」
地面に魔力を広げ広範囲の魔力探知を展開する。
「見つけた。」
空気が揺らぎ、その場から一瞬で姿が消えた。
辿り着いた場所には、弓だけが残されていた。強い魔力が残滓となって漂っている。
「どういうこと?」
周囲を見渡そうとした時、横の路地から女の泣き声が響いた。
「ごめんなさい!二度としませんから!もう許してください!!」
角を曲がると、騎士たちとカイル、そして布を巻かれた女がいた。
「正当防衛だって!弓で襲ってきたから仕方なく裸にしただけだよ!!別に見たくてやったわけじゃないぞ!!」
騎士たちは硬直し、視線を交わす。
「どういうことだ!?意味が分からないぞ!!」
「最近仕事が多すぎて寝れてないからかな、今の言葉がまったく理解できない。」
「安心しろ。今のを聞いて理解できる人間は一人もいないからな。」
彼らの顔には混乱が広がっていた。だがカイルの背後には、王と団長、ゼルフィアの名がある。だから強く問い詰めることが出来なかった。
裸の女が泣きながら訴える。
「もういいんです!私が全部悪いんです!早く牢屋に入れてください!!」
「ほらそう言ってるじゃん!最近俺の扱いがひどいぞ!この子は俺が連れていくからそれで勘弁してやるよ!」
「ダメに決まってるじゃないですか!また裸にするつもりなんでしょ!」
騎士の声にカイルが荒げた。
「いいじゃねぇかよ!こいつ悪いやつなんだしさ!女に騙されたばっかだからイライラしてんだよ!!」
騎士たちの顔が歪む。もう止めようがない。そこに、ジーナが一歩踏み込み、カイルと騎士の間に割り込んだ。ジーナの拳骨がカイルの頭に落ちる。彼は頭を押さえながらジーナを見つめた。
「さっき会った子ですやん!」
騎士たちは驚愕し、恐る恐る声をかけた。
「ジーナ様がなぜこんな所に?」
「気にしないでいいわ。あなた達は早くこの子を連れて行きなさい。辛かったよね。でも、もう大丈夫だよ。」
「ありがとうございます!ありがとうございます!もう二度と!二度とこんなことはしません!!」
女は泣きじゃくりながら何度も頭を下げ、騎士たちに連れられていった。
「なんであの子が可哀想ってなるんだよ!俺さっきあの子に弓で襲われたんだぞ!!」
「そうかもしれないけど、お前の性格を知ってる人からすれば可哀想だなんて微塵も思わないわ。」
「もうええわ!早く帰ってやる!!ちくしょー!」
カイルは怒りを地面にぶつけるように、荒々しく足を踏み鳴らした。
だが十歩も進まないうちに立ち止まり、頭を掻きながら振り返る。
「……あの〜すんません。近くのホテルまで案内してくれませんか?」
唐突すぎる態度の転換に、ジーナのこめかみがぴくりと動く。
「は?」
「そんな強く言わなくてもええですやん。案内してくれたら、ほら、一金貨あげるからさ。」
「あなた、まだそうやって人を誘ってるのね。」
「誘うわけないだろ!なんでお前みたいな生意気な女を誘わなきゃいけないんだよ!俺はね、優しくて可愛い女の子が好きなんだよ!!」
言い切った瞬間、乾いた音が夜気を裂いた。ジーナの平手が、綺麗にカイルの頬を捉えていた。
「本当最低!! もう二度と会いたくない!!」
ジーナは振り返らず、髪を揺らして去っていく。残されたカイルは呆然と立ち尽くし、痛みで膝をついた。
「今のビンタ……どっかで食らったことがあるような……気のせいか?」
頬を押さえながら呟くと、背後から声がした。
「カイルじゃないか。こんなところでどうしたんだい?」
振り向けば、優しい笑みを浮かべたクインツが立っていた。カイルは差し出された手を掴んで立ち上がる。
「クインツやん。ちょっとさ、ホテルまで案内してよ。」
「ちょうど僕も戻ろうと思っていたんだ。」
二人の足音が、石畳に小さく響く。夜風が冷たく、街灯の光が伸びた影を細く揺らしていた