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「一見人当たりが良さそうでいて、実際には他人の感情を思うように動かして、利用してるだけですからね。しかし中途半端なのですから本当に滑稽です」
「えっと……?」
「使うだけならば便利なんですが、育てようと思うと話は別で」
相槌さえも何が正解なのかわからず、また正体のわからない恐怖心とで。
真衣香はひたすらに高柳を見ていることしかできないでいた。
前にこうして話した時は、小野原の一件で呼び出された時だった。
立場的に恐れていても当たり前だったし、疑問もなかったが。やはり、高柳という人物そのものが真衣香は怖いようだ。
「中間管理職は、経ていけなければならないものですが。まあ、その時点で坪井は無理でしょうね、今のままだと」
「そ、それは……えっと」
「どれだけ有能でも、人がついて来なければ意味がないのでね」
高柳の言葉から意図が掴めないので、返す言葉も見つからないまま。焦る真衣香に救いの手は訪れた。
「お待たせいたしました」の声により、会話は一旦途切れてくれたから。
見れば、続々と注文していた料理が運ばれてきて。テーブルの上を埋め尽くしていく。
アボカドとマグロサラダ。菜の花とトマトソースのピザ。野菜スティックや綺麗に盛り付けられたローストビーフの大皿。暖かそうに湯気がたっているスープもあった。
高柳が「どうぞ食べてください」と料理を指したが。しかし真衣香は軽く頷くだけで、どうにもフォークやお箸に手を伸ばす気分にはなれなかった。
(お、おいしそうなんだけどな……なんか、お腹空かないよね。さすがに……)
代わりに、料理と同時に運んできてもらったスムージーに手を伸ばす。
爽やかな甘味が口の中で広がり、ホッとしたのも束の間。
「君は、坪井のどこに惹かれていたんでしょうか」
その一言で、急激に口の中の甘味が消えてゆく。と、いうのは大袈裟かもしれないが。味を感じる余裕がなくなってしまったのだ。
「まあ君は、永遠に気付きそうにはないですけれど。暴き、捩じ伏せて、依存させる恋愛は愉快だとは思いませんか」
「ちょ、ちょっと、ごめんなさい。よくわからないのですが……」
ちっとも愉快だとは思えない単語に顔を引き攣らせていると。微笑んでいた高柳の瞳が開かれて、そんな真衣香を映す。
「なるほど、怯えた顔は可愛らしいですね。ああ、気付かないだろうと前置きしたので、わからなくても全く問題ありませんよ」
「……は、はい」
「そういった楽しみ方をしているのか、いないのか。単純に興味があっただけです」
その後、暫く無言が続いてしまい、居心地の悪い真衣香は何か動いていたくて。小皿にサラダを取り分け高柳の方にもそれを置いた。
「ありがとうございます」と、声がしたけれど、顔を上げることはできなかった。
しかし次に聞こえてきた声は、少し違った。
「立花さんが認識していたものが、ごく一部だったとは、思いませんか?」
だから、思わず上を向いてしまう。
これまでを機械的だと例えるのであれば。確かに何らかの感情を含むものに変化していたから。
「……え?一部、ですか?」
「そうですね、一部です。人間には他人に、敢えて見せていたい角度がありますから」
高柳と会話したことは少ないが……彼の言い回しは、いつもどこか難しく、考えるよう仕向けられている気さえする。
そうであるならば理解したいのだけれど、高柳は真衣香の反応を待たずに、話を続けてしまう。
「俺は自分の損得でしか動かない人間ですが、あれは少し違うとは思います」
「……坪井くんのことですか?」
聞くけれど、高柳は肯定も否定もしない。
「暴いてみたいと、君が思ってくれるように願ってますよ……と、ここまでですね」
「え?」
ここまで、と。袖口からチラリと覗く、シルバーの腕時計を見て唐突に言った高柳は、料理に手をつけ始めた。
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